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 この帝都には、悪鬼と呼ばれるモノノ怪が存在する。


 額に一本角をもち、鋭い牙を剥く奴らは、基本的に術師たちが施した結界の外である「虚域うつろい」に生息している。


 だが、ときに結界の綻びを破り、街中にも悪鬼が現れることがある。そうした有事の際に出動命令を下されるのが、悪鬼討伐に特化した特務部隊だ。


 隊長を頂点に、副隊長、その下に複数の班が組まれ、武術に優れた隊士たちで構成されている精鋭部隊。


 黒地に金の刺繍が施された隊服に、片肩マント、特務部隊を象徴する沈丁花じんちょうげの紋が入った隊帽を見れば、みな畏敬か、畏怖の念を向けるかのどちらかである。


 なかでも副隊長の千歳は、その出立ちから「氷月」という二つ名で呼ばれている。流麗な瞳は氷のように冷たく、何をも寄せ付けない孤高の姿は月のよう。


 特に若い娘らは、その麗しい容貌に黄色い声をあげ「氷月様」などと呼ぶこともある。


 一方で、誰が流したのかは知らないが、「女嫌い」「金遣いが荒い」などの噂話にいつの間にか尾ひれがつき、「冷酷無比な副隊長」と言われるようになっていた。


 そんな男が、結婚である。


「別に結婚なんて、紙面上の契約にすぎないだろう。推薦された見合い相手の中からなら、誰でもいいと言われたから選び方に問題はない」


 姿勢よく机に向かい仕事を続ける上司の言葉に、朝比奈は「夢がないですね、副隊長は」と苦笑した。現実主義な上司らしい考え方ではあるが。

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