1話-2 渋谷は熱と欲望の地獄

情報を抱えて、俺は渋谷の裏エリアへ向かった。

そこにいるのは、俺の相棒、篠原賢(シノハラ ケン)。

引きこもりの天才ハッカー。渋谷の監視カメラも、地下サイトも彼の遊び場だ。


「また事件?」と賢はモニター越しに笑った。

「このログ、見てくれ。」

詩織のPCのアクセス履歴を突きつける。


数分後、賢は目を細めた。

「物理的には詩織さんのPCから。でも通信経路が変だ。

 誰かが“彼女の機器を踏み台”にしてる。」


賢の解析に限界が見えた。

「これ以上はネットだけじゃ無理…」


俺は渋谷の裏通りに出た。

居酒屋、カフェ、元スタッフの噂。

黒川がクビになった直後に高級時計を買い、すぐ質に入れた――そんな話を拾う。

別のカフェでは「黒川、イベント潰すと儲かる商品があるって笑ってた」と。


俺はその断片を賢に投げた。

すると賢の指が止まり、声が低くなった。

「……繋がった。黒川は横領で手にした金を、“イベント中止で儲かる投資案件”に注ぎ込んでる。

 つまり、復讐と金儲けの二重構造だ。」



夜。俺はフェス事務所の裏に潜入した。

黒川が高そうなワインを片手に笑っていた。


「いい気分だな、元社員さん。噂を撒いたのはお前だろ。」

「証拠は?」黒川は笑う。


俺はスマホを差し出す。

そこには――詩織のPCに細工する黒川の映像。

横領金の流れ。証拠の山。


「……終わりだ。諦めな」


だが通報しようとした瞬間、ドアが開いた。

現れたのは五十嵐隼人――渋谷裏社会を仕切る男。


「お疲れ、アオイちゃん。」

「五十嵐……!」


五十嵐は俺のタバコを吸い、淡々と告げた。

「お前の仕事は“真犯人の特定”だ。そこまででいい。」

「待て、警察に渡す。」

「法じゃ、金も面子も守れねぇ。」


黒川を掴み、連れて行く五十嵐。

その背中に、俺はただ煙草の火を落とした。


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