第11話 メスガキヒロインが捕まっちゃった……どうしよう!?





 さて、どうしたものか。



「ルル様をお守りしろー!!」


「「「おー!!」」」



 わらわらと俺に群がってきたのは、獣魔軍の千人隊長ジークレフを中心とした獣魔族たちだ。

 ルルの【魅了眼】の影響を受けており、明らかに正気ではない。


 一番手っ取り早い対処法は、彼らを抹殺することだろう。


 しかし、ジークレフはフェルゥの部下だ。

 勝手に殺して後で問題になるのは避けたいし、どうにか無力化せねば。



「ふんっ!!」



 俺はジークレフの胴体に拳を叩き込む。


 獣魔族の身体は頑丈なので、少し加減すれば殺すことはないはず。

 そう思ったのだが、想像より深いところまで拳が刺さった。



「おごふっ」


「ん? あ、す、すまん。加減したつもりだったんだが、内臓までダメージ入っちゃったか?」


「ぐ、ぐるああああああああッ!!!!」



 ジークレフが雄叫びを上げながら、俺の顔面に拳を振るった。


 防御は――必要ないか。


 俺が顔面でジークレフの打撃を受け止めると、彼の拳がひしゃげた。

 折れた骨が肉から飛び出し、大量の血が地面に零れ落ちる。


 ジークレフは自分の身に何が起こったのか分からなかったようで、遅れてやってきた痛みに悶絶した。



「ぐっ、ぐあっ!? な、何がっ、き、貴様、何をした!?」


「ん? 少し正気に戻ったか? 別に何もしていないぞ。お前の拳より俺の顔の方が硬かっただけだ」


「馬鹿なことを言うな!! 我の一撃はフェルゥ様にも通用するものなのだぞ!! それを名もなき魔族に無傷で受けられるわけがない!!」


「俺はそのフェルゥより上だ。上司の上司の顔は覚えておいた方がいいぞ」


「え? ……ッ!!」



 ジークレフは俺の顔を見た途端にハッとして、顔面蒼白になる。



「ま、まさか、あ、貴方は、貴方様は……」


「おはよう、ジークレフ。こうして話すのは初めてだが、お前の勇猛さはフェルゥから何度か聞いたぞ」


「っ、も、申し訳ありませぬ!! この首で謝罪をいたします!!」



 そう言って自分の首を掴み、自らの怪力で捻じ切ろうとするジークレフ。


 俺は慌ててジークレフを止めた。



「待て待て。お前らはどうしてそうやってすぐに首を差し出そうとするんだ。謝罪する気持ちがあるならお前の部下たちを正気に戻せ」


「お、おお、おお!! なんと寛大な!! 承知致しました!! 我、獅子魔族のジークレフ!! 偉大なる魔王陛下のために――うっ」


「だ、大丈夫か? やっぱりさっきのいいところ入ってたか?」


「い、いえ!! 魔王陛下のために戦えるのは無上の喜び!! この程度の痛み、耐えてみせますとも!!」


「……クロ、分身体を生成してジークレフを治療してやれ」


「了解しまシタ」



 分裂したクロの一体がジークレフに治癒魔法をかけると、彼は瞬く間に元気を取り戻した。



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!! 身体から力が漲りますぞッ!!」


「じゃ、ここは任せたぞ」


「お任せあれ!! 行くぞ、お前たち!! 今殴って正気に戻してやるからな!!」



 俺は獣魔軍の相手をジークレフに任せ、逃げたルルの後を追った。


 彼女の居場所を『万里眼』で確認すると――



『だ、誰よアンタたち!? さっきのお兄さんの仲間!?』



 逃げた先でルルが黒装束をまとった五、六人の集団に囲まれていた。


 剣や槍、弓やメイスなど……。


 様々な武器を携えており、見るからに只者ではない雰囲気をまとっている。

 何より特筆すべきは顔全体を覆う不気味な模様の仮面だろう。


 仮面の黒装束たちがルルに声をかける。



『……我々はオルフガルド王国軍の極秘部隊『影』の者です』


『か、影? よく分かんないけど、オルフガルド王国軍なら味方ってことよね!! 早くルルちゃんを保護しなさい!!』



 まずい、厄介な相手が出てきた。


 武装した黒装束たち――『影』は召喚した異世界人が裏切ったり、逃亡して他国に逃げたりしないように監視するのが役目だ。


 ではヒロインを監視してどうするのか。


 甲高い声を上げて保護を求めるルルに対し、黒装束のリーダーが冷酷に告げる。



『監視対象、異世界人ルルの逃亡を確認した。早急に処分を実行する。目に傷は付けるな。あの眼には利用価値がある。生け捕りにして王国の研究所に輸送する』


『『『『『了解した』』』』』


『え、な、何? アンタたち、ルルちゃんを助けに来たんじゃ――』



 次の瞬間、弓使いの黒装束がルルに向かって矢を放った。

 いきなりの攻撃にルルは回避することができず、太ももに矢を受けてしまった。


 しかもただの矢ではない。



『ぎゃ!? か、身体が、動かな、い!?』


 

 矢尻に痺れ薬が塗ってあったのだろう。


 ルルはその場から身動きが取れなくなり、黒装束に捕まって【魅了眼】を封じるために目隠しをされてしまった。


 『影』がヒロインを監視するのは、いざという時に始末するためだ。

 そして、場合によってはヒロインを生け捕りにしてオルフガルド王国にある異世界人を研究する施設に送られる。


 この研究所はゲームで言うヒロインを育成する場所だが、裏では用済みの異世界人で非道な実験を行っているという設定があるのだ。


 ルルは『影』に捕まった後、研究所で生きたまま眼を抉り出され、他にも多種多様な非人道的な実験を受ける。

 その内容があまりにもグロすぎて炎上し、バッドエンドシーンがほぼカット、あるいは修正されてしまったほどだ。


 その頃から廃課金勢だった俺は、研究所でルルが何をされるのか知っている。



『や、やめっ、ザコが触らないでよ!! や、やめて!! 誰か助けて!! おに――』 


『おい、暴れるな』



 動かない身体を必死に動かそうとして手足をバタバタさせるルルに対し、粛々と仕事をこなす『影』たち。



『面倒だ。殺すか』


『駄目だ、殺すな。生きたまま連行しろと命令を受けただろう。』


『何故だ。殺した方が楽だ』


『死ねば【魅了眼】が失われる可能性がある、と何度も説明したはずだが……』


『そうか。分かった。殺そう』


『おい、誰だよ。この殺すしか言わないやべー奴を採用したの。そいつ殺しに行こーぜ』


『お前たち、私語はやめろ。遊びではないのだぞ』



 黒装束たちがルルを拘束し、今にも連れ去ろうとしたところで。



「その娘を置いていけ」


「……何者だ?」


「通りすがりの魔王だ」



 メスガキでも獣人は高い身体能力がある。


 少し時間はかかったが、ようやく俺はルルに追いつくことができた。



「……本当に魔王かどうかは分からんが、三騎士を殺した魔族だ。油断は――」


「ふん!!」


「「「!?」」」



 俺は黒装束の一人に肉薄し、頭部を鷲掴みにして握り潰した。

 グシャリという生々しい音と共にその脳髄が飛び散る。



「まずは一人だ。次はそっちの弓使いと槍使い、あとメイス使いは殺す。そこの剣使い、お前がリーダーだな?」


「……だったらなんだ?」


「お前は見逃してやる。だからお前たちのご主人様に伝えろ。異世界人の召喚はもうやめろと」


「……いいだろう」



 剣を携えた黒装束はルルをその場に置いて、俺に背を向けた。


 そして、部下たちに一言命令を下す。



「私は退却する。お前たちはここで戦って死ね」


「え、嫌なんだけど。だってあの魔族、頭ぐちゃってしたんだよ? 武器で叩き潰したとかじゃなくて純粋な腕力でやったんだよ?」


「命令だ。やれ」


「……りょーかい。よし、お前ら。死ぬ気でやるぞー」


「殺していいのか?」


「できるならね。多分無理だろうけど。魔王軍の幹部並みに強いだろうし」



 それから俺は『影』を殲滅し、痺れ薬で動けないルルを回収するのであった。






―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント作者の小話


作者「ちなみにルルは恐怖で色々垂れ流してます」



「クロが便利すぎる」「エッチな展開はまだか!?」「あとがきもっと詳しく」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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