強制お披露目会
「お嬢様、準備は出来ておりますか?」
「まだ」
「入ります」
「!?」
夕方の自室で舞踏会用のドレスに着替えて、ミモザの急かす声に返答する。着替えなぞとっくに終わっているが、ただ行きたくない。ドレッサーにうつ伏せになって、反抗してみるも届かず。
そう、今日は私がお披露目される日である。一週間ほど前に来た本家からの連絡に、お披露目会の連絡も付いていたのだ。いらない。本当に要らない。
「主人がまだって……」
「……終わっている様にしか見えませんが?」
「はい……」
何やってんだコイツ、と言わんばかりの目を向けてくるミモザに負けじと、嫌!という意思を向ける。溜息を吐かれた!ダメそう。
こんなに嫌なのにはもう一つ理由がある。本家のバカ、最初は公爵家じゃなく一代貴族の娘で出ろって指示を付けてきた。アホすぎ。
「お嬢様」
「なに?」
「薄紫色が、貴女にはよく映えますね」
「そうかな?」
「紫星のように美しい。心から、そう思います」
「あらそう。ま、悪い気はしないわ」
元男であるが故に複雑だが、ぶっちゃけ私はゲボ可愛い。切れ長ながら大きい目、整ったバランス。後はもうちょい身長が……。周りが高すぎるのよね。
ミモザも思わず褒める程だ。因みに紫星ってのは存在しないが故に、美しい星とよく神学界隈で言われる奴。口が上手いねぇ。
「……行きますかぁ」
「外にロブが待っております」
「じゃ、行ってくるわ」
「お戻りをお待ちしております」
ん、っと適当に返しながら外へと向かう。少しだけ乗せた装飾類が非常に歩きにくい。ダルすぎ。髪とメイクも崩さないように歩かなきゃダメなのヤバすぎでしょ。
贈答品関連はもう向こうに送ってるし、別に持ってく物も特にないのよねぇ。本とか持ってっても、馬車の中だと酔っちゃうし。まいいや、手ぶらで。あぁいや、招待状がいるわ。ボケ過ぎてるな……。
「お嬢様、漸く来られましたか」
「ミモザに蹴り出されたわ」
「それは……何というか」
「冗談よ。準備は?」
「完了しています」
屋敷の前に来ている馬車に乗りながら、行程をロブから聞く。外装も内装も大丈夫そうね、木の質も処理も悪くない。ま、今回は隠しヒロインの立ち位置らしく、自由にしていいとの事。じゃあ寝ててもいいっすか?ダメか。
「半刻程で到着します」
「護衛は?」
「直衛五人で囲みます」
「なら大丈夫そうね。出して」
「はっ!」
出せ!と外から聞こえてすぐ、馬車が動き始めた。三十分か……お尻が痛いなぁ。
取り敢えず五人が守ってくれるから死ぬことは無い。ロブを筆頭とする彼らは、フェロアオイ公爵家でも精鋭の部類なのだ。魔力によって作られた武具で完全武装の騎兵、魔甲騎兵。冒険者ランクの高位連中でも普通にやりあえるぐらいには強いのだ。これで死んだら運命よ。
今回は私が一番上、まぁ中央の公爵家なんて七家しかないし。しかも父上は国の法務卿、現代で言うところの司法長官って感じ。これが家柄チートちゃんですか?力くれよね、生まれよりも。
「……お嬢様」
考え事をしていると、窓側に乗馬したままのロブが出てきた。
「どうした?」
「右奥に松明の影が見えます。左の岩裏には魔力反応」
「対処は?」
「右奥を二名で破壊、残りはこのまま突破」
「異論無し、任せた」
「了解しました」
そう言って離れていくロブ。戦闘前の雰囲気、ちゃんとおっかないのよね。でもま、負けはしないでしょ。どうせ右が陽動で、左の魔法使いが本命の奇襲。舞踏会の案内を何処かから聞いて、汁を啜りに来たんでしょうね。私たちを引くってのは、運が無かったわね。
ドガガッ!っと二人が音を立てて右奥に突っ込んでいく。慌てた敵、やっぱり野盗ね。ささくれだった弓を数人が構え、二人に矢を放つ。中盾を前に構えた二人は無視して進む。矢がガギィン!と高い音を立てたが、刺さるどころか跳ね返されていた。見るや否や、全力で逃げ出す野盗。追いかける騎兵。あ~あ。もう終りね。
左側はすっかり出て来られず、沈黙している。どうするかと思っていると。
「お嬢様」
「終わった?」
「はい。左はどういたしますか?」
「他は?」
「気配無し」
「なら無視、進みましょう。ご苦労だったわ」
「勿体なきお言葉です」
血濡れのロブに返しながら、またぼんやりと馬車に揺られだす。前途多難ねぇ。ま、ここギリ他領だから義務無いし。相手が逃げちゃったでいいんだよ。多分。
──────そこから十分程度馬車に揺られ、気がつけば主催のローデン侯の邸宅へと着いてしまった。どうやら本当にお披露目されるらしい。
「……招待状はお持ちですか?」
「どうぞ」
「確認いたします。……ソフィア様ですね、お通り下さい」
「ご苦労様」
無事に敷地内へと通され、駐車場の区画へ向かう。駐車場は無事、混雑であった。荷下ろし駐車、人移動となんでもござれの混沌空間。
「どうします?」
「話、通してくるわ」
馬車を降りて、区画入り口の守衛に話し掛けようと近づく。
「どうされましたか?」
「これ持ってるんだけど、上から聞いてない?」
「……少々確認して参ります」
「馬車に戻ってるわ」
「承知いたしました」
はぁ、と溜息をつきながら馬車へと戻る。しばらくロブたちと話していると、一人の男が息を切らせてこちらにやって来た。
「大変失礼いたしました!」
「気にしてないわ。裏でいい?」
「勿論です!こちらへ、皆さんどうぞ」
最初に話しかけたやつとは違って少し豪華な装い、ここの部隊長かな?それなりにVIP扱いはしてくれているらしい。プレッシャーと安心が半々ってとこかな。
裏口から中へ、ロブ達とはここでお別れ。ま、ここで殺られるって無いでしょ。なったら主催者は一家皆殺しでしょうね。だから安心!はぁ。
今回はサプライズゲストみたいな感じで、そもそもはここ一帯の貴族子どもが集まる、お披露目会だそうだ。パンダ扱いみたいで笑うわね。
「リッゼル伯爵殿、お久しゅうございます!」
「……男爵殿!息災か!」
「わたくし、ゲーセ子爵の娘ですの!」
「お……僕は、ズドラ男爵の息子です」
会場に入ると、様々な人々が談笑していた。楽しそうで何より。私より上はいないから楽で助かるわぁ。
早速会場の隅でゆる~く果実ジュースを嗜みながら、食事に手を出す。……別に不味くないけど、ウチの料理の方が百倍美味いわね。贔屓じゃなくて。
「もし、お嬢様」
「如何されましたか?」
ほら、早速声を掛けてきた。これ面倒なのが、サプライズオープンまで正体明かせないのが怠いのよ。にこやかに応対してやるけど、なんすか。
服の仕立て、髭、調髪、所作。子爵程度か?多分。しかも若いな、十五ってとこか?私は少し早めの筈だし。
「美しいお嬢様、お名前をお伺いしても?」
「ソフィアといいます。ギジレン男爵家の娘ですわ」
「それは素晴らしい!私はホリック子爵家の長男、ハンフリーです!」
ふん!と胸を張って挨拶してくるハンフリー君。そうか、元気そうでいいね。後君、男爵って聞いた瞬間エロい顔するのやめな?私も悲しくなってくるからさぁ。
「よければ一曲、踊りませんか!?」
グイグイ来るなぁ。嫌いだ。
「お食事を頂いたばかりで動けなく……」
「動けばお腹も減ります!大丈夫です!」
おい、お前今、谷間覗いたろ。お腹をさする動作の為に下を向いたのが仇になったか。これだから若い男は……。踊ったらケツ触られそうだし、断ろ。
多分周りに監視がついてるだろ。見回すと、こちらを見ているメイドが数名。ウィンクを送ると、早歩きでやって来てくれた。助かる。
「随分と、ソフィア様の顔色は悪くございます」
「そ、そうか」
「侯爵様より、無理は止めさせよとのご命令です」
「……すまなかった。ソフィア嬢」
「また機会があれば是非、お願いしますわ」
漸く一難が去った。綺麗な見た目って別にいい事ばっかりじゃないんだよなぁ。むしろ持ってる側からすると呪いやぞ。
また人が消えたので、何となく部屋を眺める。シャンデリアとか広間の青基調なのはいいけど、金のシャンデリアは色彩的に微妙じゃない?ま、いいか。
「貴女、男爵の娘?」
「はい、仰る通りですが……?」
「アタシは子爵なの!凄いでしょ!」
「そうですね……」
凄いガキみたいなのが来た。十超えてるよね?流石に。いやアレか、子爵が思ったよりネームバリュー高すぎて自慢したくなった奴か!
「お父様は領主で、お母様は補佐をやってるんだから!」
「それは、凄いですね」
「でしょ!」
いい子そうだ。でも私の父はこの国で法務卿って大臣で、母はバリバリの領地管理やってたりするんで……。騙すような形になってしまってすまない。これバレたら侯爵の面子壊しちゃうから言えないのよ。
「お友達になってあげる!ソフィアって言うんでしょ!」
「その通りです。貴女は?」
「ミリゼ・フィッツァー・エデロルよ!よろしく!」
「はい、よろしくお願いします」
信じられない格差の友人が出来てしまった。まぁ、お披露目前の時間稼ぎにはなるからいいか。適当に話聞いて過ごそ。
「エデロル領はね!凄いのよ!」
「そうなんですか?」
「うん!」
さっきの子爵より遥かにマシだわ。もっとお話聞かせて~。
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