第3話 まずやることは
「せっかくだから、お二人のドラムとベースの腕前を見せて欲しいなと思うんだけど……」
強引に勧誘され、学園の軽音部(非公式)に入部することを決めた私であったが、彼女たちのことをまだなにも知らない。
ゲームに登場するキャラクターであれば、前世の知識をフルに活用して、この子達がどういう子なのかわかるのだが、生憎知らない。
良くも悪くもモブっ子というわけだ。
私に悪いような行動をするとは考えにくい。破滅へ導くようなね。
ただそれはそれとして、どれほどの演奏スキルを持っているのかは知っておきたい。
軽音部として本気でバンドを組むのならば、それくらいは知っておくべきだと思うのだ。
少なくとも私は彼女らに変な提案をしたつもりはない。
至極真っ当。
行って当然すぎる提案をしたつもりだった。
だがしかし、二人は顔を見合わせる。
頷くわけでもなく、また拒否するわけでもない。
二人の反応は苦笑であった。
苦笑だ、苦笑。苦笑い。
「えーっと」
「いやー、その」
「え、なに? 弾けないの?」
二人とも終始芳しくない反応を見せ続ける。
さすがに普通じゃないことくらいは気付く。そして考えた結果導き出した答えはこれだ。
強がって?
それともイキがって?
どれが原因かは知らないけれど、弾けないのに弾けるって嘘を吐いちゃったのかな、という思考に至る。
「そういうわけじゃーないんだけどねえ」
「ええ、はい、そういうわけじゃないんですよ」
示し合わせたように二人は同じことを言っている。
私の頭に疑問符が浮かぶ。
そういうわけじゃないって、つまるところどういうことなんだよ! と思うし、問い詰めたい気持ちさえあるが、今の私が圧をかければ『悪役令嬢』っぷりが発揮されるのは目に見える。
せっかく仲良くなれそう? な平民さんを怖がらせるようなことはしたくない。
そうでもしたら、破滅の道へまた一歩近付くことになる。
Hello Again〜断頭台〜
じゃないが?
せっかく遠ざけた破滅が近付くのとか本当に勘弁して欲しい。
自殺願望はない。
うじうじしながら、ちらちら二人のことを見ていると、ルメッカが口を開く。
「弾きたくても弾けないんですよね」
「弾きたくても弾けない……?」
「そう! 弾きたくても弾けないんだよ」
ルメッカが吐露して、それを私がオウム返しをし、さらにシュリが肯定しながらオウム返しをする。
「私は弾こうと思えば弾けるんだけどね、ルメッカが無理なんだよ」
「私のせいみたいに言うな」
「でも事実でしょ」
「……んー、もしかして楽器がないとか?」
二人の会話から推察してみた。
我ながらいい線をいっているのではないかと思う。
「ほとんど正解です」
「ほとんど?」
「正確には楽器を置く場所がないんです。演奏する場所がないと言うべきなんですかね?」
「私たちってまだ正式な部じゃないから、部室がないんだよー」
なるほど。
納得だ。
ベースのシュリはベースを持ってくればいいだけだが、ドラムのルメッカはそういうわけにもいかない。
「……部室って部活動申請が通ったら貰えるものなの?」
「はい。通常は部室が与えられますね。もっとも軽音部の場合はどうなるかわかりませんが」
ルメッカは困ったように笑う。
「うるせえーからな。音楽は」
シュリの発言は……まあその通りではある。
なんというか、もうちょい言い方ってもんがあるだろ、と思うが。
でも間違ってはない。
音楽は興味のない人からすればただの騒音だ。
例えどれだけいい演奏であったとしても、時と場合によっては迷惑極まりない。
だからこそ、演奏をする時は時と場所をしっかりと見極める必要がある。
部室。
それが一体どのような場所かはわからない。
ゲーム内において、部室なんて存在していなかったし。少なくとも記述はなかった。裏設定などで存在していたのかもしれないが、そんなの一プレイヤーである私が知るところじゃない。
「訂正しますね。迷惑になるから、です」
ルメッカはシュリのこめかみをぐりぐりと拳で攻撃しながら、即座に訂正していた。
いいコンビだなと思う。
「なので、部室以外を与えられるかもしれませんが。とにかく私たちには演奏できる場所がないんです」
これは死活問題と言える。
人数集めを仮にクリアしたとして……
学園の上層部?
教師陣?
それとも生徒会?
どこが管轄なのか知らないが、音楽に精通していない人達が適当に部室を割り振った暁には大変なことになる。
うるさいってクレームが入り、演奏するなって言われる。
本来やらなくていいことをやっているのはこちらなので、注意されてしまえば反論もできずに受け入れる他ない。
なんかやけにリアリティがあるなって?
こ、細かいことはどうだっていいんだよ。
とにかくそういうわけなので、
「ならまずは部室探しから始めよう」
「人数集まってないのにか?」
「だからだよ。演奏できるようになったら、勧誘の仕方の幅も広がるよ。さっきみたいに無闇矢鱈に勧誘するよりも、実際に演奏して、こういうことしますよ、って実演した方が興味湧く人も出てくるだろうし」
「なるほど。それはその通りですね。さすがはララお嬢様です」
「ほーん、一理あるな」
特別なことはなにも言っていないのに、褒められた。
「それじゃあ、部室を探すぞー」
「おーっ!」
「おー」
シュリの掛け声に合わせて、私たちは拳を突き上げた。
ちなみに、音楽室を占領――お借りすることになりました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます