第14話 結局やらかしちゃった……どうしよう!?




 俺がやってきたのは、魔王城の地下だった。



「おお!? 思ったより広いな!!」


「カカカ!! 魔王国で初めて誕生した文化ですからな!! ワタクシや配下一同、気合いを入れて作りましたぞ!!」



 長い螺旋階段を降りた先に、古代ローマを彷彿とさせる大理石で作られた浴場が広がっていた。


 元日本人としては木で作られた和風のものをイメージしていたが、こちらの方が世界観に合っている気がする。


 このお風呂は以前俺が話した内容をもとにフォルネリウスが配下に命じて作らせたのだ。



「随分早く完成したな」


「ワタクシの配下たちも長いアンデッドライフに退屈していたようでしてな。こういう刺激があると楽しくて不眠不休で働いてしまうようです」


「アンデッドライフ……凄い矛盾に感じるぞ」


「さあさあ、お話はここまでにして!! ルーデルト様、お背中流しますぞ」


「む。じゃあ頼む」



 こうして俺たちは早速風呂に入ることにした。


 まずは髪と身体を洗い、全身の汚れを綺麗さっぱり洗い流す。

 角が邪魔で洗いにくかったり、シャンプーが『万里眼』に入っても痛かったり……。



「……おい、フォルネリウス。背中を流してくれるのはありがたいが、スライムはなんだ?」


「スポンジがなかったのでこちらで代用しようかと思いまして。ああ、ご安心を。この日のために用意した弱酸性スライムですので」


「弱酸性スライム!?」


「先ほど魔王様が髪を洗うのに使ったシャンプーもスライムから生成したものですよ?」



 そうだったの!? 何の疑問も抱かずに使っちゃったよ!!



「ちなみに弱酸性スライムは身体の汚れを食べるよう調整していますので、勝手に全身を這い回ります」


「お、おお!? な、なんというか、絶妙に気持ちいいな!?」



 そうして身体を綺麗にした後、俺とフォルネリウスは湯船に入った。


 温度は四十二度くらいだろうか。


 少し熱めな温度設定だが、身体中から疲れが抜け出ていくようで心地いい。



「ふぅー、温まりますなー。ま、ワタクシはアンデッドなので温度とか分からないですが」


「……湯船に骸骨が浮かぶ光景は、こう、ホラーみたいだな」


「ふむ。お湯の中に隠れておいて入ってきた誰かを脅かすのも楽しそうですな」


「やめて差し上げろ」



 雑談もそこそこに、俺はフォルネリウスに相談することにした。



「フォルネリウス、少し相談がある。お前の意見を聞かせて欲しい」


「おや、お妃様との情事で何か悩み事でも? 残念ながらワタクシ、イチモツがないのでえっちぃことの相談には向かないのですが……」


「そっちは円満だから気にするな――って、何を言わせる」


「カカカ!! 猥談は紳士の嗜みですぞ」


「理解はできるが、真面目な話だ」



 いやまあ、スケルトンと猥談するというのも少しやってみたい気持ちはあるが。


 それはまた別の機会だ。



「オルフガルド王国の王都、特にアカデミーや王城に情報収集のためのスパイを送り込みたい」


「ほう、それはまた魔族らしくない発想ですな」


「っ、い、いや、これはアレだ。密偵を放つのは人間どもよくやることだと聞いてな。情報は戦いにおいて重要だろう?」


「ふむ、たしかに相手の動向や弱点を調べることで戦いを有利に進められるでしょう。とはいえ、それは難しい話かと」


「……やはり結界が問題か」



 俺の言葉にフォルネリウスが頷く。



「ええ、あの結界は『闇の力』を持つ者を拒絶する代物です。『闇の力』を完全に抑えることができるならあるいは……」


「……ふむ」



 そう言えば以前、ティルシアが『闇の力』を抑えて一時的に人間の姿を取り戻していたな。

 同じように『闇の力』を抑え込めたら俺も人間に近い姿になるのだろうか。


 試しにやってみるが、失敗した。


 生まれた時から少なからず流れ出ていたものを抑えるのは難しいな。



「何かいい案はないものか……」


「あ、では人間の奴隷を買ってスパイとして送り込むのはどうです?」


「人間の奴隷? 魔王国に奴隷はいないぞ。全員食われるから」


「買いに行くのですよ、人間たちの街に」



 ……ふむ?



「奴隷を売ってるような大きな街にも結界が張られていると思うが……」


「あれは王都の要所を守る結界を模した劣化品です。ある程度『闇の力』を抑えられれば、ワタクシたちでもバレずに侵入、素通りできるかと」


「ふむ? 随分と詳しいな」


「ええまあ、あの結界を作ったのワタクシですし」


「……え?」



 フォルネリウスがさらっと言ったので、一瞬聞き流しそうになってしまった。


 なん、だと?



「フォルネリウス、あれは、お前が作ったものなのか?」


「ええ、生前にオルフガルド王国から命令されまして。家族と恋人を人質に取られ、仕方なく引き受けたのですが……」


「そ、そうなのか」


「完成したら完成したで、用済みとして殺されちゃいまして。死に際に家族も恋人もワタクシが結界の製作に着手してる間に死んだことを教えられ、そのまま怒りでアンデッドになりまして」



 重い。重いよ。めっちゃ重い過去だよ。



「まあ、なんだ。人間ってクソだな」


「まったくです。っと、話が逸れてしまいました」


「あ、ああ、人間どもの街に行って奴隷を買うって話だったな」


「今からお忍びで行っちゃいます?」


「い、今からか? というか、俺とお前の二人で行くのか?」


「ワタクシ、人間時代は友人もいなかったので誰かとぶらぶら街を歩くとかやってみたかったんですよね」


「切実」



 まあ、人間の街を見たい気持ちはある。


 オルフガルド王国がヒロインにしてきた所業は許せるものではないが、大好きなゲームの世界を見てみたいからな。


 奴隷を買ってスパイとして送り込む、という提案も悪くない。

 この世界の奴隷は魔法契約で主人に絶対服従なので裏切る心配もないからな。


 と、その時だった。



「おや?」


「ん? どうした?」



 不意にフォルネリウスが浴場の入り口の方を見て首を傾げ、骸骨なのにニヤニヤと笑う。



「いえいえ!! 何でもありません!! ワタクシは先に出て旅の準備をしておきますので、魔王様は一時間……いや、二時間くらいごゆるりとお寛ぎくださいませ!!」


「いや、そんなに入ってたら茹で上がるぞ」


「では失礼!!」



 シュバッと浴場から出て行ったフォルネリウス。


 何事かと首を傾げながらも、せっかく一人なのでリラックスしていると――急に視界が暗転した。



「ルーデルトさま♡ だーれだ♡」


「……まったく気配を感じなかったが、その声はティルシアだな」


「ふふ、正解です♡」



 どうやらティルシアが気配を消して浴場に入ってきて、俺の目を両手で覆った。

 ふわふわの柔らかいおっぱいの感触が後頭部に伝わってくる。



「じゃあ次の問題よ♡ これは誰かしら♡」


「む!?」



 真っ暗な視界の中、マシロの囁き声が聞こえてきて俺の魔剣が圧迫感のある『何か』に包まれる。


 な、何も見えないが、間違いない。


 俺の魔剣が鞘に収まっている!! しかし、ティルシアでもマシロでもない、俺の魔剣には小さすぎる鞘だった。


 俺は予感してしまった。



「ま、まさかとは思うが、ルルか?」


「ふふふ♡ 正解です♡」


「ルーデルト、お兄様のっ♡ すっごく大きいですぅ♡」



 やっちまった。


 いくら見えていなかったからと言って、年端も行かない少女に手を出してしまった。



「ルーデルトさま♡」


「ルーデルト♡」


「ルーデルトお兄様ぁ♡」



 ティルシアの大きなおっぱいとマシロの大きなおっぱいが俺の頭を両側から挟み込み、逃げられない。



「は、嵌めたな、ティルシア」


「ハメてるのはルルちゃんですよ?」



 誰が上手いこと言えと。



「んっ♡ あっ♡ ルーデルト、お兄様っ♡ ルルちゃんもお兄様のお嫁さんにしてくださいっ♡」


「ふふふ♡ これでお嫁さんが三人になっちゃいましたね♡」


「責任取りなさいよ♡ 旦那さま♡」


「っ、いいだろう!! 十人でも百人でも娶ってやる!! もうどうなっても知らないからな!!」



 俺はルルの腰をガシッと掴み、そのまま勢いに任せて抱いた。


 そうだ、そうだよ。


 妻たちは一夫多妻に反対していないし、それどころか積極的に女を娶らせようとしてくるのだ。


 ならもう俺が我慢する必要なくない?


 もういっそ助けたヒロインたちでハーレムでも作ってやろうか。


 何かが吹っ切れてしまった俺は、そのままルルのみならず、ティルシアとマシロもめちゃくちゃにしてしまった。






―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント小話


作者「結局やるんかーい」


ル「……」



「弱酸性スライム便利」「フォルネリウスの過去が重い」「何も言えなくなってて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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