第3話 北信愛の影
命を尊ぶ者など本来いてはいけない。
だが、そんな時代にも命を守るために戦った者たちがいた。
そんな可能性があったならというだけの話し
北信愛という誰かを守るために生きた武将がいたならと
91もの歳を重ねたくさんの人を見てきた者を
影に生きた人のことを
その者の名前は北信愛
だが今回の話しの主役は違う。
北致愛――北信愛の父にして歴史の影に消えた男
戦国の世を生きた男たちの中でどれほどの者が「記録に残れなかった」のだろう。
誰も知らぬ記録もあまり残らない。
それでも私は綴ろう。
きっと彼らがこう生きたのだと信じて
この物語は一人の忘れられた父から始まる。
1503年、南部信義の嫡男として誕生した。
「おめでとう」と家臣たちから祝福されるのがきっと本来はあるべきだろう。
だがそんな祝福を言われるほど彼の誕生は恵まれていなかった。
彼への誕生の祝福は神にすら見放されていた。
そして彼の出身は剣吉氏出身と言われている。
では親はどんな人物なのかといわれれば母は南部氏一門の北氏出身と言われている。
では彼の人生はどのような物語だったか。
父親である信義が死去した次の日に北致愛は誕生した。
ではその事が起きた場合なにが起きるのか
下克上である。
八戸信長の横槍によって22代領主に就任できず母方の北氏に追いやられた。
この時代では子どもが父親に会えないことなど珍しくもなかった。
でも親に会えないことはどれだけ当たり前でも悲しみがあるのは事実
それに本来は彼こそが継ぐはずだった領を奪われたわけだからな。
そして、この物語の主役である北信愛を妻との間に生誕
その妻については一切素性がわからない。
北信愛と北致愛は後世に名を残せた武将という観点だけでいうのなら息子の方が優秀だったといえる。
だが、北致愛だって優秀だった可能性はある。
いったろ親子が出会える可能性は今の時代よりもないと
そんな死ぬことが当たり前の時代で生き続けたんだからそりゃすごいでしょ。
そして1540年ごろ家督を信愛に譲り隠居している。
隠居して平穏に過ごせたのかと問われればそうではなかった。
その後の詳細は不明であるが1540年前後に死去したとも言われており恐らく家督を譲ったのは死の間際であった可能性が高い。
それゆえ本当に隠居することが出来たのか、その事実は定かではない。
だが、わたしはこう思う。
北信愛が義を大切にする漢へと成長できたのはこの父親の影響によるものだと
この親子の物語をわたしは「隠されし物語」と名付けよう。
これより北致愛と北信愛の隠されし物語を綴ろう。
だが、それを語る前に語らねばならない漢がいる。
その漢の名は後世には残っていない。
ならば語るほどの英雄ではないようにおもうかもしれない。
だが、歴史に名を残せなかったから有名になれなかったから重要ではないのか?
それはきっと違う。
この漢は母方へと逃げ延びた北致愛を匿い、保護した存在であった。
1500年代はまだ女の地位は低く母親だけで守ることのできるほど優しい世界ではなかった。
そのため、この男の存在は不可欠であった。
北信愛もまたこの漢に助けられながら成長し名を轟かせた。
だがこの漢は、北信愛とは異なり英雄にはならずただの一般人として生涯を終えた。
それは大多数の人がそうである。
後世に名を残すほどの英雄が生まれるのは、数万に1人ほどの確率なのだ。
そして、この漢は自らを助けてくれた北致愛の父の義理に応え北致愛の母親を愛した。
まさしく北信愛の影と呼べる存在であった。
北信愛の影と北致愛は天国でたくさん話してたくさん心を交わした。
「おお、北致殿。再びお会いできるとは、なんと嬉しいことか」
北信愛の影は楽しげに腕を大きく振りそんな言葉を話す。
北致愛は素っ気なくこう返す。
「……いや、我らはもうこの世の者ではない。だが、心がこうして交わせるなら、それで十分だろう」
その言葉を聞いて少しだけ沈む北信愛の影
「はは確かにな…生前のように動き回ることはもう叶わぬがわたしとしてはこうして話せるだけで十分です
ああ北致殿…やはりその声を聞けるだけで、心が軽くなるようです」
北信愛の影は沈んだあと嬉しげにそう答えた。
そのことばに北致愛は頷く。
「わしもだ死後の世界でこうして心を交わせるとは思わなかった。そなたは変わらず忠義深いのう」
保護者でありそして従者でもある。
そんな少し変わった2人の関係
「北致殿のためにできることがあったならそれだけで幸せです」
だがそこには確かな信頼がうかがえた。
この物語が事実かはわからない。
だが受け継がれる意思がやがて後世に名を残すほどの意思となったら良いな。
そんな願いだ。
そしてこれから語られる物語は全て可能性のある過去の物語でありもう終わってしまった物語である。
だが、これだけは約束しよう。
北信愛のあり得た史実であり少しだけもしもの世界を混ぜたそんなフィクションとノンフィクションの混ざりあった世界を提供することを
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