俺と現代ダンジョンと金髪メカクレ黒ギャルメイドと宇宙戦艦ハーロット・セブン
衣太@第37回ファンタジア大賞ほか
俺と現代ダンジョンと宇宙戦艦
第1話
ダンジョン。それは今から30年前、突如世界中に開いた異世界への扉。
ダンジョンの中には凶悪なモンスターが存在したが、その頃の地球が抱えていた資源問題を解決するほどの産出物に、各国はこぞってダンジョン攻略に乗り出した。
ダンジョンの魔力に取りつかれた『探索者』たちは、日々命がけでモンスターと戦い、戦利品を地上にもたらす――
もっとも、華々しく活躍するだけが探索者ではない。
「ふぅ……」
床に座り、呼吸を整える。
左手首に嵌められた腕時計型端末をトントンと人差し指で二度叩くと、眼前にホログラムが映し出される。
マクスウェル視光学系網膜投影デバイス――分かりやすく言うと目の中に直接光線を当て、本人にしか見えない映像を映し出す技術である。
「1680個……、まぁまぁのペースかな」
そこに表示されているのは、『魔石<D>』というアイテムの保有数だ。
サイズは小指の爪ほど。Dランクのモンスターが落とす定番のドロップ素材ではあるが、ドロップ率はおよそ20%ほどと然程高くはない。
それを本日だけで1680個集めるには、8000体以上のモンスターを狩っていることになるのだが――
事実として可能なので、男――林原
魔石の活用方法は多岐に渡る。たとえばこの時計型デバイスだって魔石を加工して作られた魔石電池で動いているし、探索者の必須アイテム――ポーションだって、魔石から作られているのがほとんどである。
素材として砕いて使う場合、魔石のランクは低くても問題はない。そのため魔石採取の依頼といえば、基本的にはDランクの魔石を求められる。
「っし」
立ち上がり、周囲を見やる。
ドーム状にくり抜かれた直径30メートルほどの広間には、虫食いのような穴が至る所に空いている。
かしゃかしゃと、金属が擦り合うような異音。
穴から顔を出したのは、体長1メートルほどの蟻型モンスター、名は『フォルミナス』。レベルは20程度で、初心者に毛が生えた探索者でも容易に討伐出来る、低級モンスターだ。
――もっとも、一対一であるならば、だが。
「『
そう唱えると、手のひらに球体が現れる。人の頭ほどの大きさのある、薄く輝く銀の球。
「『
銀球は、追加の詠唱によって、すぐに9つに分割される。
「『
もう一度唱えられると、次はすべてが9分割され、81個に。――して。
穴から湧き出した大量のフォルミナスが絨毯のようにあたり一面に溢れ、先頭の個体が海里に触れる――次の瞬間。
「――『
一つ4センチ――ピンポン玉ほどのサイズになった銀の球が、周囲に向けて射出された。
ズガガガガガガン――それらは的確にフォルミナスの頭部を砕きながら、手前の個体から、奥の個体へ――着実に数を減らしていく。
銀球の発射地点は、すべて海里の手のひらの上からだ。そのため後方に飛ぶ球は、器用に海里を避けるように曲線を描く。
「『
して、音が止まる前に次なる球体が手のひらに現れる。追加の詠唱によって再びそれらが分割され、絶え間なく地面に突き刺さり続ける。
――およそ3分。
4回分のループを終わると、フォルミナスの死体の数は300を超えた。
フォルミナスは仲間の死体を踏み越えて海里に迫ったが、結局一匹として辿り着けることはなく、沈黙した。
穴からの湧きが止まる。すると、300を超えるフォルミナスの死体が、順番に光の粒子になって消えていく。
死体が消えると、床に散らばったのはいくつかのカードに、青く輝く小指大の魔石。
中身の選別をしている余裕はないので、『自動取得』スキルを活用し、魔石もカードも爪先で蹴飛ばすと、触れたものからシュン、と姿を消していく。
そのまま広間を一周するように歩き、自然消滅時間――ドロップアイテムがダンジョンに再吸収されるまでの短い時間に全て回収を終えると、広間の中央で再び床に座り目を瞑る。
――数分後。
再び沸いたフォルミナスを同じように討伐し、カードと魔石を回収。
――数分後。
再び沸いたフォルミナスを同じように討伐し、カードと魔石を回収。
――数分後。
再び沸いたフォルミナスを同じように討伐し、カードと魔石を回収。
――数分後。
再び沸いたフォルミナスを同じように討伐し、カードと魔石を回収。
数えきれないほど繰り返し、そろそろかな、と腕時計型端末で確認すると、魔石<D>の所有数は3000個を超えていた。これで本日のノルマ達成だ。
次の群れが沸くまでの間に広間を出て、通路で壁にもたれてポーチからスマホを取り出した。
1時間ほど前、メッセージ通知を示すバイブレーションがあったからだ。
とはいえ、のんきにメッセージを確認している余裕はないので放置していたのだが、そちらを確認すると――
「うぇ、マジか」
そこに書かれていたのは、『T36撤退 支援求』という緊急性の高いメッセージ。
流石に1時間前のことなので既に周辺に居た他の探索者が救援に向かっている可能性も高いが、距離はそこまで離れてないので指定ポイントに向かって走る。8時間近い狩りを終えた後ではあるが、多少の時間外労働は仕方ない。
走りながら残存魔力を確認し、海里は「もって数発か」、とひとりごちる。
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