人を騙すことに長け、誰とも群れずに生きてきた詐欺師・クロウ。
彼が次の標的に選んだのは、外資系リゾート会社を率いる若き女社長・水野冴子でした。
しかし、彼女にはすでに別の詐欺師が接近している。
その名は、正体不明の若き詐欺師・レイヴン。
誰が誰を騙しているのか。
誰が真実を知り、誰が知らないふりをしているのか。
相手の言葉や仕草を読み、罠を仕掛けるはずのクロウが、いつの間にか自分自身の感情だけは見抜けなくなっていく展開に、一気に引き込まれました。
冴子へ近づくために口にした甘い言葉。
過去を語る彼女へ向けた同情。
そして、彼女を別の詐欺師から守ろうとする焦り。
最初はすべて、獲物を手に入れるための演技だったはずです。
けれど、彼女の過去に触れていくうちに、嘘として始まった感情の中から、クロウ自身も知らなかった本心が浮かび上がっていきます。
人を騙すことには慣れていても、誰かを信じることは知らない。
誰かの心を操ることはできても、自分の心が動いた理由は分からない。
そんな孤独な詐欺師が、罠かもしれないと疑いながらも、初めて自分以外の誰かのために動こうとする姿が印象的でした。
本作の魅力は、もちろん詐欺師同士の駆け引きと、二転三転する展開です。
提示される情報を追うたびに、獲物と仕掛ける側の位置が入れ替わり、読者もまた、何を信じればよいのか分からなくなっていく。
怪しい人物が見えているからこそ、別の場所に仕掛けられた罠を見落としてしまう。
その構成がとても巧みでした。
そして、物語を貫く「バードカービング」という言葉。
偽物の鳥を置くことで、本物の鳥を安心させ、呼び寄せるための囮。
では、この物語で囮に引き寄せられた鳥は誰だったのか。
女社長か。
クロウか。
それとも、別の誰かなのか。
最後まで読むと、それまで何気なく置かれていた言葉や人物の役割が一斉に反転し、タイトルの意味まで鮮やかに変わります。
けれど、心に残ったのは、誰が勝ち、誰が騙されたのかということだけではありません。
詐欺師としての計算を失い、損得も忘れ、一人の人間として誰かを守ろうとしたとき、クロウは何を失い、何を手に入れるのか。
嘘と欲望が交錯する中で、本物の感情だけが最も危険な賭けとなる。
騙し合いの緊張感と、孤独な男の心の変化が重なった、最後まで目を離せないコンゲーム・サスペンスです。
誰が仕掛けた罠なのかを考えながら、ぜひ最後まで騙されてみてください。
アタヲカオさんの最新作は、詐欺師クロウを題材にしたハードボイルドタッチの中編です。
手に汗握る展開に、つい一気読みしてしまいました。
推理小説という特性上、ストーリーをお話すると、謎解きのヒントになってしまいますので、やめておきますが、本作のテーマは、ベテラン詐欺師のクロウが、若手イケメン詐欺師のレイヴンを出し抜いて、業界の一線に留まれるか、という瀬戸際の事件を扱ったものになります。
これで負けたら、オレも焼きが回ったな。。そう進退をかけてレイヴンに挑み、そこに魅力的な謎の女社長冴子も登場し、しかも何か親し気に近づいてくる。誰が真実を知り、誰が知らず、誰が知らないふりをしているのか、読者の予想はエピソード事にくるくると変わっていきます。
しかし、最後、これは想像せんかったな。。白旗、脱帽。
お見事です。これはお勧めですよ!