魔法の色

あおじ

魔法の色①


 黒澤くろさわ 黒子くろこ。そんな冗談みたいな名前が私の名前である。

 こんな珍名が目立たないわけがなく、幼い頃からそれはもう散々に弄られた。

 "まっくろくろすけ"に"黒子ホクロちゃん"なんて悪口あだ名はまだかわいい方で、嫌で嫌でたまらなかったのは"お葬式"。そう呼ばれることは大変屈辱的で、そして悲しかった。



 自身の名をずっと恨みながら生きていたある日──それは確か中学2年生の頃だったと思う。

 新任の美術の先生がこんなことを言った。


「黒は魔法の色なのよ」


 黒は魔法の色、その響きが私にはとても素敵に聞こえた。だって"魔法"だなんて、ファンタスティックでロマンティックじゃない。"お葬式"とは大違い!


「黒はね、強い色。黒は他の色を簡単に塗りつぶして消してしまうけど、他の色からはなかなか塗りつぶされることはない。だから黒は絵を描く時には慎重に扱わないとならないの。絵の印象をがらりとかえてしまう魔法の色だからね」


 黒は強い色、それも私に自信を持たせた。

 黒は魔法の色で強い色……その言葉を思い出すと私は勇気と元気が溢れてきた。

 こんな冗談みたいな名前も悪くない、そう心の底から思えたのだ!

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