第15話 感染源到達②
私の調査メモ(これは…言葉にできません)
私とカイト君は、村奥の洞窟に足を踏み入れます。
寒々とした、薄暗い洞窟。
天井には鋭利に先の尖った鍾乳石が幾多も垂れ下がり、その淡い石の輝きが、この洞穴をある種神聖な祠として認識させるようです。
洞窟の奥からは、ブオーンとした音が聞こえます。
風の音でしょうか?
それにしては腹に響くような低く重たい音でした。
洞窟に入った瞬間。
ゾクリ
私の背筋が、一瞬で冷たくなります。
ここは、普通の場所では無い。それを私は一瞬で悟ります。
奥に向かって歩を進める毎に、肌は冷気でヒリヒリと、背筋には冷えた怖気が奔ります。
ズキ
私の頭が、思い出したかのように、疼きます。
…やめて。出て行って。
…私の中から出て行って。
痛みを予感し、私は奥歯を噛み締めます。
ですが、痛みはありません。
その時。
私は、足元に何かが落ちているのに気がつきます。
何でしょうか?
私はそれを拾い上げます。
それは、カードケースでした。
洞窟に不釣り合いの、ピンク色のカードケース。
私は、それを開き、中を確認します。
学生証が入っています。
写真も添付されています。
女の子の写真でした。
緑のブレザーを着る、女子高生。
そのブレザーにも、学生証に掲載された学校名にも、見覚えがありました。
私の死んだ従姉妹…ミキちゃんと同じものでした。
学生証の持ち主の名前は、
カワムラ サチコ。
サチコ…。
見たことのある名前でした。
ゾワリ
突然。
私の頭の中に、イメージが、風景が、浮かびます。
それは、私の記憶ではありませんでした。
私の中に残る誰かの『何か』の記憶でしょうか?
心を締め付ける違和感。
その違和感には覚えがあります。
悪夢を見て、早く覚めろと願い、跳ね起きた瞬間のような、ドス黒い感覚。
私の頭の中に生じたイメージ。その風景を例えるなら、
まさに地獄絵図。
目の前にある黒々とした歪な小山がある。
小山からは夥しい数の無数の枝のようなものが生えている。
そして私は気付く。
それは小山ではなかった。
それは黒くもなかった。
大量に流れ出て乾いた、かつては真紅だっただろう、血。
血の色だった。
血濡れた小山を染める血は、
小山そのものから流れ出す。
小山では無いのだ。
それは、死骸の山だ。
幾多の死骸でつくられた、死骸を山にした、屍の小山だった。
屍の小山に生える数え切れない無数の手足。
中にはモゾリと動いている人もいる。
生きているのだ。
生きようとしているのだ。
だが、生き永らえられなかった。逃れられなかった。
古い甲冑を身に付けた屈強な兵士が槍を突き刺す。
深々と、僅かな命ごと。生きようとする意思ごと。魂を貫き砕く。
新たな屍体が兵士に運ばれてきた。
全身を切り裂かれ、血を流し続ける屍体。
屍体を運ぶ兵士の手には、ドロリといた鮮血がこびり付く。
その死骸が勢いよく血の山に投げられ、山はまた嵩を上げる。
そうやって血と死骸の山は築かれる。
全身を焼け爛らせた死骸があった。煮え滾る湯をかけられたのか?
手足を食い千切られた死骸があった。生きたまま獣に食わされたのか?
全身をひしゃげて潰れた死骸があった。高所から突き落とされたのか?
焼かれた屍体は、何を思って死んだのか?
生きたまま食われた屍体は、何を無念に死んだのか?
地面に堕ちた屍体は、その瞬間、何を恐怖に死んだのか?
小山の如く積まれた屍体は、何を呪って死んだのか?
その死に方には覚えがある。
まさしくそれは、悪夢…。
「マリさん!!」
カイト君の声で、私は我に帰ります。
私の眼の前にカイト君がいます。
ここは悪夢ではありません。
現実です。
「私一体、何を?」
「突然、意識を失ったみたいになって…。大丈夫か?」
「うん…大丈夫…。」
「何があった?」
悪夢…。
起きながら、悪夢を見た。
ですが…。
あの光景をうまく言葉で説明はできそうにありません。
「何でもないよ。大丈夫。」
汗ばむ手には、先ほど拾ったピンクのカードケース。学生証。
今見た悪夢と関係があるのか?
これが、何かのヒントになる?
私は震える手で、そっとそのカードケースをポケットにしまい込みます。
「行こう。」
カイト君が、私に手を差し出します。
「うん。」
私はその手を握り、洞窟の奥に歩を進めます。
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