第6話「I’m from Japan ④」


──那覇基地・管制塔 会議室。


 神凪に案内され、視察団は会議室へ通された。

 テーブルの上に置かれたのは、冷えたペットボトルのお茶。


「こんな物しかありませんが、どうぞ」


 神凪が軽く笑う。視察団は席につくと、すぐに本題に入った。


「神凪さん。現在、地球上では百年近く戦争が起きていませんが──宇宙からの脅威が迫っています」


 NASA上層部の言葉に、神凪はぽかんとした表情を浮かべる。


「……宇宙? 戦争? 本気で言ってるんですか?」


「はい。確実な日時は不明ですが、近い将来“宇宙戦争”が現実になります」


「……オカルトかよ」


 神凪は呆れたように肩をすくめた。

 彼の表情には、完全な不信感が浮かんでいる。


「信じられないのも無理はありません。しかし、これは機密レベルAの事実です」


「それで? その話が俺と何の関係があるんです?」


「あなたに──NASA特殊空挺チームへの参加をお願いしたい。あなたの腕が、地球の未来を左右します」


 会議室に静寂が落ちた。

 まさかのスカウト。しかも戦場は宇宙──。神凪は言葉を失う。


「あなた以外にも、世界中からエースパイロットを集めています。後悔はさせません」


 スカウト担当が熱を込めて訴える。

 だが、神凪はどこか冷めた表情で呟いた。


「そんなに人がいるなら、俺が行く必要もないだろ」


「私はあなたと歳はそれほど変わりませんが──長年管制官として、多くのパイロットを見てきました。

 神凪さん、あなたほどの人間に出会ったことはありません」


 リサの言葉に、神凪はようやく視線を向ける。

 その瞳は、真っすぐだった。


「あなたが宇宙でどんな航行を見せてくれるのか、見てみたいんです。

 訓練だけでも……参加してもらえませんか?」


 神凪はしばらく黙り込んだ。

 そして、ため息をひとつ。


「……訓練だけ、な。やってみて、それから考える」


「ありがとうございます。詳細は後ほど送ります」


 リサは安堵の笑みを見せた。

 視察団が退出した後、神凪は静かに立ち上がる。




──那覇基地・上官室。


「上官、どういうことですか。俺はもう、第一空挺隊に必要ないんですか?」


「違う。お前は“ここ”に必要なくなったんじゃない。世界に必要とされているんだ」


 上官は真剣な目で神凪を見た。

 宇宙からの刺客──その情報は、国家を超えた極秘事項だった。


「日本の誇りを胸に行け。宇宙で勲章をもらってこい」


 神凪は一礼し、静かに答えた。


「……訓練には参加します。でも、その後どうするかは……自分で決めます」


 上官はうなずいた。その背中を見送りながら、心の中で呟く。


 ──“空の支配者”が、今、宇宙へ飛び立つ。




──約一ヶ月後・NASA宇宙特殊訓練施設。


 世界各国から集まった超エリートパイロットたち。国を代表する十数人の中に、神凪の姿があった。


「皆、よく集まってくれた。君たちは地球最後の防衛ラインだ」


 司令官グレッグが前に出る。

 鋭い眼差しで全員を見回し──神凪に視線を止めた。


「……そして神凪。ようこそ、NASAへ。

 君が最後の一人だ。自己紹介を頼む」


 神凪は少し照れくさそうに前へ出た。


「日本から来ました。神凪裕二です。どうぞ、よろしくお願いします」


「よし、訓練開始だ! 全員、シミュレーターへ!」


 掛け声とともに、パイロットたちが立ち上がる。

 その中で、神凪だけがわずかにため息をついた。


「宇宙ね……空より上があるなんてな」


 NASAでの最初の訓練──それは、

 “空の支配者”にとって、初めて味わう屈辱の日となるのだった。




第6話 了


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