夜のコンビニと君のブラックコーヒー

アキラ・ナルセ

プロローグ

――あれから数年。


 時は過ぎ、忙しい日々を送りながらも、俺達は互いの存在を支え合った。

 

 帰省で久しぶりに地元へ戻ったある日、二人で母校近くの夜の商店街を歩く。街並みには散り始めた桜が、街灯に照らされて静かに、そして美しく咲き誇っている。


 春の夜風が、やわらかく頬を撫でていく。ピンクの花びらが風に乗って舞い、アスファルトの上で小さく踊る。


 その道を、俺たちは並んで歩いていた。


「懐かしいね大河」


 そう言って隣を歩く彼女が微笑む。

 

「そうだな」


 夜九時を過ぎたこの閑静な住宅街は、どこか静かで、甘い匂いがした。


 夜の静けさと寂しさを打ち消すように、煌々とした明かりが灯っていた。


「うわー、変わらないな!」


 通りの角にあるコンビニは、昔と変わらない白い光を灯している。

 ガラス越しに見える店内には、見慣れた棚。外には色が剥げた青いベンチ。


 その光景が胸の奥をやさしく刺した。


 ~♪


 自動ドアが開く音がして、あの軽快なBGMが元気良く鳴った。


 店の奥から出てきた男性が、俺たちを見て目を丸くする。


「おお、久しぶりだねぇ! 二人揃って来てくれるとは。そうそう、入籍おめでとう! いやぁ、若いっていいねぇ」


「ご無沙汰してます、店長」

「ありがとうございます!」


 やがて彼は笑顔のまま、店の裏からあるものを取ってきた。

 差し出されたのは、黒いラベルの缶コーヒーが二本。やっぱり熱々だ。


「ほら、これ。僕からの差し入れだ」


 俺たちは目を合わせ、笑って受け取った後、店の外のベンチに腰を下ろした。


 プシュ!


 缶のプルタブを押し上げる音が重なる。


 ひと口、苦味のあるコーヒーを飲む。

 あの夜たちの記憶が、一つ、また一つ鮮明に蘇る。


「昔を思い出してるの?」

「ああ。少し昔話に花を咲かせようぜ」


 やがて、コンビニの前の桜の花びらが街灯の光を受けながら、俺達の肩に降り注いだ。


 その瞬間、世界が少しだけ、あの頃と重なった気がした。


 ――夜のコンビニ。


 それが、俺たちの始まりだった。

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