マッチ一本歌事のもと
宿仮(やどかり)
第0話 プロローグ
これは、ひとつの歌が世界を変えた物語ではない。ましてや、勝者の記録でもない。ただ、高校生だった僕たちが、ほんの一時期、言葉に人生を預けてしまった、その顛末である。歌は人を救うと、僕たちは本気で信じていた。だからこそ、何人かは、二度と戻ってこなかった。
僕は彼らの墓碑銘を刻めぬまま一つの成功を得て、幸せに結婚して短歌評論家としてやっている。それは彼の挫折やほとんどなかった成功を知っているからだ。
寺川修一は、寺山修司の短歌に触れただけで、自分を寺山修司の生まれ変わりだと信じてしまった、——と、当時の僕には見えた。大馬鹿者だったのかもしれない。
それは神城文(上条ふみこ)も言えることだった。彼女は中条ふみ子に憧れ、その人生までも模倣した歌人だ。
我々はオリジナルティに欠けるのかもしれない。しかし、それを天才歌人の孫娘であり、女王の娘として、小野まちこはこの短歌界の伝統を受け継いで戦っていたのだ。
ある時は小野小町に化身しながら。彼女に破れた俵田まちこにしても、ただ青春を謳歌していれば傷つくことなく平穏な学園生活を送れただろう。
そして、いつもこの世界の端っこにいる私を応援してくれた、妻である葛原けい子に、この物語を捧げたい。
本当は、こんな長い駄文ではなく、一首の歌を捧げるべきなのだが。
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