遺書

カエデ

最期の一枚

この社会は小さな比較と大きな比較が組み合わさって出来ている。

もうそんな縛りに疲れてしまった。もう誰からも比べられたくない。

マンションの一室で私だけ。

残り少しのパンと無数の白い紙。あるのはただそれだけだ。

私はただひたすらに書き続ける。もう私は疲れてしまったから。

三切れの食パン。私の寿命だ。

なぜ私は文字を書いているのか分からない。社会から逃げ出した。それなのに私は今一切れのパンを齧りながら私の事を書いている。この無数の紙に私は私を遺そうとしている。

誰にも見られたくない。私がバレれば比べられる。それなのに私は私を知って欲しいらしい。

私の寿命はもう二切れもない。ただひたすらに文字を書く。

この無数に書いた紙は私自身だ。それでもパンを食べ終われば私は終わる。私が終わって私が知られても比べられるのはただの文字の羅列だ。今私はパンを頬張っている。

あと一切れ。

白紙の紙は無数にある。それでも私は沢山の私を書いた。思った。写した。私を知ってもらうために。私が逃げ出すために。

最期の一口。それを私は今口に入れている。これが私の綴る最期の言葉だ。これで私は居なくなる。この社会に私を遺して。


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