つゆのまほう

霜月あかり

つゆのまほう

朝、アキちゃんは庭に出て、びっくりしました。

昨日までの葉っぱが、きらきら光っていたのです。


「ママ! 葉っぱが光ってるよ!」

ママは笑って言いました。

「それは“つゆ”。朝のあいさつみたいなものね。今日は“寒露”っていって、空気が冷たくなって、露がきれいに見える日なのよ」


「かんろ……」

アキちゃんはしゃがみこみ、小さな露をじっと見つめました。

丸いしずくの中に、自分の顔や空がうつっています。



---


そのときです。

「こんにちは」

どこからか、小さな声が聞こえました。


見ると、葉っぱの上の露がぷるぷる震えています。

「ぼくは“つゆのしずく”。朝のまほうで、ものをうつす鏡なんだ」


「わあ、しゃべった!」

アキちゃんは目をまるくします。


「ぼくの中をのぞくとね、いろんなものの“気持ち”が見えるんだよ」

「気持ち?」


「うん。たとえば、この花」

露のしずくが光ると、花の中で風にゆれる映像が浮かびました。

「朝日を待ってるんだ。あたたかい光にあたって、またひとつ咲くのを楽しみにしてる」


「すごい!」

アキちゃんはつぎに、自分の手をのぞきこみました。


「ねえ、わたしの気持ちは?」

しずくがゆらりと光り、そこには昨日のアキちゃんの姿が。

宿題がうまくいかなくて、ちょっとむくれている顔。


「でもね、そのあと笑ってたでしょ。ママといっしょにおやつ食べて。

 それが“がんばった自分”の光なんだ」


アキちゃんは、ちょっと照れくさそうに笑いました。

「つゆのまほうって、すてきだね」



---


そのとき、風が吹きました。

葉っぱが揺れて、露がひとつ、ぽとりと落ちます。


「ぼくの時間だ。またあした、朝日といっしょに生まれるよ」


小さな声が消えたあと、庭には静けさが戻りました。

アキちゃんはそっとつぶやきます。


「ありがとう、つゆのしずく。わたしも明日、笑顔であいさつしよう」


東の空が少しずつ明るくなり、木々の露がまたキラキラと輝きはじめました。

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つゆのまほう 霜月あかり @shimozuki_akari1121

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