第7話 今夜は僕の家で


 骨を曝し、弄ばれた私。まだまだ試練は続きました。


「拡散希望でーす! よろしくお願いしまーす!」


「じゃんじゃんスカルさんをSNSにアップして下さいっ」


 何を言ってますの、この男連中は。


「拡散? SNS?」


 私が戸惑っていると、凌太郎は飄々として答えます。


「撮ったものを世界中の人たちに見せるんですよ」


「ちょっとお待ちなさいな。世界中の人に見せる?」


「はい。そうすればスカルさんは有名になり、人気が出ます。まあ、すでにもうなり始めているわけですが」


 血の気が引いていくのを感じました。血はありませんが。


 見世物にされるのはこの祭りでだけ、と思っていました。甘い考えでした。まさか世界中にこの醜態を曝すことになるなんて。


 何人もの下賤の者たちが私を背景に写真を撮り、スマホというもので次々に拡散なる行為を繰り返しています。全く動けない私には為すすべもなく。


「……なぜ、こんなこと」


 心の声が漏れ出してしまいました。


の望みを叶えるためでございますよ」


 凌太郎は畏まって答えます。私が深刻そうにすると、その時だけわざわざ言葉遣いを変えてきます。おちょくっているとしか思えません。


「これのどこが私のためだと?」


「時期に分かりますよ」


 調子を合わせているだけに決まっています。口だけのポンコツ執事なのですから、どうせろくに考えてもいないのです。


 私はこの夜、会場が静まるぎりぎりの時間まで見世物にされ続けました。荷台に乗せられ、何ともみじめに、ときどき酔っ払いの話の種にされながら。


「学校はもう閉められてるので、今夜は僕の家へご案内しますね」


 さらっととんでもないことを言われたような——。


「スカルさん、聞こえてます?」


「……今、なんとおっしゃいまして?」


「僕の家にご案内すると」


 言葉を失いました。いくら執事とはいえ、殿方が淑女の私を軽々しく家に誘うなど言語道断です。この男はそんな常識も持ち合わせていないのでしょうか。それとも、まだ私を辱め足らないとでも?


「スカルさん、何か変なこと考えてません?」


「か、考えてませんわよ」


「怪しいですね。顔が真っ赤ですよ」


「そんなことありませんわ!」


「そうですね。骨体にほっぺはありませんから」

 

 またですわ! 隙あらば私をからかって楽しんでいる、なんて性根の腐った男なのでしょう。本当にいらいらしますわ。


「いい加減、ご自分がまだ骨だけだってこと理解して下さいよ」


「なっ、分かってますわよそんなこと!」


「もー、むきになって。かわいいですね」


 絶対におちょくっています。家に連れ込んで、この続きをして楽しむ気なんですわ。ああ、何ということでしょう。これほどの厄日があったでしょうか。



 ——私は凌太郎の家に運び込まれました。


 小綺麗ではあるものの矮小な家屋。変わった外観は興味を引きますが、かつて住んでいた私の屋敷とは比べるまでもなく貧相です。


「ただいまー」


 凌太郎の声に、母親らしき者が出てきました。


「おかえり。あら、何よそのカラフルな物体は」


「僕らの学校のアイドル、骨体のスカルさんだよ」


「それはけったいなことね」


 ふざけた会話です。母親からして所詮は庶民、教養がなっていないのが分かります。飾り気のない、気の抜けただらしない格好。私のような貴族とは生まれも育ちも違いますから、まあ期待などしておりませんが。


 凌太郎は私を抱え込み——ではなく、私の体を吊っているフックを持ち、二階へと階段を上がっていきます。途中、かたんかたんと私の体を壁や階段にぶつけながら。


「もっと丁寧に扱って下さいまし」


「大丈夫ですよ。頑丈なプラスチック製ですから」


 聞き慣れない素材の名称はともかく、私を作り物呼ばわりしているのは伝わります。たとえ作り物でも中身は私だと、分かってやっているのでしょうか。


「ここが僕の部屋です」


「……案外片付いてますわね」


 意外でした。狭い部屋ですが、ポンコツ執事にしては掃除が行き届いています。


「自分のことはちゃんとできるタイプですから」


「あなたね……」


 それで他人のことはぞんざいに扱うなんて、随分とをしています。


 凌太郎は私を天井から吊るしました。そして目の前に正座すると、ひとつ咳ばらいをしてから話し始めました。


「さて、。ハロウィンに参加した理由なんですが……」


 また急に畏まって。ころころとよく態度を変える男です。


「何ですの?」


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