メイドと執事が普通に働いている

学校から帰って、桜小路家の屋敷に着くと僕は自室に戻る。自室に戻ると煉谷はすでに執事としての服に身を包んでいた。



「この後の予定は?」



「はい、これからご家族の皆さんとお食事会、そして20時から三重野家の当主様へのご挨拶、22時から五木田家のご令嬢と電話です。以上です」



「わかった。ご苦労だ」



「いえ、私は執事としての仕事を全うしているだけですので」



「それはそうだが、スケジュールに関しては全てお前に任せているからな」


だが、煉谷が倒れた時のことを考えてしっかりとスケジュールの管理はしておかないといけない。


煉谷の体は強いし、病気になったという記憶もあんまりない。だが、人間である以上はいつ病に侵されるか分からないというのが正直なところだ。危機管理はしっかりしておかないと。






俺も制服からタキシードへと着替えて、一通りの準備が整うと自室を出る。煉谷は俺の数歩後をしっかりと付いて来る。


自室を出るとすぐに僕のメイドたちが頭を下げて出迎えてくれる。



「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」


倉角、沖丸、村宮も家に帰ればしっかりとメイドモードだ。数時間前に僕の体を触って来た奴とは思えない程だ。ここまで所作や言葉遣いが変わると本当にこいつらは怖い。



「ああ、それではな」



「いえ、私どももお供させてもらえませんか?」



「お前たちは俺の近くにいることではあるが、今回は晩餐会だ。それに顔合わせや電話に関しても執事である煉谷が同行することになっている。お前たちが付いて来る必要は全くない」


このメイドたちを連れて行ったりする時はある程度決まっている。彼女たちはそれなりに容姿も整っているので、中には僕と顔を合わせたいという要望だったり、近くに来たので会いたいという要望など適当な理由を付けて、メイドたちに会いに来ようとするやつがいる。



そういう奴が相手の場合は仕方なく、三人を付けることにしている。別に僕のメイドたちにキャバクラのようなことをさせるつもりはあんまりないが、相手の機嫌を損ねてこちらが不利益を被るのであればある程度は譲歩してやるべきだ。




たまに「一晩貸してくれ」とか言う奴がいるが、そういう要望は首を縦に振ることができない。別にメイドが自らの意思で行きたいというのであれば止めることはない。だが、そうでない場合はさすがに渡さない。



そして今回はメイドたちのお供が必要な感じではない。



「ぼ、ぼくたちは主様のメイドです。いつ如何なる時でも主様の側でお仕えしたいのです」


言葉だけ聞けば忠誠心の高いメイドだ。だが、このメイドは数時間前、僕の手を揉んでいて『ぼくの人生は主様の手を揉むためにあるんです!」』とか言っていたんだよな。



「その忠誠心はありがたいが、お前たちにはそれぞれ与えられた仕事があるはずだが」


それで食い下がることはなく、村宮が話し出す。



「そのことであれば、全員がしっかりと仕事をこなしました」


村宮は他の二人と比べても一番学校とのギャップが凄いだろう。学校の時はもうちょっと砕けた話し方をするのだが、メイドになった途端、それが全てなくなる。まるで二重人格なんじゃないかと疑ってしまうぐらいの違いようだ。



「そうか。よくこの短時間でこなしたものだ」


こいつらが仮病を使ってまで午後の授業を休んだのはこれのためか。別に仮病程度のことで咎めるつもりはないし、こいつらはしっかりと僕に許可を取って仮病を使ったわけだから問題はない。


だが、一応学生が勉学よりも仕事を優先するとは。それも普通に授業を受けて帰ったとしても問題ないぐらいの仕事量のはずだ。





それを態々、仮病を使って早く帰り、仕事をこなしたのは僕に付いて来るためとしか考えられない。なぜそんなに付いてきたいのかは分からないが、ここまでした以上はどうしても付いてきたいのだろう。



僕は数秒考えた末に結論を出した。




「わかった。付いてこい。だが、僕に付いて来るということは少し帰りが遅くなるぞ」



すると三人は同時に頭を下げる。



「「「私たちの願いを叶えていただき、ありがとうございます」」」




本当にこういうところはしっかりしているからな。俺は彼女たちの横を静かに通り過ぎ、しばらくすると背中からそれなりの数の足音がするのを確認した。




その日は久し振りに執事だけじゃなく、メイドも引き付けれていたので家族からは驚かれた。

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メイドと執事が肌に触れて来るのはなぜだろう? 普通 @jgdqa

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