お嬢様デ・ス・わ!! 〜ワタクシは死神見習い!!…のはずが気づけば大悪霊に認定されていましたわ…。なぜですの!?〜

おべべのべえ

第1話 誕生!!大悪霊ドクロガール!!

ワタクシ小金こがね 洒落子しゃれこは本日付でお釈迦になりましたわ!!


「自由」

死んで初めて心に浮かんだ言葉。

それは抑制続きであった人生に痰を吐き落とすような爽快感溢れるものでした。



死因は【植木鉢】。

クラスで育てていた…パキラでしょうか。

二階から落ちてきたそれは容易にワタクシの頭蓋を砕きました。

当たりどころが悪かったのでしょう。


たったそれだけでワタクシは命を失ったわけです。


「とはいえ起こってしまったことに後悔しても仕方ありません!!」

ワタクシは特段過去に興味がありません。

そのせいで歴史のテストはボロボロだったのですが…。


「で三途の川はどこにありまして?」

死んでからというものの学園の外に出ていない。

天使なり死神なり死後の魂を運ぶ役者を待っていたわけだ。

本当は…案内板などなく、どこへ向かえばいいのかわからなかっただけなのだけど。


死体の周りには人が群がっていた。

ああ、パニックパニック。

先生が、先輩が、救急隊員が。

まあ人一人死んだのだから当然だろう。


(ワタクシは確実に死んでいますわ。)


ザッザ

誰かが近づいてくる。

死神っぽい!!


「すみません!!ワタクシさっき死んだばかりでよくわからないのですが──」


返事の代わりに鎌が振り下ろされた。

「…ッなにするんですの!?!?」


死神のような男は、舌打ちをつきながら刃を構え直す。

「…−3のザコ悪霊が、避けてんじゃねえよぉ!!!今日のノルマはこれで完了だあ!!!」


ザコと言われた屈辱よりも恐怖が勝ちましたの。

ワタクシは直感でわかるのです。

この鎌で再び絶命すれば良くないところへ連れて行かれる。

きっと【地獄】であると。


死んでいるのに…。

死にたくない。


背を向ける。

走り出す。

嫌だ。嫌だ。嫌ですの。


「死ねええええええ!!!」

凶刃が迫る。

息が焼ける。

その瞬間、興味のなかった過去がこちらをのぞいた。


『洒落子ちゃん、うちは決して裕福じゃないけれど心だけは強く持つのよ!』

絢爛さを失った母は行方知れず。


『…悪いな小金。オレもっとお前に相応しい男になりてぇんだ。』

告白を断ったカレはワタクシの親友とくっついた。


『小金さん、私と友達になってください!!』

その女はワタクシを踏み台に学園を駆け上がった。


特段気にしなかった過去の事象。

ガマンの日々。

走馬灯に痰を吐く。


今、思い出したらムカついてきましたわぁ!!!


「やっぱり許せませんわ!!!!ぶっ殺して差し上げますわ!!!!」

心の奥底にしまい込んでいた怨嗟のガソリンが溢れ出す。

涙と共に。


気がつけば雄叫びと共に凶器を構えた男に立ち向かっていた。

丸腰で。


故に勝ち目はなかった。

そのはずだった。


『良い叫びだ。』


頭に声が響く。

刹那、拳に力が宿った。


「ゲバぁ!!」

その巨躯は弾み、吹き飛ぶ。


「少女よ。我はその怨嗟を晴らす方法を知っている。」


いつのまにか黒いパーカーの青年が立っていた。

頭部は……バレーボール? に、サングラス?


「へ?」

思わず素っ頓狂な声が出ましたわ。


「ズバリ!!我が仕事を手伝う、死神見習いとなればその怨嗟は解消されるであろう!!」


死神にはまったく見えません。

むしろ二子玉川にいそうな黒パーカーの中学生にしか見えませんわ。


「テメェら許さねえ。許さねえぞ。悪霊も死神も皆殺しだ!!俺の糧となれよザコども!!」


すると男は怪物へ変貌を遂げる。

そのヴィジュアルはどこかグロテスクで生物感がしませんの。


「この恨みはらさでおくべきかぁーーーー!!!」

男は我を忘れて襲いかかる。


「さあここからは実習だ。我の力を使い武器を持ち唱えるのだ…。」

差し出したのはステッキ。


それよりも…


(恨み…?

ワタクシに…?)

失礼な男への怒り。


死んだと思ったら襲われて…。

正当防衛で反撃したら怒られて、命の危機。


そんなの

そんなの…

「…笑えませんわ〜!!」


「少女?」

バレーボールマンは唖然としていた。

表情はないはずなのに、それが伝わった。


ワタクシは彼のステッキを奪い取りました。

「少女!?頭が骨に!!」


確かに皮膚がなくなったように風が頬を通り抜ける。

皮膚の下で、白が蠢く。

指先からパキパキと音がして、ワタクシは“骨の自分”に生まれ変わった。


「ハハッ…軽い、身が軽い。これぇ気持ちいいですわ!!!」

ワタクシは学生服を着た骸骨になっていた。


【大悪霊 ドクロガール 爆誕!!】


「死ねええええええ!!!」

近づく男。その鎌は先ほどの二倍はありそうだ。


「さあ唱えよ《シベルエキ》と!!…少女?聞いてるの少女!」

ごちゃごちゃうるさいですわ。


ワタクシは──

不慮の事故で死んだ自分がどうにも情けなく。

わけもわからず戦わされる自分がどうにも腹立たしく。

この湧き出る感情を発散できる場所があることに安心した。


「ワタクシを恨むだなんてお門違いですわ〜〜!!!!

テメエが死ねえええええええええ!!!!

イヤッパアアアアアアアアアア!!!!」


ワタクシが唱えたのはファンシーな術式などではなく。

ただの感情の爆発。

突如ステッキから放たれる謎の極太光線。

男はさらりと爆ぜていく。

その魂すら焼き尽くす。


「俺が、デス・コーポのこの俺が…。こんなザコごときにいいいいいい!!!」


【爆発四散】


ふと学園の方を見れば人がまったくいない。

もう帰ったのでしょうか。

静けさが胸にしたり落ちる。


ワタクシはすごい体験をした。

胸に広がったのは恐怖ではなく、快感であった。

再び感覚が鈍くなる。

皮膚が戻ったのだろうか?


それよりも…

「ねえ異形さん!!今の何です?ワタクシ今すっごく楽しくて!!」


すると放心状態のバレーボールは意識を取り戻した。

「うおぉ…。ああ名乗っていなかったね。我が名はエルケニヒ。死神である。」


死神、もしかして私を向かえにきてくれたのかしら。


「もう一度聞こうか。我と盟約を交わし、仕事を手伝う気はないかな?」

「エルケニヒ、仕事は手伝いたいけれど。ワタクシは多分成仏しなきゃいけないと思う。だから…」

「あの世への行き方を教えて…って?残念ながらそれをしませーん!!」

「なぁ、なぜですの?」

「どーしても手伝って欲しいからだ!!」


ワガママ!!


彼はツカツカと革靴を鳴らして歩き始めた。

「我が君を助けたのは正義心から来たものではない。己の利益のためだ。」

「そ、そんな…。ワタクシはこの世をずっと彷徨うのですか?」

かぼちゃのジャックオーのごとく。


「いいや。」

エルケニヒは明確に否定した。


「君は天国に行ける。なぜならば君は心の闇を爆発させるのに長けているからだ!!それを活かせばあの世へと行けるさ!!多分ね!!」


「“たぶん”って何ですのよ!!」

彼は口笛を吹き始める。

下手っぴである。


「…実はな、天国に行くことこそが地獄みたいなものなんだ。天国へ行く前の煉獄と呼ばれる場所は激混みだ。三千年立っているだけってこともあるらしいぜ。」


「だが!!業務をこなせば煉獄パスチケットが手に入るぞ!!天国直行さ!!」

「先行チケットって…おいくらですの?」


「百万ポイントだ。」

「ポイント…。先ほどの死神さんもおっしゃっていましたね。」


「ああ、ポイントは現世、つまり人間界に与える影響度で決まる。人に良い影響を与える、まあ福とか愛とか、そういうものは+、悪い影響を与える、呪いとか苦しみとか?そういうのは−という形でな。」


ワタクシは−3らしいですわ。

善良なワタクシがどーして害悪なんですわ!?


…一旦落ち着きましょう。

どうにかコツコツポイントを集めて天国にいくのが目標ですわ!!


「ちなみに先ほどの鎌で殺されていたら私はどうなりましたの?」

ふとした疑問。

彼の攻撃でもあの世へは行けたのではないだろうか。


「…ジ・ゴ・ク・ユ・キ。当然だろ!?手間が省けるからな!!」


なんて杜撰なシステムでしょう!!

でもそうと決まれば…。


「働かせていただきますわ。粉骨砕身頑張らせていただきましてよ!!」

私は弱い。

彼から学ぶことはたくさんありそうですし!!

少しの間付き合いましょう!!


死神の仕事とやらを、天国に行くために!!

でもちょっぴり復讐ざまぁもしたいですわ〜!!



先ほどまで抱いていた世間に対する恨みつらみはまだくゆんでいる。

だがワタクシは過去は振り返らない主義だ。

怨嗟はあれどいつかチャンスを待つのみ。


それに気づいたから…。


「もう我慢しませんわ!!

だって死んでますもの!!」


小金洒落子は死して自由。

死神見習い始めますわ!!

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