君だけに触れてみたい
藍沢ルイ
第1話 普通とは
「深山〜消しゴム貸して」
「じゃぁ俺もペン貸して」
次々と便乗して、俺の筆箱から消しゴムやペンが抜き取られていく。俺はそれを断れなかった。断ると嫌われて浮くのが怖かったからだ。
俺は深山瑛斗(みやまえいと)。今年の春に高2になった。でも、もうすぐ春が過ぎようとしているのに、いまだにクラスに馴染めていない。
授業が終わると、筆箱から抜き取られていた消しゴムやペンが返ってきた。でも、俺はそれに触ることも自分の筆箱に戻すこともためらってしまう。それは俺が潔癖症だからだ……。
人に頼られるのは嬉しい。こんな俺でも役に立つなら物を貸したい。けど、人に物を貸すと、見えない汚れがついてるように思えて、耐えられない。本当は捨ててしまいたい程だけど、そんなことをしてもキリがない。
俺は、できるだけ貸した相手に気づかれないように、消しゴムとペンを除菌シートで掴み、カバンに入れているスーパーの袋に移す。そして、その触れていた机の部分を除菌シートで素早く拭く。
なぜそうするかと言うと、自分以外の他人の手は何を触っているかがわからないし、見えない汚れがついているかもしれない。それと、人に貸したという記憶が、その消しゴムとペンを見ると思い出してしまうから自分には耐えられない。
でも、そんなことを考えるのは普通じゃない。
こんなことをしないといけないこと自分が嫌で、本当は心も痛い。普通になりたい。
でも、その一連の行動をしないと心が落ち着かない。そんなことを考えていたら、最近席替えで左隣の席になった男子からの視線を感じた。
そいつは、日置悠(ひおきはる)。明るい茶髪に肌も白く目鼻立ちが整っていて、太陽のように輝いて見えた。いかにも俺とは別次元の人間に思える。
そんな彼から、視線を感じたことに焦り、少し目を逸らした。
でもそいつは、さっきの行動を見てたのかどうかはわからなかったけど、こんな陰キャの俺にすらキラキラとした優しい笑顔を向けてくる。これが一軍男子か。やっぱり、同じ人間とは思えない。
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