第1話「第一空挺隊一番隊長」


『十時の方角から敵偵察船二機を確認! 総員、配置につけ!』


 管制室からの指示で三機の戦闘機が陣形を取る。先頭機の後ろに二機が下がり、三角形のフォーメーション。

 一人乗り小型シャトルのような最新鋭戦闘機──その名は“ツバメ”。隼や鷹も候補に挙がったが、水平飛行で最速を誇るツバメが採用された。


 舞台は木星宙域。宇宙の静寂を切り裂く戦闘が始まろうとしていた。


『熱源感知! レーザーに備えろ!』


「了解、両翼展開!」


 先頭機の合図と同時に両翼が左右に広がる。そこへ敵のレーザーが飛来。だが機体はすり抜け、直撃を免れた。


『両翼、反撃レーザー!』


「了解!」


 左右の機体が回頭しレーザーを発射。しかし、光線は虚しく宇宙を裂くだけ。


 二度目の射撃も空を切った。


 先頭機のコックピット。操縦桿を握る男の手が小刻みに震えていた。恐怖ではない。怒りだ。


「もういい! お前ら引っ込んでろ!」


 神凪裕二(かんなぎゆうじ)の怒声が響き、両翼の二機は渋々後退する。その声は管制室にも届いていた。


「また……。まったく、これだから空軍出身は……」


 モニターに映る神凪の単独突撃。ブロンドの髪を掻き上げ、頭を抱える管制官リサ・マグワイヤー。日系アメリカ人の彼女は深いため息をつく。


『敵機、左右に展開!』


「一人じゃ無理よ! 戻りなさい!」


「やめろ! 邪魔なだけだ!」


 神凪はエンジンを全開にし、敵二機のうち右を追う。鋭い旋回で背後を取り、ロックオン。赤いカーソルが敵を捉える。


「……はい、ご苦労さん」


 トリガーを引く。光束が敵機を貫き、数秒の静寂の後、爆散。音はない。破片は放射状に飛び散り、虚空を漂うだけ。


「やっぱり……ここじゃ倒した実感が湧かねぇな」


 破片を縫いながら呟く神凪。その背後に──。


「神凪! 後ろだ!」


 リサの声。もう一機が背後に迫っていた。


「ありゃ、マズイね」


 神凪は下方に噴射、上へ旋回。空なら背後を取れる機動。しかし宇宙は違う。


「空じゃこれで通用したんだが……宇宙は勝手が違いすぎる……なっと!」


 巧みに噴射を切り替え、敵機を翻弄する神凪。だが背後は奪えない。


「さて、どうしたもんか……」


 前方に木星の衛星エウロパが見えた。神凪は加速し、その重力に乗る。


 周回軌道に入り、速度を蓄積。


「……今だ!」


 一気に全開噴射。スイングバイで加速し、旋回した瞬間には敵機の背後に回り込んでいた。


「……スイングバイ」


 リサは息を呑む。彼の直感が、宇宙の理を味方につけた。


 再びロックオン。光束が敵機を撃ち抜く。

音もなく爆散する。


『敵機殲滅確認。直ちに帰艦せよ』


「はいよ〜」


 気の抜けた返事の直後、リサの無線が飛ぶ。


「あなた、スイングバイを知ってたの?」


「は? スイング……なんだって?」


「……呆れた。知らずにやってのけたの?」


「何のことだ?」


「まぁいいわ。戻ったら話がある。あなたは個人行動が過ぎます」


「おいおい、あんな下手くそどもとやってたら、何機あっても足りねぇぞ?」


「……空では優秀だったかもしれないけど、ここは宇宙。隊長だか船長だったか知らないけど、こちらに従って」


「隊長な。“一番隊、隊長”。勝ったんだからいいだろ?」


「まったく……続きは戻ってから話します」


「はいはい」


 偵察部隊を撃破したものの、不穏な空気が漂う木星宙域。


──彼はなぜ、空を捨て宇宙に来たのか。

 これは、宇宙を舞台に繰り広げられる惑星間戦争の序章にすぎなかった。




第1話 了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る