ぐうたら天使。ーたまには天使らしく頑張ります。えい。ー

四方山花風

第1話 いっぱい寝れるらしい

「暖かな日差しだぁ。

眠るのにはぁ、ちょうどいいねえ」


木のベンチの上に寝転がっている猫に対して、そう声をかける少年が一人。

猫のふわふわとした毛並みに負けないくらいくせっ毛な乳白色の髪の毛、眠そうに下弦の月を描いている眦と、その中に輝く緑色の瞳。


真白の1枚布と黄色の帯飾り、葦で編まれた草履をはいた姿は古代ギリシアのキトンのように見える。


彼の名前はアイダ・ワインフェル。

食べることと、たまにやる気を出して働くこと以外は、寝て過ごしていたらいつの間にか死んでしまった一般人だ。


「君はぁ、そろそろ向こうに行くのかい?ああ、そうなんだ。それはちょっと寂しくなるねぇ」


「ふぁあ〜」と呑気に欠伸をしながら、これまたのんびりと「んにゃー」と話す猫に返す。

彼はこうして、何人も何匹も何回も生まれ変わっていく生命を見守ってきた。


天界に召し上げられた時は、もっと自分と似たような格好の人と共同で色々と働いていたはずだが、気が着けばこうして自分の管理区画といつまでも寝てていい、「魂の平穏」アタラクシアという肩書きを任されていた。


「最近は、だーれも来なくて、静かだねー」


アイダはここのところ、たまに訪ねてくる友人たちが一切来ないので、お気に入りの羽根布団にくるまって寝ていた。

とうに時間感覚なんてものは溶けているので、友人たちがやってくるのだけが彼にとっての時報となっていた。


その友人がやってこないのであれば....


もちろん熟睡するためのベストポジションを探す散歩に決まっていた。

ついでにこの先数百年眠ってもいいように管理区画の見回りも兼ねて。


この空間では空腹になることがないので、ありとあらゆる生命が仲良くすごしていた。

中央にある噴水では白鳥が歌い、家鴨がそれに合わせて踊っている。そのまわりでは蛍や蝶が煌めいて水鳥たちをテラテラ輝かせていた。


綺麗に整備された大理石の道を歩いていると、犬や馬、そしてそれに乗った猫に鶏が此方に頭擦り寄せてきた。


「はっはっは。よきにはからえ〜。君たちももう少ししたら行ってしまうんだね。ま、眠たくなったらいつでも帰っておいで」


アイダは天使であるため、一応それらしい言葉をかけておく。それを聞いていた動植物たちは、彼のらしくない行動にクスリと笑いあった。


しばらく進むと、今度は穏やかな風とそれに吹かれてサラサラと笑う薔薇たちに出くわす。


「おやおやあ、今日は風くんもお休みかい?いいねえ、ゆっくりしていきなぁ」


下界で吹いている風にも休みたくなる時があるらしく、たまにこうして休みに来ていた。

そうすると決まって薔薇たちが楽しそうに身を揺らしているのだ。


そうして順繰りに巡っていき、最終的にたどり着いたのはやっぱりあのベンチだった。


「ごめんよ、猫くん。ちょっと隣で横になるねえ〜。何か用があったら、まぁ、おこひへよぉ....」


アイダは隣で気持ちよさそうに身を丸めている猫にそれだけ言うと、自身の腰より少し上から生えている羽にくるまって寝てしまった。


これが彼、アイダ・ワインフェルの穏やかな日常である。

そして彼が寝静まったのを確認した生き物達は、この空間の主を起こさないよう、自らも同じように眠りにつくのであった。

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