言葉を聞き、言葉を届けろ――自己否定の鏡を割る短編

匂いがある。血と鉄、体液の混ざる現実。読む側の呼吸が変わる。
骸を見下す声は、同じ口で自分を刺す。
「僕が立っていた」の一行で世界が反転し、倫理も姿勢もひっくり返る。
〈死にたくない〉は叫びではなく残響。冷えていく体温の中で、最も人間的な一語だけが遅れて届く。

題「うわがき」が効いている。塗りつぶしても下層は滲む。匂いは消えない。
説教は快楽に変わる――その危うさを、最後の命題が縫い止める。
「言葉を聞き、言葉を届けろ」。救いではなく、務めとして。だから刺さる。

短い。強い。推します。

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