2-1 黒崎家の日常2

 11月30日、水曜日。午前2時。


 今夜は黒崎の帰りが遅い。来週から年末まで慌ただしいそうだ。黒崎製菓との合併準備があるし、会食や忘年会も出席する。先週から飲み会続きだ。


 キッチンに行くと、ひんやりしていた。冬になり、家の中も寒くなった。今夜は冷え込むと天気予報で言っていた。


(黒崎さん。風邪引かないといいけど。スープを用意しようっと……)


 黒崎の夜食を用意しようと思って冷蔵庫を開けると、スイーツが入っていた。昨日の夜、黒崎が帰って来たときのお土産だ。たくさんあるから、まだ食べ切れていない。黒崎が言うには、この間の喧嘩のおわびだということだった。こうして俺の機嫌を取ってくれている。

 

 深夜帰宅になる日は先に寝ておけと言われている。何よりも体調のことを気遣われては、俺の方も何かしたい。寝ていないと彼が心配するから、寝ているふりをして、トイレに目が覚めたという口実で起きてこようと思った。でも、すぐにバレそうだ。するとその時だ。玄関から音がした。黒崎が帰ってきたようだ。


(帰って来た。あくびの準備をしようっと。ふわあーー。よーし……)


 寝室に戻ってベッドに寝転がった。そして、少し間を置いた後、ベッドから抜け出した。その後、あくびをしながらリビングへ入ると、黒崎が上着を脱いでネクタイを緩めていた。これで寝ていたふりができたと思う。


「おかえり~」

「……ただいま」

「サンドイッチを作っているよ。お酒ばっかりで、あんまり食べていないよね?」

「そうでもないぞ」

「もう……。レタスと薄切りハム、手作りマヨネーズのタマゴサラダにしたから。あっさりしているはずだから、お腹に入れやすいよ。食べてよ」

「夏樹。いい子にしていたのか?」


 いきなり抱き寄せられて、頬ずりをされた。酒くさい。俺が嫌がるからわざとやっているのだと思う。子供なのか、おじさんなのか、分からない人になった。結婚後、黒崎がこうしてふざけることがある。リラックスできているのだと思い、嬉しいと思っている。


「黒崎さん。髭がチクチクするよーっ」

「剃り残しはないぞ」

「さすがにこの時間は伸びているんじゃないのかな?」

「そうだな。寝たふりをしていたんだろう。起きていたんだろう?」

「トイレに起きたんだよ……」

「そうやって嘘をつくところが可愛らしい。帰ってくるのが楽しい。こっちに来い」

「この酔っぱらいっ」


 黒崎の体を何とか押しのけて、シャツを脱がせた。汗のにおいがした。そして、黒崎が脱ぎ散らかした上着とネクタイを拾い上げた。さらにズボンを受け取った。お酒臭いから、クリーニングに出そうと思った。

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