SUPREMACY

@terign

第1話

覇星暦5931年〈ルクタ王国:ポードル街〉


女性「やめてください!離して!私のバッグ…返してください!」


盗人1「ひゃひゃ!力ずくで取ってみろよ!」


盗人2「こんな女放っといて、さっさとずらかるぞ!」


盗人1「チッ…何だよ、少し楽しむくらい良いだろうが。」


路地裏でバッグを奪われた女性。盗人2人組は女性を突き放し、今にも逃亡しようとしている。


デルカ「おい。」


盗人たちが逃げようと女性に背を向けると、路地裏の入口に1つの人影が立っていた。


盗人1「なんだテメェは!そこをどけ!」


デルカ「そのバッグを返してやりな。」


盗人1「あぁん?本気で言ってんのか?」


デルカ「女性は大切にしろよ。」


盗人2「どうする?やっちまうか?」


盗人1「へっ…決まってんだろ。ぶち殺せ!」


盗人たちは拳銃を取り出し、デルカに向けた。


デルカは自分の腕に着いているコファリを盗人たちに向けた。


盗人1「あ?何の真似だ。」


盗人2「そいつは…コファリか。」


デルカ「FK…159。銃を装備してそれか。」


盗人1「コファリ?FK?」


盗人2「フン…舐めやがって。くたばりやがれ!」


盗人の1人がデルカに拳銃を発射するも、デルカはそれを間一髪で躱した。


盗人1「チッ…調子に乗るな!」


もう1人もデルカに乱射するが、デルカはそれら全てを躱しながら盗人たちに迫った。そして、それぞれの腕で彼らの鳩尾に拳を叩き込む。


盗人たち「ガハッ…!」


盗人たちはそのまま倒れ込み、気絶した。


デルカ「大丈夫かい?お嬢さん。」


母親「は…はい。ありがとうございます…!」


デルカは彼らが持っていたバッグを女性に渡すと、その場から立ち去った。


デルカ「ふぅ…寄り道しちまった。早く帰って、ロイにこれを渡さねえと。」


デルカが身につけていたのは腕時計に似た機械、コファリエンタ。略してコファリと呼ばれるものであった。デルカはそれを自分に向け、ボタンを押した。


「FK 327」


デルカ「やれやれ…俺も落ちてきたな。」


デルカはその足で、街の外れにある家へ帰宅した。


デルカ「ロイ!帰ったぞ!」


デルカが玄関の扉を開けてそう叫ぶと、廊下の奥からロイが迎えた。


ロイ「おかえり、父さん。」


デルカ「すまねえ、遅くなっちまった。ひとまずこれを渡しておきたくてな。」


ロイ「これ…父さんのコファリじゃ…。」


デルカ「お前もそろそろ、自分用のコファリを身につけておいても良いだろう。俺はこれから隣町のスーラに用事があるから、これはお前にやるよ。」


ロイ「へへ、ありがとう。そういうことなら貰っておくよ。」


デルカ「ああ。んじゃ2日くらい留守にするから、渡した3,000ギラで適当に済ませてくれ。」


ロイ「了解。」


そう言ってデルカが家を出ようとした、その時だった。


デルカ「ん?」


ロイ「父さん、どうしたの?」


デルカ「いや…あれだ。」


デルカが空を指さすと、10kmほど先の上空に人影が浮いているのを発見する。


ロイ「何だ…あいつ?あんな所で何してんだ。」


デルカ「さあな…だが、空を飛べるってことは少なくとも…。」


ロイ「コファリは届く?」


デルカ「バカ言え。この距離で届くかよ。それにもうそれはお前のだろうが。」


ロイ「ああ、そうだな…。」


次の瞬間、空中に浮いていた男は右手を振り上げ、巨大な火の玉を生成した。


デルカ「なっ…まさか…。」


ロイ「あれは…。」


火球が大きくなるにつれて、真下のビルの屋上が溶けていくのが分かった。


デルカ「ロイ、逃げるぞ!」


ロイ「で、でも…。」


デルカ「良いから早くしろ!家と命どっちが大切なんだ?!」


ロイ「…。」


デルカはロイの腕を引っ張り、家を飛び出した。そのまま街の上空を飛び、できるだけ遠くに向かう。


デルカ「くっ…どこまででかくなりやがる…。」


ロイ「父さん…。」


デルカがポードル街を出て、既にスーラを通過しようとしていたその時。ふと後ろを振り返ると、既に見えなくなっているであろうはずの火球がハッキリと見えるのが分かった。


デルカ「な…嘘だろ…あのデカさ…王国ごと吹き飛ばす気か?」


ロイ「父さん、もっとスピード上げてくれ!」


デルカ「くっ…!」


デルカは全力で空を駆け抜け、街全体を包み込むほどに巨大化した火球から離れようとした。しかし、突如その火球はポードル街に放たれ、街はあっという間に火の海に包まれた。そして直後、ポードル街の中心から周辺に巨大な爆風が襲いかかった。


デルカ「まずい…このままじゃ…!」


ロイ「うおおお!!」


それまでロイの腕を引っ張っていたデルカだったが、ロイは急速に加速し、デルカの腕を引っ張って全力で爆発から遠ざかろうとしていた。


デルカ「ロイ…!」


しかし、無情にも爆発はすぐ直前まで迫り、2人諸共焼き尽くされようとしていた。その時。


デルカ「俺に構うな!走れ!逃げるんだ!」


デルカがロイの手を引き離し、ロイを東へ向かって蹴り飛ばした。


ロイ「父さん…父さん…!」


デルカ「行けぇぇぇ!」


ロイ「父…。」


直後、デルカの身体を爆炎と煙が包み込んだ。


ロイ「父さぁぁぁぁん!」


ロイは数秒間その光景を目に立ち止まったが、すぐに東へ向かって最高速で突き進んだ。


ロイ「クソ…クソ…!」


ロイは泣き崩れながらも東へ進み続け、気づけば10分が経過していた。既に爆炎は遥か遠くに過ぎ去っている。


ロイ「…ここは、どこだ。」


ふと西に目をやると、その先は地獄と化していた。爆発は収まったようだったが、ルクタ王国は見る影も残っていなかった。辺り一帯が焦土と化している。


ロイ「父…さん…クソぉぉぉ!」


しばらく、どこかの街の上空で呆然としていたロイだったが、ふと顔を上げた。


ロイ「…とにかく、まずは街に降りよう。」


ロイは真下に広がっている、どこか別の王国の街へ降り立った。


ロイ「ここ、もしかして…ハルフ王国か?」


ロイは、いつぞやに父デルカから聞いていたものとそっくりな時計台を発見する。


ロイ「ルクタからは東…やっぱり…間違いない…ハルフ王国、リューンだ。」


ロイはこの時、一銭すら持っていなかった。あるのは、父がくれたコファリのみ。そのままロイは、訳も分からずリューンの郊外に広がるディアス山へ向かった。


そして、その夜…ロイは山奥で1人、火を起こし、焚き火の横に呆然と転がっていた。


ロイ「これから…どうしよう…持ち物は何も無い…王国ももう無い…俺は一体…。」


ロイの目から涙が止めどなく溢れた。そんな中、彼の脳内には父デルカが最後に残した言葉が響く。


デルカ「行けぇぇぇ!」


ロイ「父さん…俺…どうしたら良いんだ…?もう俺には、何も残ってない…。」


今まで当たり前のように存在していた全てが、たった一瞬、火の玉一発で塵のように消え去った。


そんな時、ロイが下を向くと、ふと自分の腕にはめっぱなしにされていたコファリが目に入る。


ロイ「これ…父さんの…。」


ロイはコファリの電源を入れた。それを自分に向けると、画面にはロイのFKが表示された。


ロイ「224…。」


ロイ「…そうだ。やらないと。…強く、なるんだ。父さんよりも、誰よりも…そして、あいつを…あいつをこの手で…!」


復讐。その黒く燃える感情だけが、暗闇の中で唯一の道しるべとなった。この日から、ロイの孤独な戦いが始まった。


獣を狩り、木の実を食らい、川の水をすする。生きるための原始的な日々。そして、それ以外の全ての時間を、己を鍛えることに費やした。


岩を殴り、拳が砕けてもやめない。滝に打たれ、意識が遠のいても立ち続ける。巨大な獣と素手で渡り合い、死の淵を何度も彷徨った。


父がどうやって強くなったのかは知らない。だが、これしか方法は思いつかなかった。ただひたすらに、痛めつけ、追い込み、限界を超え続ける。悲しみと怒りを全て力に変えるように。


そして、3年の月日が流れた。


覇星暦5934ハルフ王国:ディアス山


朝日が差し込む森の中を、一つの影が疾風のごとく駆け抜けていた。


木々を障害物と感じさせない、まるで獣のような滑らかな動き。その影は、体長10メートルはあろうかという巨大な牙を持つ猪型の魔獣「ギガントボア」の背後に、音もなく着地した。


ギガントボア「ブルルォォォ!」


ようやく気配を察知した魔獣が咆哮と共に振り返る。だが、それよりも早く、影は地を蹴っていた。


ロイ「…ふっ!」


19歳になったロイ。彼が放った拳が、ギガントボアの硬い頭蓋を豆腐のように貫いた。巨体は悲鳴を上げる間もなくその場に崩れ落ち、大地を揺らす。


ロイは、ゆっくりと魔獣の骸から腕を引き抜いた。


ロイ「…今日の飯は、これにするか。」


その夜。ロイは仕留めたギガントボアの肉を焚き火で炙りながら、静かに空を見上げていた。


3年間、毎日のように繰り返してきた光景。しかし、今夜で見納めだった。


ロイ「父さん…。」


コファリをそっと撫でる。この3年間、父の形見はロイにとって唯一の支えだった。


ロイ「俺は、強くなったよ。でも、まだ足りない。あいつを殺すには、きっとまだ…。」


脳裏に焼き付いて離れない、あの日の光景。空に浮かぶ人影。全てを焼き尽くした巨大な火球。そして、爆炎に消えた父の背中。


ロイ「必ず見つけ出してやる…。」


ロイはその場から立ち上がり、食べかけの肉を火に投げ入れると、唯一の持ち物であるコファリが腕にしっかりと装着されていることを確認した。


夜明けと共に、彼は3年間過ごした山に背を向けた。目指すは、ハルフ王国の首都ラハブ。情報、金、そしてさらなる強者との戦い。復讐に必要な全てが、そこにあるはずだった。


ディアス山を降りたロイは、首都ラハブを目指して一直線に飛行していた。数分もしないうちにラハブへ到着したロイは、到着早々路頭に迷っていた。


ロイ(人が多い…まずは情報を集めたいが、金も無い。どうする…。)


身なりは山で狩った獣の皮をなめして作った粗末なもの。道行く人々は、そんな彼を訝しげな目で見ながら通り過ぎていく。


その時、街の一角に大きな人だかりができているのが目に入った。


観客1「おいおい、今日の挑戦者は威勢が良いじゃねえか!」


観客2「だが相手は“鋼腕のゴライアス”だぜ?1分持つかどうか…。」


人垣の中心では、簡素なリングが設けられ、2人の男が対峙していた。一人は屈強な体躯を持つ大男。もう一人は、まだ若そうな青年だった。


司会者「さあさあ、始まりました!ラハブ名物、賭け試合!我らがチャンピオン、ゴライアスに挑む命知らずはこいつだ!勝てば一攫千金30万ギラ!負ければあの世行きだぁ!」


ロイ(賭け試合…か。金を得るには、これが一番手っ取り早いかもしれないな。)


ロイがそう考えた瞬間、ゴングが鳴り響く。挑戦者の青年が果敢に攻め立てるが、ゴライアスと呼ばれた大男は、その攻撃を分厚い腕で全て受け止め、ニヤリと笑う。


ゴライアス「終わりだ、ガキが。」


ゴライアスの一撃が、青年の腹部にめり込んだ。たった一発。青年は白目を剥いて崩れ落ち、リングは観客の歓声に包まれた。


司会者「勝者、ゴライアース!つええ!圧倒的に強え!これで30連勝だ!さあ、他にチャンピオンの首と30万ギラを狙う馬鹿はいるかぁ!?」


観客は囃し立てるが、誰も名乗り出ようとはしない。その静寂を破り、人垣をかき分けて一人の男がリングへと歩みを進めた。


ロイ「…俺がやる。」


獣皮をまとった見すぼらしい姿のロイに、会場の空気は一瞬で嘲笑に変わった。


ゴライアス「あぁ?どこの山猿だ、てめえは。命が惜しくねえのか?」


ロイ「あんたを倒せば、30万ギラが手に入る。違うか?」


司会者「へっ!面白い!良いだろう、契約書にサインしろ!死んでも文句は言わねえってな!」


ロイは淡々と契約書にサインを済ませ、リングに上がった。観客席からは「やめとけ!」「殺されるぞ!」といった声が飛ぶ。


ゴライアスは腕につけていたコファリをロイに見せつけた。画面には「FK 189」の文字が浮かび上がっている。


ゴライアス「おい、山猿!俺様のFKは189だ!てめえはいくつだ?5か?10か?ひゃははは!」


だが、ロイは表情一つ変えなかった。


ロイ「…見せる必要もない。」


彼は自分のコファリを隠すように腕を組んだ。


司会者「なんだとぉ!?さてはFKが低すぎて見せられねえか!面白い!ゴングを鳴らせ!」


カン!と甲高い音が鳴り響く。ゴライアスは凄まじい威圧感で、ゆっくりとロイに歩み寄った。


ゴライアス「後悔させてやるぜ…塵にしてやらあ!」


鋼鉄のような拳が、ロイの顔面を目がけて振り下ろされた。観客の誰もが、次の瞬間にはロイの頭が砕け散る光景を想像し、目を覆った。


しかし、爆砕音はいつまで経っても聞こえない。恐る恐る目を開けた観客たちが見たのは、信じられない光景だった。


ロイは、ゴライアスの巨大な拳を、人差し指一本で、ぴたりと受け止めていた。


ゴライアス「な…に…?」


会場のどよめきも、ゴライアスの驚愕も、ロイの耳には届いていない。


ロイ「…終わりか?」


ゴライアス「ば、馬鹿な…俺の拳が…指一本で…!」


ロイ「じゃあ、次はこっちの番だ。」


ロイが、指を弾いた。ただそれだけで、ゴライアスの巨体はリングのロープを突き破り、観客席後方の壁に叩きつけられた。壁に巨大な亀裂が走り、ゴライアスは白目を剥いて気絶していた。


一瞬の静寂の後、ラハブの賭け試合会場は、かつてないほどの怒号にも似た歓声と、絶叫に包まれた。


司会者「な…ななな…何が起こったんだぁーーーっ!?」


ロイは、騒然とする会場を背に、司会者の元へ歩み寄る。


ロイ「30万ギラ、貰うぞ。」


そして、彼の腕のコファリの画面が、一瞬だけ光った。その数値を偶然見てしまった司会者は、腰を抜かし、声にならない悲鳴を上げた。


「FK 352」


それは通常のコファリでは測定不能を叩き出すレベルの、まさに異常値だった。


司会者「そんな…ば、化け物だぁぁ…!」


腰を抜かした司会者から、ロイは無言で革袋を受け取った。そして、ロイは騒がしいリングを離れ、服屋に向かった。


獣皮の服を脱ぎ捨て、黒いフード付きの半袖パーカーと、簡素なジーパンを身に着ける。それだけで、山での野生的な雰囲気は解消され、都会の風景に溶け込むことができた。武器は必要なかった。己の肉体こそが、最強の武器だったからだ。


次に、宿屋で一部屋確保し、数日ぶりにまともな食事を摂る。そして、宿のシャワーで今までの汚れを洗い流し、自分の部屋で思考を巡らせた。


夜になると、ロイはラハブの裏通りにある、とある酒場を訪れていた。そこは、街の情報が集まる場所として知られている。


カウンターに座り、無愛想なバーテンダーに一番高い酒と、つまみをいくつか注文する。周囲の客たちは、ロイの若さを見ながらも、彼が放つ只者ではない雰囲気に気圧され、遠巻きに様子を窺っていた。


ロイ「マスター、聞きたいことがある。」


バーテンダー「…うちはただの酒場だぜ。」


ロイ「3年前、東のルクタ王国で何があったか、知っていることはないか。」


ロイの言葉に、バーテンダーの眉がピクリと動いた。店内のざわめきが一瞬だけ静まる。


バーテンダー「…古い話だな。公式発表じゃ、大規模な地殻変動ってことになってる。それ以上でも、それ以下でもねえ。」


ロイ「噂でもいい。どんな些細なことでも。」


ロイはテーブルの上に、硬貨を数枚滑らせた。バーテンダーはそれをちらりと見ると、ふっと息を吐いた。


バーテンダー「…あんた、本気か。あの事件に関わるのは、死にに行くようなもんだぜ。」


ロイ「構わない。」


バーテンダー「…分かった。だが、俺より詳しい奴がいる。街一番の情報屋、『蜃気楼のジン』だ。あいつなら、何か掴んでるかもしれねえ。ただし…あいつの情報は、魂だって奪われるほど高いって話だ。」


バーテンダーから聞いた場所は、迷路のように入り組んだ路地裏の最奥にあった。古びた扉をノックすると、軋むような音と共に内側から鍵が開けられる。


ジン「何の用だ?」


中から現れたのは、痩せこけた体に、眠そうな目を細める、いかにも胡散臭い男だった。彼こそが街一番の情報屋と噂される「蜃気楼のジン」だ。


ジン「…ほぉ。ガキが何の用だ。おもちゃの情報なら、他を当たりな。」


ロイ「ルクタ王国を滅ぼした犯人の情報が欲しい。」


単刀直入なロイの言葉に、ジンの眠そうな目がカッと見開かれた。彼は慌てて周囲を見回し、ロイを室内に引きずり込むと、素早く扉に幾重もの鍵をかけた。


ジン「てめえ!正気か!?その名前を軽々しく口にするんじゃねえ!」


ロイ「知っているんだな。」


ジン「知るか!俺は何も知らねえ!帰れ帰れ!」


ロイ「30万ギラ、払う。」


ロイが賭け試合で得た全財産を革袋ごとテーブルに叩きつけると、ジンの喉がゴクリと鳴った。彼は革袋の中身とロイの顔を何度も見比べ、やがて観念したように深いため息をついた。


ジン「…あんた、一体何者だ。あの事件に首を突っ込むなんて…まあいい、金は貰う。だが、これで死んでも俺を恨むなよ。」


ジンは部屋の奥にある金庫から、一枚の紙を取り出してきた。


ジン「公式には地殻変動。だが、嘘っぱちだ。あれは『攻撃』だ。誰かが、意図的に王国を消し飛ばした。」


ロイ「…犯人は?」


ジン「分からねえ。だがな…一つだけ、奇妙な情報がある。」


ジンは声を潜めた。


ジン「事件の直後、ハルフ王国の国境警備隊が、ルクタ王国跡地の上空で謎の高速飛翔体を観測している。それは真っ直ぐ東へ…『第3都市ネブラ』の方角へ飛び去った、と。」


ロイ「ネブラ…?」


初めて聞く地名だった。


ジン「なんだ、知らねえのか?このハルフ王国は、第1都市ラハブから第8都市デネブに分かれてる。都市の間には、名もない山脈や自然、そして小規模な町が広がってる。」


ジンは続ける。


ジン「ルクタを滅ぼしたのが、未知の兵器だったと仮定するなら…そんな途方もない技術を持っている可能性があるのは、ネブラくらいしか考えられねえ。犯人がそこにいるか、少なくとも何らかの手がかりがあるはずだ。」


ロイ「兵器…あれが?」


ジン「なんだ、あんた知ってんのか?まさか…。」


ロイ「ああ。俺はその事件の生き残りさ。」


ジン「なっ?!おいおい、マジかよ…生き残りがいたってのか?」


ロイ「…とにかく、そのネブラってのに行けば、何か分かるかもしれないんだな?」


ジン「ああ、恐らくな。」


ロイ「どうすれば、そこへ行ける?」


ジン「ラハブから東へ向かえば、まず第2都市ヘレブが見えてくる。ネブラは第3都市だから、その先だ。ここからは…車で行くなら、ざっと2時間ちょいってところか。」


ロイは黙って立ち上がった。


ジン「…あんた、見た感じ…車持ってねえんだろ?」


ロイ「なんで分かる?」


ジン「あんたが本当にルクタの生き残りだってんなら、まともな手段で逃げてきたとは到底思えねえ…もし仮に、攻撃の際どこか別の国にいたとして、外国にわざわざ自分の車を持っていくとは考えられん。」


ロイ「…あんたは頭は良いんだろうけど、考え方はまるでダメだ。」


ジン「は?そりゃどういう意味…。」


そのままロイは、情報屋の隠れ家を後にした。街の灯りが微かに漏れ出る夜の中、ラハブのアスファルトを勢いよく蹴り、東へ飛び出した。目的地は、第3都市ネブラ。父の仇に繋がる手がかりを求め、ロイの新たな旅が、今、始まる。

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