田舎のチェインソーネズミ

秋野 公一

第1話

田舎のネズミか、都会のネズミか。どちらも正解ではない。チェインソーネズミこそ正解だ。僕は一度、ここだけの話、一度だけチェインソーのネズミを見たことがある。

 ある朝、山で女を埋め終わって帰ろうとしたら、ふとチェインソーネズミが私を見ていた。

 ヴヴヴヴと物言いだけな顔で、唸っていた。

私は、正直、国民学校を出ていながら、チェインソーネズミを知らなかった。かつての海面から58センチ上昇したのは知っているし、電産機は人間の脳みそであり、お茶碗いっぱいの田園の憂鬱で父が自殺したのを知ったのは、あのネズミを見てからしばらく経ってからのことだった。

 チェインソーネズミ。チェンソーネズミではない。チェインソーだ。ネズミだ。田舎にしかいない。福島と盛岡が日本であり、日本の領土といえば福島と盛岡の今現在では、チェインソーネズミも減少の一途を辿っている。

 ああ、チェインソーネズミ。ああ、あの怖い。チェインソーネズミが迫ってくる。チェインソーネズミが、脳から離れない。

 ああ、妊娠した片想いの女の子を撃ち殺した拳銃はどこだったっけ。埋めたんだっけ。どうしたっけ。チェインソーネズミ。ああ、チェインソーネズミ。恐ろしい。チェインソーネズミ。僕を許して。チェインソーネズミ、ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ、ああ、あれが、あれこそがチェインソーネズミだ。田舎の、ネズミ、田舎の、あの頃の、青春のような、純白のような、好きだった女の子の処女膜が破れた時、僕は死んでおくべきだった。よし、ガバメントを見つけた。弾倉を装填し、あと、ええっと、そうそう、引き金を引くだけだ。よし、ぐうぅと引くぞ、引くぞ、引くぞ、引くぞ、引くぞ、引くぞ、引く、引、引、引、引、H.

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田舎のチェインソーネズミ 秋野 公一 @gjm21

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