第13話 盛りましょう


 恐ろしいことをコウジが口にします。


「まだちょっと物足りないよなあ。あっ、調理室に行けば何かあるんじゃね?」


「おおっ、いいじゃん!」


 調理室ですって? 私の体に今度は何の食物を貼り付けようというの?


「私は食べ物ではありませんことよ!」


「本体は食べてませんよ?」


「そういう問題ではありません!!」


 このコウジという男、凌太郎と大差ありません。完全に私で遊んでいるのですわ。どうしてここには、こんなポンコツな人間ばかりが集まっているのでしょう。


「よくお考えなさい。もしご自分が同じことをされたらどう思われるの?」


「楽しそうですけど」


 ああ、話になりません。体の力が抜けそうです——そもそも力は少しも入りませんが。この男はそう、変態です。そうに違いありませんわ!


「凌太郎はどう思って? あなたは私の執事。主人である私がこんな惨めな扱いを受けているというのに、なぜお止めにならないの!?」


 凌太郎はきょとんとしています。それから首を傾げて言いました。


「惨めとは思いませんが」


「……はあ? 何をおっしゃっているの?」


「ご希望の通り、白くて柔らかい肌をご提供しているだけですよ。それに食べ物を粗末にはできませんから、捨てずに食べるのがマナーですよね?」


 どの口がマナーなどと。乙女の体をこれほどぞんざいに扱っておいて。


 凌太郎は「さあ、行きますよ」と言って私を吊り上げて運び始めます。


「これ以上はおやめなさい! 食べ物を貼り付けて戯れている様子など、記録してどうするの?」


「あのですねスカルさん。撮影は誰かに見せるためだけじゃなく、今後の参考にしていくためでもあるんですよ?」


「それ以前の話をしているのです。こんなこと試さなくても、ちゃんとした肉体にならないことくらい事前に想像できますわよね?」


「肉体とか想像とか、興奮しちゃうんでやめてくださいよ」


「あーー、もう!!」


 心底イライラしますわ。まともに会話する気がないのでしょうか。ふざけたことを言って、ずっと私をからかうばかりで。


「食物など肌になりえるわけがないと言っているのです」


「そうですか? 肌と似たようなものだと思いますけど」


「どこが似ているの?」


「白くて柔らかくて、調理すれば食べられそうなところとか」


 なんなんですの、その子供じみた発想は。表情ひとつ変えずに、よくもそんなことが平然と言えたものです。神経を疑いますわ。


「では、あなたは人間の体も食べられると言うの?」


「それは無理ですけど」


「ならば、なぜ私の体なら平気だと?」


「正確には体じゃないですよね? 現状は、骨だけの体に食べ物盛って食べてるだけなんで」


 全く呆れ返ります。子供の言葉遊びに付き合わされている気分です。私は真面目な話をしているというのに。


「私の体はお皿ではなくてよ!」


「そうですね。文句を言うお皿なんて聞いたことないですよ」


「そうじゃなくて!」


「もう~、堅いこと言わないで下さいよ。こうしてみんな一緒に楽しくやってるんですから」


 楽しい?――冗談じゃありませんわ!


 私の理想の肉体を作り上げることを口実に、ずっと悪ふざけの連続。こんな屈辱を楽しくやっているなどど言われる私の気持ちなど、微塵も考えもしないで。


 フックで吊られて引き回されて、挙句これからさらに戯れの道具として弄ばれるなんて。一刻も早くまっとうな肉体を手に入れたいというのに。


「着きましたよ、スカルさん。たくさんね」


「お断りですわ」


「またまた~、そんな言い方して。前世と違っていっぱい遊べて、実はうれしいって思ってません?」


「思っていません!」


 ありえないですわ、決めつけた言い方をして。私はルクセンブルク家の高貴なる立場、身に着けるべき教養は山ほどあるのです。遊んでいる暇などありませんわ。


「ほんと、相変わらずですね。生まれ変わってもわざわざそんな堅苦しい生き方して、シワが増えますよ?」


「失礼ね、シワなんてありません!」


「そうでした。骨にシワはありませんでした」


 なんなんですの、本当に。この男は私をイライラさせる天才ですの?


「でもスカルさん」


「何よ!?」


「生き方、考え直した方がいいですよ? 肉体を手に入れても、今のようにイライラしていては、すぐにシワになっちゃいますから」


 馬鹿にするにも程があります。


 あまりにも頭に来すぎて、怒る気が失せてしまいました。呆れの極みです。何を言ってもこんな様子では。


「ということで、次は何を盛りましょうか?」



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