第2話
ううん……と唸る私。
頭が痛い。
――頭?
あれほど銃弾を浴びたのに、頭痛で済むとは。
高い会費を払ってジムに通った甲斐があったというものね。
あぁ……喋り方が変わったのが気になる?
あれはよそ行き。仕事中の喋り方よ。
私、色々とキャラを使い分けるの。
お嬢様や、クールや、ツンデレなんかもできるわよ。
どれがお好み?
そんなくだらない冗談を口にしながら、私は目を開けた。
そこは森だった。
どこまでも深い緑。幹の太い木々に苔と蔦が絡みつき、幾世代もの息を感じさせる。
湿った空気。鳥の声。風の匂い。
私は石を積んだ祭壇のような場所に腰を下ろしていた。
肩にはいつものコート、スーツにタイトスカート。
タイツに伝線一つない。死後も身だしなみ完璧とは、さすが私。
見上げれば、
その目に、僅かな光が宿っている気がした。
ここはどこ? 私はヴェロニカ。
死後の世界? 地獄にしては日差しが暖かい。
空気も柔らかく、むしろ天国のようじゃない。
あぁ、なるほど。
神様もわかってらっしゃる。
私の行いは世界のため――公共の安定を保つための経済活動。
決して私利私欲でやったことでは無いわ。
……本当よ?嘘じゃないわ。
一度も教会に寄付した覚えはないけれど、
寛大な判断をしてくださるとは恐れ入ります。
もし機会があれば、神様にもぜひ。
私のおすすめのお薬を、純度高めでお送りいたしますわ。
効き目は――天にも昇るほど、であると保証します。
なんて……居もしない相手に、高い商品をタダであげたりするわけないだろ。
ふざけんな。金、持って来い。
つまり、銃で楽に殺すつもりではなかったということでしょうね。
もっと……苦痛を与える。そのつもりなのね?
どこかはわからない。けれど、人気のない場所――。
そこに、スタイル抜群で美しい私を連れてきた。
憎い女を、連れてきた。
後は、お察しでしょう?
その証拠に、ほら。
目の前には、狼藉者たちがいるじゃありませんか。
……え?
あの……それは。
何かの冗談かしら?
三人。数はちょうどいい。
暴れたときの対処も楽そうだ。
武器も持っている。
使い慣れたものが、結局いちばん。
短刀――良い選択。
斧――少し趣味が悪いけれど、許しましょう。
杖――……え?
狼藉者たちの“道具”は、どれも妙に特徴的だった。
だけど──その非常識な背格好を直視できないわ。
いけない。見たくないものから目を逸らすなんて、
私は、はっきりと見た。
その三人の姿を。
狼藉者、というには――あまりに、おかしすぎた。
目の前の女は、両手に二振りの斧を構えていた。
二刀流。なるほど、迫力がある。
けれど女の力で、それを振り回せるのかしら?
革鎧まで着込んで――時代劇の趣味でもお持ちなの?
あぁ、いや。
よく見れば、頭に犬──いや、狼の耳。
腰からは、ふさふさした尾が垂れている。
……なるほど。
そういう趣味ね。コスプレ、というやつ。
でも、まあ。カワイイわ。似合っている。
とても、よく似合っているのよ? ただ――少し、趣味的すぎない?
……待って。
今、尾が……動いた?
その横には、短刀を構えた長身の女がいた。
うん。素晴らしいわ。筋肉と脂肪のバランスが見事。
グラマラスで、引き締まっていて――実に、そそる身体ね。
ピッチリした服で全身を包み、視線の置き場に困るほど魅力的。
頭には一対の羽根のようなもの。
フクロウ? ミミズク? あの飾り羽みたいなやつね。
……まぁ、いいでしょう。個性的なアクセサリーですこと。
ただ――下半身は、少し衝撃的だった。
丈の短いホットパンツ。スタイル的には完璧。
だけど、その下に見えたのは……羽毛。
太く、逞しい猛禽の脚。鋭い爪で地面を抉るように立っていた。
う、うん。すごいわね……。
特殊メイクかしら?
でも、仕事をするなら落ち着いた服装をおすすめしたいところよ。
いえ、ほんとに。
えっと……その、最後に三人目。
杖を構えた彼――いや、彼女かしら?
杖は歩くためのものじゃない。
先端には宝石のような光が灯っていて、どう見ても“魔法使い”そのもの。
ローブ姿まで合わせて、
まるで遊園地のパレードに出てくるマスコットのようだった。
可愛らしいわ。
グッズが出たら、ひとつ買ってしまうかもしれない。
机の横に飾っておきたいくらい。
それに、お顔もキュート。
まるで本物の猫ちゃん――ただし、比喩ではなく。
鼻先にちょこんと眼鏡を掛け、頬は柔らかい毛で覆われている。
耳はピクピクと動き、表情も豊か。 おヒゲもバッチリ。
四つ足が無理やり立ったような不自然さもなく、しっかりと二本の足で立っていた。
……ええ、もう認めるしかないわね。
──猫人間。
そうとしか、言えなかった。
意味不明な三人組。
荒事をするにしても、キャラクターが立ちすぎている。
……えっと? あなた達、そういうブランディングなの?
市場が飽和して、差別化のために見た目重視になった感じかしら。
まあ、いいわ。
面白い人たちね。
今度、仕事を依頼するから――連絡先を教えてくれないかしら?
「こいつ……人間か!?」
犬耳の女が叫ぶ。
「獣王様復活の儀式……失敗したというのか」
鳥脚の女が続く。
「あれだけ魔石を使ったのに……そんな、失敗なんて……!」
猫人間が愕然とした声を漏らした。
――そうか。異世界ってやつね。
うん、理解した。コスプレイベントではなく、異世界転生。
私の推理、たぶん当たってる。
暇つぶしに日本の『manga』を読んでいてよかったわ。
あれ? でも、女神様とかでてくるんじゃなかったかしら?
ヨボヨボの爺じゃなくて、可愛い女神様。
『チート・スキル』も貰ってないわ。
言葉が通じるのが、ソレなの?
なんか、つまらないわね。
もっと……魔法だとか、なんかをくれないの?
ま、いいわ。考えてもコストに見合わない。
それに、驚いた三人が勝手にペラペラ喋ってくれる。
これ幸い。情報収集の手間が省けるじゃない。
未知の市場に来たなら、まずは調査。
――経営の基本よね。
なるほど、なるほど。
大体わかったわ。
彼女たちは――
見たところ全員女性だけど、まあ“種族名”ってやつね。
私達の世界だと、炎上しそうね?
でも、異世界だから大丈夫ね。
……大丈夫……よね?
……あぁ、そうそう。猫ちゃんは男の子みたい。
声が可愛いのに、口調が妙に落ち着いてるのよね。
ごめんなさい、つい気になって。話を戻すわ。
要するに、この世界では『人間』が『獣人』を支配している。
彼女たちは人間の支配に反発するレジスタンスに加入していた。
でも数が少なすぎて、あっけなく壊滅。
生き残った三人が、駐屯地から“魔石”を持ち出してこの祭壇に来た。
なんでも、獣王様が休憩した場所という伝説を遺すために作られた祭壇だそうよ。
そこで――獣人の神、獣王を復活させようとしたらしいの。
……神頼み、ね。
終わってるなぁ。それが私の率直な感想よ。
ま、あくまで会話の端々からの私の推測だけど。
もし後で矛盾しても、そこは気にしないこと。
――はい、ヴェロニカお姉さんとのお約束。
わかったわね?
ふむふむ。中々大変みたいね。
三人組は、何やら真剣に話し合っている。
――あれ?
なんで、私を見てるの?
はは〜ん……なるほどね。
私の魅力に気づいてしまったのね。
まったく、困ったわ。罪な女でごめんなさい。
……あの? そうよね?
「とりあえず、人間は殺しておくか」
――雑ッ!!
雑すぎない!? 何よ!その結論は!?
せめて、会話しましょう?
好きな食べ物とか、初恋の思い出とか、自己紹介の時間ってあるじゃない?
え、ちょっと……。
なんで武器を構えてるの?
その目、怖いわ。
お姉さん、ちょっと……本気で怖いんだけど?
殺されたばかりなのに、また殺されるなんて……
冗談じゃないわよ?
──続く。
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