光と闇のジュエルアイと白の三日月《ヴァイスムーン》

さくら猫

序章 始まり歌

プロローグ:約束の光と俺の祈り

「おい、■■……しっかりしろ」

 

 その声に呼ばれた気がして、俺は目を開けた。


 全身に力が入らず、感覚はすでに存在しない。

 ただ、体を覆う温かさだけが、全身を支配していた。


  喉から何かがこみ上げて、息が詰まる。

 早くこの苦しみから抜け出したくて、たまらない。


それよりも、確かめたいことがあった。

その正体を思い出せないが、大切だったはずだ。


震える手を伸ばし、それを求める。

 その手を、誰かがぎゅっと掴んだ気がした。


「死なないでくれ。俺を……」

 一筋の雫が、手に触れた。

 その瞬間、冷たいと感じた。


 感覚ではない。心に伝わってそう思った。

 この人の涙だと気がついた時、胸が締めつけられた。


なぜだ。

 この人が涙をこぼすだけで、どうして胸が締めつけられるんだろう。

 感情の正体を知りたいと思うほど、この人のことを、知りたいと強く感じた。


 視界に、その声の人物を映そうとする。

 ぼやけた輪郭の中で、白い布のようなものが揺れていた。

 その人物が着ているものなのか、わからない。

 

 名前も、思い出も、話した言葉もーー何ひとつ思い出せなかった。

 

「たの--」

 その人の声が、遠ざかっていく。

 俺は意識を失い、夜の底に沈んでいった。

 

  ☆☆☆

 

 暗くて光を射すこともなく、終わることもない。

 その底の見えない世界が、続いていた。

 

『このまま終わるのか』

 誰かが問いかけてきた。

 

このまま、終えたくない。

 何かを果たせていないような感じがした。

涙を流していたあの人の姿が、思い浮かんだ。

 たったひとつ願ったのは、泣く姿を二度と見たくなかった。


 その瞬間、思い出の欠片が脳裏のうりよぎった。

 

 闇の世界に、一筋の希望が射し込む。

 雪のような光が、静かに舞い落ちていく。

 俺は、その光に手を伸ばした。

 指先が触れると、心の中に冷たさが滲んだ。

 ぼんやりとした人の影のように形になっていく。

 

 輪郭が黒い世界に溶けていき、白いローブを身にまとう人が、静かに立っていた。

 

『俺がお前を助けてやる。だから、どうでもいいなんて、二度と言うな!』

 

 その叫びが、胸の奥に響いた。

 思い出した瞬間、このまま死にたくなかった。

 悲しんだままで、何もしてあげられていない。

 

 -- 死んでたまるか!!

 

 俺は、魂のように叫んだ。

 

 その祈りが光の粒子に変わり、天に昇っていく。

 

 -- どうかこの祈りを受け取ってくれ!!

 

 光が螺旋らせんを描き始め、紅蓮の長い髪の少年を作り出した。


 少年が、静かに目を開ける。

 祈りを果たす物語が、ゆっくりと動き始める。

 

 やがて、彼が歩み出す時、新たな『ヴァイスムーン』が誕生する。

 これは、その前の物語である。

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