あおいトラックと金色の朝

霜月あかり

あおいトラックと金色の朝

町のはずれにある運送会社の車庫。

朝の光が少しずつのぼりはじめたころ、トラックたちはエンジンをかけて、一日の準備をしていました。


いちばん小さなトラック、あおいトラックのソラは、今日がとても特別な日でした。

初めての「ひとり立ち」。

これまでベテランのトラックたちといっしょに走っていたけれど、今日からは自分の荷物をひとりで運ぶのです。


「ソラ、気をつけて行くんだよ」

となりの赤いダンプ、アカネが声をかけました。

「はいっ!」

ソラはヘッドライトをぴかっと光らせました。


けれど、走りだしてすぐに気づきました。

町のはずれの工事現場に、古びた標識やでこぼこの道。

大きなトラックなら簡単に通れる坂道も、ソラにはちょっときつい。


エンジンをふかしても、荷台の荷物が重くて前に進めません。

「ううん、ぼくは小さいけど、ちゃんと届けなくちゃ」

ソラは歯を食いしばるように、ギアをぐっと入れ直しました。


そのとき、遠くから聞こえてきたのは――

「ピッピッ!」という黄色いトラックのクラクション。

「おーい、ソラ! 困ってるのか?」

それはベテランの黄色のトラック、ハルでした。


「重くて登れないんです……」

ソラが答えると、ハルはにっこり笑いました。

「トラックはな、荷物を運ぶだけじゃない。仲間の荷物や想いを運ぶこともできるんだ」


ハルはそっと後ろにつけて、ソラの荷台を押しました。

「うんしょ、うんしょ!」

二台のトラックは、ゆっくりと坂を登っていきました。


やがて丘の上についたとき、東の空が金色に輝きはじめました。

雲の向こうから朝日がのぞき、トラックたちのボンネットをまぶしく照らします。


「きれい……」

ソラは思わずつぶやきました。

ハルは笑って言いました。

「そうだろ? この光を見られるのが、トラックの特権さ。どんなに夜が長くても、朝は必ず来る」


その言葉を胸に、ソラはまた走り出しました。

届けるのは、荷物だけじゃない。

人の暮らしを支える“ぬくもり”と“まごころ”――。


その日、町の誰も知らないところで、

ひとりの小さなトラックが、初めての朝を迎えていました。

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あおいトラックと金色の朝 霜月あかり @shimozuki_akari1121

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