最終話 エピローグ




 『オルフガルド戦記』のベータテスト版に登場したアルザティクススは、ルーデルトに自らの配下になれなどとは一言も言わなかった。


 というか、そもそも俺と彼女は戦わないのだ。


 アルザティクススの接近を察知したルーデルトが逃げ出し、追ってきた彼女に秒で叩き潰される。


 俺が迎え撃ったことでシナリオが変わった?



「さて、返答は如何に?」


「……臣従すれば、助けてくれるのか?」


「もちろん、お姉さんは配下には寛容だよ」



 常識的に考えれば、ここで降伏するのが賢い選択だと思う。


 だが、何かが引っかかる。



「あっ」


「ん? どうしたのかな?」


「……俺は、お前のお気に入りか?」


「うん? うん、そうだね。気に入ったよ。君ほど強い魔族はお姉さんの時代にもいなかったからね。お姉さんの側近にしてあげる♪」



 俺のことを気に入っている。よりによって彼女に気に入られてしまった。


 まずい。


 アルザティクススは気に入った相手を独占するヒロインだった。


 ゲームの教官も彼女に気に入られてしまい、魔王を倒したハッピーエンドで不死の肉体を与えられ、永遠に生かされるのだ。


 そして――



「……俺の妻たちは、どうなる?」


「もちろん、殺すよ♪」



 最悪だ。


 アルザティクススはゲームと同じように気に入った相手に近づく異性を片っ端から殺す。


 もしここで俺がアルザティクススに臣従すれば、ティルシアやマシロ、ルルが始末されてしまうだろう。

 


「なら断る。死んでも抵抗するぞ」


「……本当にいいの? これが最後のチャンスだよ」


「答えは変わらない」


「そっか♪ 残念♪」



 アルザティクススはちっとも残念ではなさそうに、心の底から楽しそうに好戦的で邪悪な笑みを浮かべた。


 次の瞬間、アルザティクススの尻尾が凄まじい勢いで迫ってくる。


 左右に回避するべきか。


 いや、尻尾攻撃は自在に軌道を変えられる以上、回避した先で叩き潰されるのがオチだ。


 受け止めるしかない!!



「――氷獄凍域フロストサンクチュアリ



 アルザティクススの尻尾攻撃を受ける覚悟を決めた刹那、辺りの景色が一変した。


 魔王城を丸ごと飲み込む極寒が顕現する。


 その結界、アルザティクススの尻尾の先が凍って砕け散ってしまった。

 


「マシロ!?」


「……わたしの夫は無茶するわね」


「私もいます!! ――上位天使召喚!!」


「ティルシアまで!?」



 いつの間にかティルシアが魔王城の屋根まで登ってきて、大量の天使を召喚していた。


 それも下位天使ではなく、シナリオで俺にトドメを刺す上位天使だ。

 一体でも俺を倒せる上位天使が、十体でアルザティクススを包囲している。



「ルルは……」


「あの子は隠れて【魅了眼】を使ってるわ。魔族化した影響で視界に収めるだけでよくなったし、わざわざ敵の前に姿を晒す必要もないでしょう? ……まったく効いていないようだけど」


「そ、そうか。いや、それでいい」



 俺、ティルシア、マシロの三人ならアルザティクススを仕留められるか?


 ……やってみなきゃ分からないか。



「うん♪ やーめた♪」


「「「……は?」」」


「いやあー、満足満足♪ いいね、お姉さんの強さを知って刃向かってくる魔族が三人もいるとか、お姉さんの好感度爆上がりだよ♪」



 本当に戦闘の意志を失くしたのか、先ほどまでの殺気が嘘のように消えた。



「どういう、つもりだ?」


「どうもこうもないよ? お姉さんは気に入らないものを壊すだけ。君たち魔族は気に入ったから壊さない。別に難しい話じゃないでしょ?」


「……」


「いやー、人間たちがアレだったから魔族もダメかなーって期待してなかったけど、びっくりびっくり♪」



 ……今回は見逃してもらえた、ということでいいのだろうか。


 ん? 待て。



「人間は、気に入らなかったのか?」


「え? うん。いきなりお姉さんに魔王を殺せとか命令してきたからさ。生け贄も対価もなくお姉さんを使いっ走りにしようとしたからまとめてぶっ壊しちゃった♪」


「そ、そうか」


「あ、でもやたら頑丈な結界は壊し甲斐があって楽しかったね♪ あんなもの作る技術があった分、期待外れだったなー」



 ふむ。結界を壊し――え? 壊した!?



「こ、壊したのか!? 結界を!?」


「うん。お城とか学校みたいな場所を守ってた結界でしょ? 両方ともぶっ壊したよ♪」


「……まじか」



 つまり、今は結界が機能していない?


 あれは一度破壊してしまえば、フォルネリウスでないと直せないと作った本人が言っていた。



「ク、クククロ!! クロォ!!」


「どうしまシタ?」


「今からちょっとヒロインを召喚してる魔法陣をぶっ壊してくる!! 魔王城のことは任せた!!」



 俺は大慌てで飛び立ち、オルフガルド王国の王都へ直接乗り込み、魔法陣の破壊に成功するのであった。







「魔王様、魔王様」


「ん、ああ、フォルネリウスか。少し眠ってしまったみたいだ」


「珍しいですな。睡眠が不要な魔王様が眠るとは」


「昔の夢を見ていた。オルフガルド王国に単身突撃した時の夢だ」


「おお、これまた懐かしい。もう百年も前のことですな」



 あれから百年が経ち、魔王国は変わった。


 いや、まだまだ強さこそが全ての価値観はまだ根付いているが、昔ほど酷くはない。



「それで、今日の予定は何だったか?」


「午前は魔王教の信者たちに顔見せですぞ。午後からはアレイシア法国とルーンブルグ帝国との三国会談ですな」


「……魔王教、か」



 魔王教。


 俺がランダルで買った奴隷たちが作った宗教団体である。


 オルフガルド王国の王都、王城の地下にあるヒロイン召喚用の魔法陣を破壊した後、彼らをスパイとして送り込む計画は白紙に戻った。


 彼女たちにはそれなりの金と家を与え、後は自由に生きていいと告げたのだが……。


 どういうわけか、彼女たちは魔王教なるものを設立して俺を崇拝し始めた。

 魔王国で暮らす魔族たちは無論、周辺諸国にも信者が増え続けている。


 このままだと大陸を飲み込む勢いだ。



「……で、アルザティクススはどうしてる?」


「魔王女殿下や魔王子殿下にコマ回しを教えておりますぞ」


「そ、そうか。しっかり監視しておいてくれ」


「クロ様の分身がやっているのでご安心を」



 アルザティクススはどういうつもりか、俺の娘や息子たちと戯れて戦闘訓練を施したりしている。

 最近、子供たちの戦闘力が上がっているのは奴のせいだろう。


 まあ、今のところ害はなさそうだし、クロによる監視だけで済ませているが……。


 と、その時だった。



「ルーデルトさま!!」


「ルーデルト、今忙しいかしら?」


「ルーデルトお兄様!!」



 ティルシアたちがおっぱいやお尻を押し付けてくる。


 くっ、柔らかい。



「さ、三人とも、この後予定があるから……」


「あ、予定は時間ズラしておくのでおせっせしても大丈夫ですよ」


「フォルネリウス!?」


「ではごゆっくりー」



 フォルネリウスが部屋から出て行き、ティルシア、マシロ、ルルの目の色が変わる。


 俺は逃げ場はないと悟り、腹を括った。


 そして、これからもこの日常が続くように頑張ろうと決意するのであった。


 



―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント小話


作者「今回は短めで終わった」


ル「またどこかで!!」


作者「現在、新作【お嬢様、竜に転生す。〜極低ステータスも進化を繰り返せば強靭・無敵・最強ですわ!!~】を投稿中です。竜に転生したお嬢様が美少女エルフと出会い、目的を果たすために強くなって個性豊かな友人たちと交流を深めながら旅をするお話です。作者が初めて書く超ポジティブ女主人公を是非お楽しみください」



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やられ役の魔王がバッドエンドに突入したヒロインを救ったらめっちゃ崇拝された件~推しが全員悪堕ちしちゃった……どうしよう!? ~ ナガワ ヒイロ @igana0510

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