13
「旦那様っ!」
椿の前に庇うように立つ大きな背中。椿の元へ駆けつけてくれたのは、夫の千歳だった。
一方、男は突然横やりが入ったことに呆然としていたようだったが、またしても邪魔が入ったことに激怒して「うるさい、引っ込んでろ!」と、千歳に飛びかかろうとした。
けれど、千歳はそのまま涼しい顔で男の腕を片手で捻り上げ、素早く体を地面に抑えつけると、ぐっと体重をかけて見事制圧する。イタタタタと痛みを主張する男にも、容赦なく力を加える横顔は、相変わらず氷のように冷たいまま。
「おい、警官の兄ちゃんこっちだ!」
「早く捕まえろ!」
聞こえてきた声の方を向けば、男たちが数名こちらへ向かってくるところだった。後ろには警官の姿も見えたところをみるに、どうやら先ほどの少女が助けを呼んでくれたらしい。
男は暴言を吐きながら最後まで抵抗していたが、千歳が警官たちに引き渡すと、錠をかけられ連れて行かれた。
「お姉ちゃんっ!」
すると、先ほどの少女が椿の元へと駆け寄ってきた。
「わたしのせいで、ごめんなさい……っ!」
目に涙を浮かべ自分を責める少女。怖かったのは彼女も同じだっただろうに、男に掴まれ赤くなった椿の手首を見て、少女は一層顔を歪ませた。
「……大丈夫。あなたが無事で、本当によかったわ」
頭を撫でながら、ようやく胸の奥の緊張がほどけていくのを感じ、椿は少女に微笑んだ。事情を聞けば母と街へ買い物に来ていた途中に、はぐれてしまっていたところ、連れ去りに遭ったらしかった。
「本当にありがとうございました……!」
少女の母親がそう言って何度も深く頭を下げるので、椿も「ご無事でよかったです」と繰り返し、親子の背を見送った。
「怪我はありませんか」
それから声の方を振り向けば千歳の姿。警官とやり取りを終えたようで、椿の元へと戻ってきた。
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