ラノベみたいな展開が現実に!?〜学校のマドンナと同棲することになったと思ったら、男だと思ってた幼馴染が実は女の子で、しかも妹は義理だった件〜
@Akira_Furukawa
プロローグ それは突然に
男なら誰しも、一度はこんな妄想をする。
突然、目の前に超絶美少女が現れて、「私、あなたのことが好きなの」なんて言ってくれないかな、と。
落田夕(オチダ ユウ)──ごく普通の十五年間を送ってきた彼は、退屈な日常に刺激を求めていた。
だが、その平凡は、高校入学と同時にあっけなく終わりを告げる。
入学式、一人の少女が壇上に上がり、マイクの前で静かに一礼する。入学試験首席による、新入生代表の挨拶。しなやかなウェーブがかかった黒髪は背中まで流れ、ただそこにいるだけで周囲の空気を変えてしまうほどの美貌を放っていた。
彼女の名は雪白結(ユキシロ ユイ)。夕の──同居人だ。彼はふと、昨日の出来事を思い返す。独り身だった父親が、再婚相手とその娘・結を連れて帰ってきた。「これから一緒に暮らすんだから、仲良くしろよ」と言って笑う父に、少々呆れる。
戸惑いや混乱といった感情は、結の姿を目にした瞬間、全て彼女に奪われた。妄想と期待が膨らむ中で、「よ、よろしく……」と挨拶を試みるが、彼女は冷ややかな態度で、静かに家の中へとあがっていった。そこで彼は、人生そう上手くはいかないことを思い知らされた。
はっと意識を現実に戻すと、彼女はすでに挨拶を終え、静かに壇上を下りていく。周囲の男子は、まるで視線を縫い付けられたかのように、彼女の姿を目で追っていた。
彼女と同棲しているなんて、まだ信じられない。ファーストインプレッションは最悪だったが、これからきっと、ラブコメみたいな展開が待っている──そう彼は考えていた。
しかし彼は、再び思い知る。人生そう上手くはいかないことを。
家に帰ろうと教室で荷物をまとめていた、その時だった。「よっ、夕!」という元気の良いかけ声と共に、背中に軽い衝撃が走る。振り向くと、見知らぬ少女が満面の笑みを浮かべ、「久しぶりだな。八年ぶりくらい? まさか高校が同じだったなんてな!」と言う。
「あ、え……?」
思わず目線が、彼女の豊かな胸元に吸い寄せられる。思考を必死に巡らせるが、その甲斐虚しく、彼は身を一歩引いて、言葉にならない音を出す。
「もう忘れちゃったの? 僕だよ、僕。宇見野海音(ウミノ ウミネ)」
彼女──海音は軽く眉をひそめて、ぐいと距離を詰める。その名前を聞いた瞬間、夕の動きが止まった。
「う、海音?」
それは、小学校低学年の頃、一緒にやんちゃしていた友人の名であることを思い出す。しかし、彼の認識の中では、海音は──男の子であった。
「話したいことは山ほどあるんだけど、この後友達と遊ぶ約束があるから、もう行くな! またな、夕!」
彼女は後頭部にまとめられた長い髪を左右に揺らし、足早に教室を出て行った。置いてけぼりにされた彼は、しばらくその場に立ち尽くしていた。片鼻からじっとりと流れる血液にも気づかずに。
「ただいまー」
リビングへの扉を開き、広々とした空間に足を踏み入れると、「お帰り、兄さん!」と迎え入れる少女の言葉が、夕の耳を震わす。キラキラと輝く大きな瞳は、期待と希望で満ち満ちていた。
「こらこら、夕はもう、旭(アサヒ)の兄じゃないぞ。まあ、『お義兄さん』、ではあるけどな!」
そう言って勢い良く笑う父親を、夕は細目で睨む。ダイニングで腰掛ける父親の隣の席につくと、向かいの旭が口を開いた。
「兄さん聞いて! 私達、血が繋がってないんだって! 今私も、初めてお父さんから聞いたの」
席を立ち上がり、華奢な体をぴょんぴょんさせて話す旭。夕は麦茶の入ったコップを掴む手を滑らせて、机上に液体をぶちまける。彼にはそれが、時が止まったかのようにゆっくりと見えた。
「おいおい、しっかりしろよ、夕。こんなことで驚いていたら、漢失格だぞ?」
夕は荒っぽく台拭きを掴み、机上で激しく左右に滑らせる。
「じゃあ兄さん、お父さん、私このあと塾あるから、もういくね」
旭は艶やかな長髪をなびかせて、スキップしながら部屋を出ていった。父は去り際に、「紬母さんによろしく」と言って、軽く手を振る。夕は何も言わず、目線で彼女を見送った。
「どうして今まで言わなかったんだ? まさか、今までタイミングがなくて、再婚……いや再々婚か。それを機に、とでも言うんじゃないんだろうな」
夕は低い声で、父親を問い詰める。
「ご名答」
父親は短く、そう答えた。
「クソ親父が」
彼はそう吐き捨て、リビングの扉を勢い良く閉めた。その場で座り込み、溢れ落ちる笑みをすくうように口元を押さえる。不規則にフフッという音が口元から漏れた。
学校のマドンナと同棲生活、男だと思っていた幼馴染(♀)との再会、そして発覚した、義理の妹の存在。
平凡高校生・落田夕の、波乱万丈なスクールライフが幕を開ける。
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