幼馴染の婚約者と親友の令嬢に裏切られたご令嬢の末路
柴又又
第1話
(あれ? ここは……)
気が付くと
なぜそんなに笑顔なの。どうして?
フランソワーズ・モラレッティ。それが
つい先ほど、
「
なぜ? どうして友人のミラ様がラスティ様の隣にいらっしゃられるのでしょうか。
「ミラ様とフランソワーズ様ではね」
確かにミラ様は
足元が揺らぐのを感じます。他人と比べられてしまったら私は……。現実が、揺らいでゆくのを感じておりました。暗くなってゆきます――。
「いい子でちゅね」
(……え?)
私はどうしてしまったのでしょうか。
差し出された
「いい子だね。本当に可愛らしい」
「そうですね。あなた」
(え?)
どうやら、私はショックのあまり、現実を
それでも時は進みます。
これはテレビと言う物らしいです。
「
「え? それは……その。
「なんで⁉ ぼく涼子ちゃん好き。結婚して?」
「ごめんなさい……」
「先生‼」
「あらあらどうしたの? 良太君」
「うわぁーん。涼子ちゃんが結婚してくれないって」
「あらあら。
申し訳ないのですがご
私はどうしてしまったのでしょうか――変わらない物もございます。ピアノです。
まるで元の世界の両親のようです。父と母は
子供にしては
両親からは音楽の道を進められ、
小学校はお
とても。そうですね。とても
音楽は楽しいばかりではございません。
「いい子ちゃんぶって」
「ぶりっ子が」
「先生の前でだけいい恰好をして」
「クラシックなんてつまらない。ロックじゃない」
私には友達ができませんでした。それは
時には
この国はとても
「ねぇ。お姉さん。
お姉さんと言うよりも……貴方の方が現在におきまして年上かと存じます。
「また会ったね。これって
「
「メッセージ
「ありがとうございます。ですがご
「俺って
「そうなのですね」
ナンパとはめげずにお声をかけるのがミソかと存じます。人は何度も会えば
「
「何時も良いニオイが致しますね」
「え? そう?
「
「君って、お
「
ゆったりと生活できるのは私の
「あの。
お声をかけて頂いたのは可愛らしいお嬢さんでした。
「弄ぶ。ですか?」
「見ていて
彼とは――お
「わかりました。今後はそのように
「え? あっはい。……つまらない人。私の方が彼を思っているのに……」
帰りの
楽譜通りです。楽譜通り――。周りの方々は私をつまらないと
クリエイティブな
「一ついいかな?」
「はい。先生。何か
「その。
「はい?」
「あまり、遊びすぎるのはどうかと」
「遊び。ですか?」
「それは確かに。君の自由だが。自分を大切にして欲しいと。その。
「先生。ご心配をおかけ致します。私は男遊びなどはしておりません。噂ですか」
これは元の世界にもございました。そうして噂にて敵を作り、一つにまとまったり、相手を
「そうだよな。すまない。
「いいえ。ご心配ありがとう存じます。先生」
「いや、
「はい。先生」
ただ……私は、音楽で
「一度は海外で学んだ方がいい。君には才能がある」
ありがとう存じます。そこまで認めて下さるなんて。ですが……。私は。
大学へと進学させて頂きます。
そんなおりでした。父からお見合いのお話を頂いたのは。
お相手は24歳と年上の方でした。
「無理にとは言わないが、一度会ってみないか?」
父にそう告げられまして。お会いさせて頂きました。
「初めまして。このたびは、ご足労頂きありがとうございます」
「初めまして。涼子と申します。こちらこそ。この度はこのようなお話を頂きましてありがとう存じます」
「ご丁寧にありがとうございます。鉄次郎と言います。父が無理に申し出てしまったようで、申し訳ない限りです」
「そうなのですね。お父様とは……」
「あなたのお父様と家の親父が知り合いのようでして。あなたを一目見て、親父がどうも気に入ってしまったらしく」
「そうなのですね」
「……まさか、このような可愛らしいお嬢さんが来て下さるとは夢にも思わず、このような
膝の上で拳を握り、背筋をまっすぐと伸ばしておられます。綺麗な目。
「ありがとう存じます」
「断ってくれて全然構わない」
その言葉を聞いて、前世を思い出しておりました。今世においても私は、選ばれないのかもしれませんね。
「他にお好きな方が?」
「いや、俺は女性とはとんと縁が無くて。ただこんな容姿なんで、怖がらせてしまったんじゃないかと」
「怖がる。ですか?」
「あぁ。目つきが悪いだろ? 鬼っ子とか呼ばれて。特に女性には怖がられる事が多くてな」
「ふふふっ。そうなのですね。怖くはございません。目が、とても綺麗に存じます」
それから
スーツのニオイが致します。
会話の
「本日は。ご
「いえ。鉄次郎様。こちらこそ。このようなお話を頂き、ありがたく存ます」
「それで。その。また。その。会って頂けますか?」
「はい。お時間がよろしい時に、ぜひにと存じます」
「そっそうか。ありがとう。じゃあ。また……」
「はい」
鉄次郎様。真面目な方なのですね。お家へと帰りますと、父が嬉しそうにしておりました。母は複雑な表情をしておられます。
「どうだった?」
「はい。
「涼子。嫌だったら断ってもいいのよ?」
「はい。お母様。大丈夫です。大変良い方でしたよ」
「まったく。あなたったら。今は恋愛は自由なものなのですよ? この年でお見合いだなんて。相手は24歳ですってね。6歳も年上ではないですか。涼子。付き合っている方がいたら、ちゃんと断るのよ?」
「大丈夫です。お母様」
「あなたは良い子過ぎて。お母さんとても心配だわ。悪い男に騙されないかしら。本当に心配だわ。もういい子過ぎて心配過ぎてお母さんもうあなたから目を離したくないわ」
「それは言い過ぎですよ。お母様」
「そんな事はないぞ。涼子。お父さんだってお前が心配でたまらないよ。まさか家からこんな良い子が生まれるなんて」
「お二人とも、私を買いかぶり過ぎです」
そう告げるとお二人は大きく息を吐き出しておられました。
「本当はね。貴女が海外へ行くのではないかと気が気ではなくて。お父さん。そうなのでしょう?」
「あっ……お母さん。それは……」
「まったくもう」
「ふふふっ。ありがとう存じます。お父様。お母様。それで一つお願いがあるのですが、お父様」
「ん? なんだい? 次に会う日取りかな?」
「いえ、そうではなくて。私、このたび、18歳になりますので、車の免許を習得したく存じます。加えまして、免許費用を
「え? 車の免許費用ならお父さんが出すよ」
「せっかくですので、アルバイトをしようかと存じます。幸いにして先生より、ヴァイオリンを教える生徒を
「そうか。わかった。しかしアルバイトをしても構わないが、免許費用はお父さんに捻出させておくれ」
「ありがとう存じます。お父様。ではアルバイト費用でのちほど、
「もっと甘えていいのよ? あなたはしっかり者だけれど、何処か危ういのよね。お母さん本当に心配だわ」
お母様の腕の中へと
「いっいいな。お父さんには甘えてくれないのかな? お父さんにも甘えていいんだよ? 涼子」
家庭教師を行う生徒は小学生の男の子です。
「お姉さん先生。ここなんだけど」
「あっ。ここはですね。ターラタララー。このような感じですね。リズムが大切です。はい。とてもお上手です。グッド。とても良いですね。そうです。譜面通りにリズムを刻んで……グッドッ」
これで一日一万円頂けます。
「ありがとうお姉さん先生」
「はい。ではまた次回」
「またね。またねっ。絶対来てね」
生徒との関係は良好のようです。帰り際に、生徒のお兄さんと
「あっ。どうも。へぇー。あいつの先生なんだ。よろしくね。先生」
視線が唇や胸、股間へと流れておられます。
「お姉さん。俺にもヴァイオリン教えてよ。その体で。いいだろ?」
女性におモテになる方のようですね。強引に迫れば女性は受け入れると思考しているようにございます。
腕を掴まれ押し倒されそうになりましたが、腕に噛みついて難を逃れました。本当に危なかったです。逃げ出せました。その後、生徒や
免許は無事習得できました。
鉄次郎様とは何度もお会い致しました。ある時は映画に。ある時は夕食等をご一緒させて頂きました。今更ながらスマホの番号などを交換させて頂き。
夜景の窺えるレストランです。
「このようなお店にご招待頂きまして、ありがとう存じます」
「いや。来てくれてありがとう。その。あまり会話が上手ではなくて。気の利いた言葉は言えないのだが。その。すまない」
「こうしてお会いできるだけで、嬉しいですよ」
「……うっ。その、こちらこそ、嬉しいです」
ただ。鉄次郎様は女性におモテになるようで、少し頬を膨らませてしまいます。後輩の女性ととても仲が良いのです。ただの部下なのは理解しているのです。それでも待ち合わせ等で逆にナンパなどをされておりますと、頬が膨らんでしまいます。
「どっどうしたの。ですか? そんな頬を膨らませて」
「いえ、あなたがナンパなど、されておりましたので、頬を膨らませてみました」
「そっそうですか。安心して下さい。今、俺が夢中なのはあなただけですから」
「今、だけですか?」
「あっいや。そういうわけでは」
「ふふふっ。今日は、
「いいのですか?」
「かまいません」
運転しておりますと、寝息が聞こえて参ります。仕事でお疲れなのですね。
「……はっ。すっすみません。寝てしまった。今はっ」
「構いません」
「はぁ……申し訳ない。展望台も、閉まっている……。あぁ、本当に申し訳ない」
「お疲れ。なのですね。もう少し横になられて下さい」
「しかし」
どうやら部下の一人が多大な
「大丈夫です。大丈夫。ゆっくり。お休みになられて下さい。今だけは」
彼と
「また会いましたね」
「そうですね」
他愛の無い会話から
鉄次郎様と会うようになり半年が過ぎました――買い物に付き合って頂けると、初めて、手を、繋がせて頂きました。
「汗ばんでいて。その」
「構いません。私も。その。汗が」
「大丈夫です」
「あなたの手は。とても。温かいです。ずっとこのままでいたいです」
「うっ……」
呻いた後に、鉄次郎様は何度も深呼吸を繰り返しておりました。どうなさったのでしょう。
「今まで、有耶無耶にしていましたが。もう。お願いします。結婚して下さいッ」
「あっ。はい。よろしくお願い致します」
「いやっ。違うんです。え? いいん……ですか?」
「はい。ただ……その。結婚を前提としたお付き合いなど、少しの間、して頂ければ、その、心の準備もございますので」
「それは。もちろんです。はい。本当に俺でいいんですか?」
「逆にお聞き致しますが、私ではダメですか?」
「……よろしくお願いします。俺が必ず、あなたを幸せにして見せます」
「どうか
身を
色々な所へ参りました。水族館や遊園地。夢の国は、あなたは若干苦手そうで、人も多く、私もあまり得意ではないと感じました。
山登りなど
カラオケ等、如何でしょうか――あなたは歌うのがあまり得意ではないようですね。釣りにも参ります。ゴカイに触れられると申しましたら、
あなたとの月日が重なって参ります。
バレンタインにはチョコレートを――差し出しますと
頬に当てられて手。血液の流れを感じます。上から
「ずっと……好きで頂けますか?」
「はい。一生大事にします」
ファーストキスは、チョコレートの味にございました。
「もう一度、よろしいですか?」
「はい」
「もう一度……」
「何度でも。かまいませんよ」
心臓が熱を持ち脈打ち膨らみます。彼の指先が震えておりました。私の指先も、僅かに震えております。
もどかしいように。その胸の内側へと収められてしまいます。
「あなたは悪い人だ」
耳元で
「そうですよ? あなたにとっての悪い人です」
そう答えてあげます。そう答えますと少し強めに抱き
これが前世ではできませんでした。しかしこれをしなければ繋ぎ留められない愛なんて。本物の愛なのでしょうか。
車を運転できるようになりましたので、両親を伴い旅行へと参りました。両親はやや心配のようでした。大丈夫です。安全運転ですので。
旅行先で偶然夫の部下の男性に出会いました。お風呂上りに浴衣を着て歩いていたらばったりです。本当に偶然なのでしょうか。
「偶然ですね」
「こんばんは。ご旅行ですか?」
「はははっ。友人と羽を伸ばしにね」
「そうなのですね」
ちらりと視線を流した先には綺麗な女性の方がおられました。薬指に指輪がございます。良くありませんね。良くはありませんが、私がどうこう申す問題でもございません。
「では。失礼致します」
「バイバイ」
二泊三日の旅行ですが、両親共にとても喜んで頂けました。
何度か鉄次郎様よりメッセージや電話がございました。
「……そちらはどう?」
「はい。両親共に
「そうか……」
「元気がございませんね? 何かございましたでしょうか」
「……いや。なにも。両親との旅行か……」
言葉を
会いにゆきますと、病院のベッドにて横たわる鉄次郎様をご
「どうかなさったのですか?」
「いや。何でもない」
「鉄次郎様。
「いや。本当に情けなくて。俺は、こんなに弱かっただろうかと……」
「どうなさったのですか?」
「傍にいてくれ。何処にも行かないでくれ。ずっと傍にいてくれ。頼む。君じゃなければダメなんだ」
「……どうなさったのです」
その頬やおでこへと唇を寄せさせて頂きます。鉄次郎様は
「すまない。……部下の
「ふふふっ」
「なっ」
笑ってはいけないのですが、思わず笑みが浮かんでしまいました。鉄次郎様は本当に可愛らしいお方です。こわもてな一面を持ちながらも、性格はとても可愛らしいです。
「何を笑っているのですか?」
「嫉妬して下さったのですね。
「俺は真剣に……」
「私は
人間関係は複雑なものです。好む方ならばさらに特別です。自分に同じだけの傷があれば理解もできますが、自分にその傷がなければ理解もできません。
「私にはあなただけですよ?」
「それは……わかっているのだが」
この梨と言う食べ物は私の好物です。この世界にて初めて出会い、
「はい。あーんして下さい」
鉄次郎様はそれ以上何も語らず、ムスッと
「そんなに心配でしたのなら、早くものにしてしまえば良いかと存じますけれど?」
そう申しますと鉄次郎様は奥歯を強くお噛みになられておられました。口をお開けとなり梨を
「
看護師さんに怒られてしまいました。
それからあれよあれよ言う間に結婚式です。とんとん
ウェディングドレスも
そのまま新婚旅行だったのですが……おかしなお話なのですが、記憶が鉄次郎様の映像しかなく。私を鉄次郎様に捧げられました時には。受け取って頂いた時には大変喜ばしく――鉄次郎様にぎこちなくも激しく求められれば、なぜだかとても嬉しく。唇を当てれば求めるのを止められず、
人目を
「鉄次郎様……」
名を呼べば腕を掴まれ引き寄せられて、
「くっ……涼子。覚悟はできているんだろうな?」
「……どうなさるんですか?」
混ざり合う汗のニオイに包まれて。
「俺から離れられなくしてやる」
二人きりであるならば、それはとても甘い
その
後に残った
アッと言う間にございます。旅行なんてしていたのでしょうか。汚れた荷物とお土産だけが
旅行から
「はえ~……」
見上げるビルにそのような
「ここに、住むのですか?」
「あぁ、気に入ってくれるといいんだが」
移動がエレベーターです。階段での移動は前世を
「ジムにサウナ。エステや温泉もあるから。レストランやカフェもあったかな」
「お家の傍に。ですか」
「買い物をするのにはちょっと不便かもしれない」
「……あなたは私の手料理を頂きたくないのですね」
「馬鹿を言うな。毎日でも食べたいに決まっている。安心してくれ。配達で玄関まで持って来てくれるから。ただ無理して家事はしなくても大丈夫だ」
なんだそれは。なんなのだ。配達ってなんなのだ。思わずそのような間抜けな感想を浮かべてしまいました。
「無理などしておりません……。毎日あなたの洗濯や料理がしたいのです」
「家政婦を雇っても構わない。それを視野には入れておいてくれ」
愛しい人のお世話を行える。これほど幸せな事が他にございますでしょうか。ただ現代におきましては
「それと……仕事に関してだが」
「そうですね。大学を卒業致しましたら
「俺の。俺の秘書じゃダメか?」
「旦那様の秘書ですか? それは構いませんが、私で採用されますでしょうか」
「それは大丈夫だ」
「コネはいけませんよ? コネは」
「残念だが俺はお前と
「
「何とでも言え」
エレベーターを降り、お部屋へと、綺麗なお部屋です。窓から外がご
私の荷物はそれほど多くはございません。すでにセットされておりました。細かい
「あっ」
後ろから夫に抱きしめられております。頭の
お風呂では夫の体を洗います。
「好きだ」
「はい。私も。好ましく思っておりますよ。旦那様」
湯船に浸かっている間はまるで赤子が甘えるように旦那様の腕の中におりました。
「お前はまたっ。俺を
「……惑わされているのですか? 旦那様」
「愛している。離さない。愛している。お前だけだ」
大学も卒業まであと半年と言う所で、私は体調を
お家へと帰りまして、夫の帰りをお待ちします――今日はラザニアです。
スマホは結構な
父や母からもメッセージや通話が来ております。嬉しいのやら、
夫は特に心配し過ぎです。帰って来た夫を玄関でお出迎えです。帰って来るなり夫は
「電話に出ろ」
「あっ。はい」
「今じゃない‼ まったく……あまり心配させないでくれ」
その腕の中へと。
「今日はラザニアですよ。トマトたっぷりです。マカロニパスタも入っておりますよ」
「……
「……そんな事はございません。今日もお仕事お疲れ様です。それにあなたの汗は汚くありません」
身を寄せずにはいられません。戦って来た夫が汚いわけがありません。いいえ。この汚れすらも愛おしいのです。
「臭くないか?」
「大好きです。あなたの全てが……」
頬に添えられた指。優しく撫でて頂けます。
「病院はどうだった?」
「あっ……あなた。お伝えしたい事が」
「不安にさせないでくれ」
「ごめんなさい。その……妊娠しておりまして」
夫は口元を
「そうか。そうかっ。俺と君の子供か」
「はい。そうです」
「そうか……。ありがとう」
ゆっくりとした
両親にお伝えしたのですが、過保護が
「こういうのは
「少し、ニオイには
「牛乳を飲む時は温めて飲むように。香水も気を付けなさいね。トマトは大丈夫? お母さん
大学を
次第に重くなってゆくお腹――いい子ですね。
生まれて来た子供は
スケジュールの
「休憩時間が終わってしまいますよ?」
「今日は帰りたくない」
「午後からのお仕事も頑張りましょう」
「今日は帰りたくないと言っているのだが」
「会社にお泊りなさるのですか? では
「そう言う意味ではない」
「お弁当はどうでしたか? はんばーぐ。お
「わかっていて言っているだろう?」
「ふふふっ。わかります?」
「ひどい人だ……」
「だいぶ
「君は相変わらず
今日はお家へ帰れそうにございません。両親へとそう告げますと、心配ないとお返事を頂きました。グルですね。わかります。
「午後からのお仕事は……」
「今日は全てキャンセルだ」
「もうっ。
半年も待たずに二人目を授かりました。女の子です。名前を
二人目の出産が
竜次、竜子共にすくすくと成長して参ります。私とあなたの子供です。息を飲むほどに愛おしい。
竜次には寂しい思いをさせてしまいました。私がおらずとも両親がおりましたので、寂しくはなかったと本人は言うのですが。三歳でそれはさすがに……。五歳まではかかるかと考えていたオムツもすぐに取れ、自分でお手洗いを行ってしまいます。
ただやはり抱き上げますと竜次は優しく
「あなたも甘えん坊なんですから」
「仕方ないだろ。悪かったな……」
「ふふふっ。いいんですよー? ねぇー? 竜次」
そんな私は夫に背後から抱えられておりました。
竜次と異なり竜子は
夫と子育てと仕事の合間にジムへと通う事に致しました。少々崩れてしまった体型が気になります。現在正さなければ、ずっとのまま崩れてしまっているような気がします。夫には何時までも
「あなたのせいですからね」
「俺は好きだよ」
「
「ベッド」
「旦那様ッ」
ジムには
シャワールームが不安です。
このような感想を言えるような身分ではございませんが、はっきりと申しませば気持ち悪いです。私まで巻き込まれそうで怖いです。実際周りの女性も私を巻き込もうとしておられます。
夫にこの問題をお話すると夫は
私も女性陣よりかなりの嫌味や
「あなたが
そう告げられてしまいました。
夫の
「大丈夫なのですか?」
「問題ない。元々家のじいさんが使っていた家だ。そんな事よりお前が無事でよかった」
「私は
「俺もお前だけだ。お前だけだよ。お前だけだ」
「旦那様。
「それだけはない」
木造平屋一戸建てです。なんだかとても安心致します。両親も家に足を運ぶのが軽くなったと申しておりました。竜次さんは
竜次さんが中学生となった時に、問題がございました。竜次さんが
竜次さんの手を握っておりました。冷たくなった手です。
夫にはお話を致しませんでした。
竜次さんは先生からの評判は良いのですが友達とは
心配だったのですが――自分で解決してしまったようです。どうもイジメを受けていたようなのですが、先生に呼び出されてしまいました。生徒の数人と
「あいつらが、母さんに手を出すって言うから」
「……それでもバットはいけません。バットは。死んでしまいます」
「はい」
「よくやった」
「あなた‼」
「はははっ」
今回の喧嘩で竜次さんは自信を持ったようでした。変な自信でなければ良いのですが。母親と言うのはとても難しいです。美味しいご飯とお世話があれば上手に回るわけではありませんから。
竜子さんは……問題ないようですね。どのような方とも仲良くなってしまうようです。習い事や
竜次さんは
竜次さんは
その話を聞いて夫は笑っておられました。笑いごとではございません。まったく。
母の日に……息子が
竜次さんは抱き
「お母さん。もう子供じゃないって」
「お母さんにとっては
夫からはディナーに
「なんだかお恥ずかしいです」
「君は綺麗だよ」
「また……そのような歯の
「綺麗だよ」
「お前が好きでたまらない」
気持ちまでシンクロしておりますのでしょうか。
「またそのような……」
「こうして抱きしめていると、
「もう。あなたたったら」
色々な
目が覚めれば夫の腕の中――起き上がろうとすれば押さえられて抜け出せません。強く腕の中へと収められてしまいます。
「離さない」
「では。もっとぎゅっとして下さい」
「あぁ」
「お
そう告げますと夫は
たまには家族で旅行です。初めてハリケーンに
私が水に入るのを
初めて
家族四人で夕日を
夫と二人。子供を挟んでベッドの上です。子供達の体温は何とも
「いい子だ」
「あなたの良い子ですよ。うふふっ」
頬に添えられた指先。
旅行も終わりですが帰り道は皆様落ち着いておりました。少しだけ寂しい気持ちになりますね。終わりは何時も
「よし。ちょっと車とってくるよ」
「はい。あなた。ここでお待ちしておりますね」
「パパ。早くしてよねー」
「あぁ。すぐ戻るよ」
パパですって。ふふふっ。
「きゃあああああああああ‼」
「うわああっ‼ 逃げろ‼ 早く‼ 逃げろ‼」
これは――人々の
「うわわああああああああああああ‼ 死ねぇええええ‼」
子供達だけは絶対に守らなければ――。背中へと
「離せ‼」
「うっ……ぐっ」
刺さったナイフを握ります――車が突っ込み、降り立った夫が男を
「涼子‼ 涼子‼ 大丈夫か⁉」
「離せぇええええええええええ‼ 離せよぉおおおお‼ 離せぇえええええ‼」
あなた。来て下さいました。あなた――。
不思議なのです。痛みがあまりありません。
「お母さん‼」
「ママ‼」
あぁ。竜次さん。やはり、男の子なのですね。お母さんを抱き
「……竜次。あぁ……」
触れた頬に赤い
「いい子に育つのよ。優しくね。お母さんね。嬉しかったの。ごめんなさいね。いじめる側じゃなくて良かっただなんて」
「お母さん‼
「ママッ‼ ママッ‼ お兄ちゃん‼ お父さん‼」
「誰か警察を呼んで‼ 大丈夫ですか⁉ 警察‼」
「みんなで押さえつけて‼」
「コイツ‼ ふざけやがって‼」
「竜子。あなたは、自由に、ね?」
あなたは芯の強い子ですから。
「おがああさん‼」
「風邪、ひかないように、温かくして、眠るのよ?」
あなた――。
あなた――。
あなたの姿が遠くにございます。
あなたと一緒になれて――。
私は――。
「涼子‼」
遠くにあなたの声が聞こえます。
「ごめんな。フランソワーズ。でも俺は真実の愛に気付いてしまったんだ。そう。ミラへの愛に」
「ごめんなさいね。フランソワーズ。親友の貴女から彼を奪ってしまうだなんて」
急な
子供達が無事で良かった。子供達が無事で良かった。母として人として。子供たちが守れて良かった。そう考えるだけで涙が
「何をしている」
「こっこれは
「これは何の
皆が息を飲んでおられます。殿下です。まだお若い方です。
「お前は……立て」
腕を
「来い」
はえー……。腕を握られ連れ行かれてしまいました。お腹をさすさす致しましたが、傷口などはございませんね。背中も眺めます。
「……泣くほどあいつが好きなのか?」
改めて殿下を眺めます。この国の第一王子です。黒髪でまだまだお若いご様子です。竜次さんと同じぐらいでしょうか。ふふふっ。お可愛らしいです。
「何を笑っている」
「いえ。申し訳ございません。確かに婚約者ではございました。しかしながら好ましいとは考えておりません。涙は少し
「……好きではないのだな?」
「はい。私には大切な方がおられますので」
鉄次郎様。例え白昼夢であったとしても私の心の中には今もなお、あなたが存在しているのです。
「それは鉄次郎か?」
「……へ? 殿下は、鉄次郎様をご存じなのですか?」
「答えろ」
「……はい。私は鉄次郎様をお慕い申し上げております」
「……そうか」
なぜにございましょうか。殿下に抱きしめられてしまいました。その小さな胸の中です。
「殿下?」
「お前のいない日々は、
「へ?」
「悪いけれど、俺はお前を手放す気はないよ。涼子」
「てっ……鉄次郎様?」
「あぁ。まったく。こんな所にいるだなんて。まったく。しかも婚約者だなんて。許せそうにない。あぁ許せそうにない」
強く胸の中へと抱き留められてしまいました。
「……殿下? 鉄次郎様……?」
「そうだ。長い長い時間だった。また出会えるなんてな。一目でわかったよ」
「本当に……鉄次郎様?」
「あぁ。そうだ。もう離れるんじゃない」
「これは、夢、でしょうか?」
「夢だったら俺はキレちまいそうだ。ようやく会えた。もう手離しはしない。もう二度と離しはしない。もう何処にも行くな。俺の傍にいろ」
まさかまさかまさか。この世界で再び鉄次郎様と出会えるだなんて。
「そうだ。子供たちは⁉」
「無事だよ」
「そうですか。そうですか……。ごめんなさい鉄次郎様」
「なぜ謝る? 俺の方こそすまなかった。お前を守れなかった。
「ふふふっ」
「なにを笑っている」
「鉄次郎様。変わっておりませんね」
「変わったよ。変わった」
「そうですか?」
「あぁ……。ところで婚約は破棄されたのだろう?」
「えぇ? そうですが」
「じゃあ、何も問題はないな。俺と婚約しろ」
「あのぅ。鉄次郎様」
「なんだ?」
「鉄次郎様は今、何歳にございましょうか?」
「十歳だが?」
「私……十六歳なのですが」
「それが何だ?」
「鉄次郎様が十八歳になられましたら、私は二十四歳なのですが」
「それがどうした?」
「
「言っとくけどお前が他の男に嫁ぐなんて絶対許さないからな。絶対に俺と結婚させる」
「私は……鉄次郎様をお慕い申し上げておりますが……そのう。皇帝一族としての
「知るか。
「そんなに謝らないで下さい。私もあなたを一人にしてしまってごめんなさい」
「いいさ。もう。いいさ。こうして出会えたのだから。ずっと傍にいてくれ……涼子」
「はい……。鉄次郎様」
運命とは思いもよらぬものですね。ただ、その、何と申しましょうか。のちの障害は一つや二つでは済みませんでした。
「あの。鉄次郎様」
「なんだ?」
「伝えておりませんでしたので。その」
「あぁ。なんだ?」
「私、鉄次郎様と出会えて、とても、幸せです」
そう伝えますと鉄次郎様は
「ごめんな。ごめん。守れなくて。本当にごめん。ごめんな。俺が守らなきゃいけなかったのに。俺が守らなきゃいけなかったのに。ごめんな。痛かっただろう? 辛かっただろう? ごめんな」
「……いいのですよ。子供達は守れたではありませんか。いいのですよ」
「よくねーよ。お前に二度と会えなかったかもしれないと思うと俺は……俺は」
「……よしよし。よしよーし。また出会えたではございませんか」
「もう何処にも行くな。ずっと一緒にいてくれ。頼むよ……」
鉄次郎様はなかなか離れてくれませんでした。お可愛らしいですね。
「……はい。ずっと一緒です」
「もう絶対に離さないからな」
仕方がございませんね。
「……そういえば、ご存じですか? この国では婚約者よりも真実の愛に気付いてそちらへと靡く王子様の物語が流行っているのですよ? 捨てられた婚約者もまた遥か遠方の土地で、これもまた真実の愛を見つけて王子様よりも幸せに暮らすのです。そして王子は婚約者を手離した事を悔やみ
「……それは」
鉄次郎様は目を丸くして考えておられます。お可愛らしいですね。
「……お前……俺をからかっているな⁉」
ばれてしまいました。
「うふふっ」
「二度と離さないからな」
「……はい」
愛おしいあなた。
幼馴染の婚約者と親友の令嬢に裏切られたご令嬢の末路 柴又又 @Neco8924Tyjhg
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