第10話 メスガキヒロインに逃げられちゃった……どうしよう!?




 部屋に戻った俺はティルシアやマシロとエッチしようとして、クロから受けた報告に唖然とした。



「フェルゥの部下が寝返った?」


「デス。獣魔軍所属の千人隊長ジークレフが同軍千人を率いてオルフガルド王国軍を守るように魔王城を目指して進軍しておりマス」


「……フェルゥは?」


「裏切り者を粛清すると獣魔軍全軍一万を率いて出撃しまシタ」



 マシロに突っ掛かってきたフェルゥは、完全実力至上主義だ。

 絶対的な強さを持つルーデルトに対して高い忠誠心があり、その俺よりも圧倒的な実力を目の当たりにしない限りは裏切らない。


 それは彼の部下たちも同様だ。


 もし完全に育成したヒロインの力を目の当たりにしたら裏切る可能性は十分に出てくる。

 しかし、国境付近で起こった出来事ならシナリオの序盤も序盤だ。


 一部の例外を除いて、どのヒロインも彼らを裏切らせるほど強くない。


 だが、今回の出来事には心当たりがある。



「少し視てみるか」



 俺は『万里眼』を開き、魔王城を目指して進軍しているという裏切り者の一団を探す。

 千人ともなるとそれなりの規模になるので、発見は容易だった。


 その中でも見覚えのある獅子頭の獣魔族、千人隊長のジークレフを見つけたのだが……。



「……やっぱりか」



 ジークレフは目が虚ろで、その彼に従う千人の兵士たちも明らかに正気ではなかった。


 間違いない。



「オルフガルド王国は彼女を召喚したのかもしれないな……」


「ルーデルトさま、彼女とは?」


「第二回人気キャラランキングで一位を獲得したヒロイン。いわゆるメスガキで、相手を嘲笑しては事ある毎に嘲笑う性悪だ。プレイアブル化した当初は好まれるキャラではなかったが、ストーリーを進めていくうちに親から虐待を受けていた過去が判明し、自分を守るために他者を貶めて攻撃するようになったという設定が明らかに――ハッ!!」



 俺は長々と語ってから、ティルシアとマシロの視線が真っ直ぐ向けられていることに気付き、慌てて咳払いする。



「コホン。まあ、細かい情報はいいとして、王国が召喚したヒロインは【魅了眼】という固有スキル……特別な力を持っている。奴と目を合わせたら最期、一生奴の言いなりの奴隷だ」


「目を合わせるだけって、そんなの反則じゃないですか」


「そうでもない。目さえ見なければ効果はないからな。対策を知っていればやり方はいくらでもある」


「逆に言えば、対策を知らないと甚大な被害が出る、ということですね?」


「そうだ」



 正直、一番好きなヒロインの一人なので痛め付けるような真似はしたくないが、被害が拡大する前に彼女を打倒せねばならない。

 そうしないと彼女は【魅了眼】で次々と奴隷を増やし、その刃はすぐに俺の喉元まで届くだろう。


 俺はヒロインを傷付けたくないが、自分も死にたくない。

 ましてやヒロインが人間から迫害を受けるバッドエンドなど望まない。


 ならばどうすべきか。俺はどうすれば……。



「ルーデルトさま」


「ん? どうし――むぐっ!?」



 ティルシアがいきなりキスをしてきて、俺は思考が停止した。



「ルーデルトさま。どうか迷わないで、ご自分の命を優先してください」


「な、何を……」


「ルーデルトさまはお優しいので、異世界人の方が負けたことで人間どもから迫害を受けることを気の毒に思われているのでしょう?」


「それは、ああ、そうだ」


「ならば容赦なく相手をボッコボコにしてください。ルーデルトさまに何かあったら、私も自害しちゃいますから♡」


「!?」


「ふふ、こう言えば優しいルーデルトさまは余計なことを考えないで勝利にのみ集中できますよね?」



 ……恐ろしい妻だ。


 俺が死ねばティルシアも死ぬ、そう考えたら迷わなかった。



「分かった。ティルシアの言うように、できるだけ自分の命を優先する」


「その言葉を聞けて安心しました。あ、ボコボコにした異世界人が女の子なら、いっそそのまま連れ去ってお嫁さんにしちゃうのはどうですか?」


「ははは、妻が三人は流石に多いな……いや、待てよ?」



 たしかにヒロインを返り討ちにしてしまえば、そのヒロインはバッドエンドに突入して人間どもから迫害を受けるだろう。


 しかし、そのまま拐ってしまえば?


 そう言えば俺がマシロを言葉で説得する前、クロが襲撃して監禁するか問いかけてきたことがあった。

 あの時はなまじマシロに戦闘力があるから手加減できないと判断し、すぐに却下したが……。


 今回に限っては悪くないかもしれない。


 何故なら今回のヒロイン、【魅了眼】を除けば戦闘力が皆無なのだ。

 視界を布か何かで塞げば抵抗されても連れ去るのは容易いはず。



「ティルシア、礼を言うぞ。お陰でヒロイン――異世界人を傷付けなくて済むし、迫害から守れるかもしれない」



 そうだ、そうだよな。

 いっそ人間どもから迫害を受けないように、最初から拐ってしまえばいいのだ。


 本人の意志を無視したやり方は独善的でヒロインに反感を抱かれるし、嫌われるだろう。

 せっかくならヒロインと良好な関係を築きたいところだが、そう考えてマシロの時はバッドエンド突入を回避できなかったのだ。


 綺麗事でバッドエンドを回避できるなら、何事も苦労しない。

 よし、嫁にする云々はともかくとしてヒロインが酷い目に遭う前に拐おう。



「ルーデルト……」


「すまない、マシロ。今回のは早々に対処しないと不味いかもしれなくてな」


「……分かったわ、我慢する。でも帰ってきたら、我慢した分だけ可愛がってほしいわ」


「約束する」



 甘えん坊モードのマシロが可愛くてその場で押し倒したかったが、理性で堪える。


 と、その時だった。


 ティルシアがご機嫌斜めなマシロの背後に素早く回り込み、彼女の大きくて柔らかいおっぱいを後ろから揉みしだいた。



「ひゃっ♡ ちょ、ちょっと、ティルシアっ♡ いきなり何するのよっ♡」


「ふふっ♡ ルーデルトさまはお忙しいみたいですし、私たちだけでイチャイチャエッチしちゃいましょう♡ ルーデルトさまが嫉妬しちゃうくらい濃密な時間を過ごしましょうね♡」


「や、やめてよ♡ わたし、別にそっちの気はないし……♡」


「あら♡ それはおかしいですね♡ マシロさまのココはもうトロトロになってるじゃないですか♡」


「こ、これはルーデルトに抱いてほしくて……♡」



 目の前で妻と妻がイチャイチャし始める。


 魔剣が爆発しそうなくらい膨らむが、ここで理性を失えば大幅に時間をロスする。


 俺は理性を保ち、その場を後にした。







 ◇






 魔王城を出た俺は、最高速度で空を飛びながら目的地を目指した。

 それからしばらくして、ジークレフ率いる獣魔軍を発見。


 『万里眼』でヒロインの居場所を探す。



「……いた。随分と目立つところにいるな」



 ヒロインは獣魔軍に追随するオルフガルド王国軍のさらに後方を走る馬車の中にいた。


 俺は馬車の前に着地し、声をかける。



「ま、魔族だ!! 囲め!! ルル様に近付けさせるな!!」


「はっ!! たった一人で来るたぁいい度胸じゃねーか!!」


「オルフガルド王国軍が誇る精鋭、我ら三騎士が相手をして――」


「邪魔だ」



 俺は目の前に立ちはだかる騎士たちの顔面に拳を叩き込み、頭部を破壊した。


 三騎士という名前は『オルフガルド戦記』にはなかったが、他の兵士たちが動揺する程度には有名な者たちだったらしい。


 近くにいた兵士たちがざわめく。



「あの三騎士が一瞬でやられた!?」


「こ、この魔族、まさか上級魔族か!?」


「に、逃げろ!! 殺されちまう!!」


「おい!! ルル様はどうすんだ!?」


「知るかよ!! あんなクソガキ放っておけ!!」



 兵士たちが散り散りに逃げ出す。


 おそらくは【魅了眼】の影響を受けているであろう数人が残って応戦してきたが、大した時間稼ぎにもならない。



「思ったより楽に終わりそうだな」


「ふーん。やるじゃん、お兄さん? 他のザコとは違うみたいだね?」


「ん? っ、しまっ――」



 急に可愛らしい少女の声が聞こえて、俺は思わず振り向いてしまった。


 そこには桃色の髪をツインテールに束ねた、十代半ばに差しかかるであろう美少女が一人。

 微かな膨らみのある胸元を露出した装備を身に付けている猫獣人だ。


 普通の猫獣人と異なるのは、尻尾が二本も生えていることだろう。


 彼女の名前はルル。

 見た目こそ可愛らしいが、にやにやと笑いながら相手を馬鹿にするメスガキヒロインだ。

 目が合った相手を問答無用で支配下に置く固有スキル【魅了眼】の持ち主である。


 そして、俺はバッチリと目を見てしまった。


 シナリオの終盤、ルルはルーデルトを魅了して自害させることで決着を付ける。


 うっかりでは済まないやらかしだ。



「ん? あれ……?」


「あはは!! 強いけど、やっぱりお兄さんも他のザコと一緒だね!! じゃあお兄さん、手始めにルルちゃんの足を犬みたいに舐めて服従してよ? そしたらルルちゃんの奴隷にしてあげる!!」


「魅力的な提案だが、遠慮しておこう」


「……え? は? な、なんで!? どうしてルルちゃんの魅了が効いてないの!?」


「なぜ、だろうな」



 俺はルルの【魅了眼】が効いていなかった。


 シナリオの終盤、ルルはルーデルトを支配下に置いて自害させることで決着する。

 魔王とて彼女の固有スキルは通用するし、そこに例外はないはずだが……。



「……あっ、元々好きだからか」


「は?」


「いや、何でもない。こちらの話だ」



 俺は咄嗟に誤魔化してルルに通告する。



「大人しくしろ。お前の力は俺には無意味だ」


「お、お兄さん、何者なの? ほ、他のザコとは違うみたいだね」


「通りすがりの魔王だ」


「!?」



 必死に強がりながら俺のことを探ってきたので、正直に正体をバラした。

 すると、ルルは完全に怯えてしまい、その場で固まってしまった。


 抵抗する気もないようなので、あとはこのまま縄か何かで拘束して魔王城に連れ帰れば――


 と、その時だった。



「ルル様に近付くなァ!!」


「っ、ジークレフか。時間をかけすぎたな」



 野生の本能でルルの危険を察知したのか、数人の獣魔族が俺と彼女の間に割って入ってきた。



「あ、あはは!! ザコもたまには使えるじゃん!! ザコども、ルルちゃんが逃げるための時間を稼げ!!」


「ハイ!! ルル様のご命令通りに!!」


「……面倒だな」



 ルルはジークレフやその他の獣魔族を盾にして逃げるつもりらしい。

 別に油断したつもりはなかったが、生け捕りは失敗だ。


 急いでジークレフをどうにかしてルルを保護しないと、彼女の両目が抉り取られてしまう。







―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント小話


作者「……分からせたい」


ル「一言なのが怖い」


作者「あと面白いと思ったら★★★ください。フォローしてください。感想ください。レビューください」


ル「この承認欲求モンスターが!!」



「元々好きだと魅了は効かないのか」「猫又ヒロインええやん」「クレクレモンスターで草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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