第6話 ブルータス② 講評

アトリエの空気が静まり返る。

 壁一面に並べられたブルータスたち。

 同じ石膏像を描いたはずなのに、どれもが違う顔をしていた。


 アンザイ先生、オオワシ先生、スギヤマ先生――

 三人の講評が始まる。


 「まずは、木炭というものに慣れよう」

 アンザイ先生が口を開いた。

 「線の強弱も、面の取り方も、まだぎこちないけれど、

  この“ぎこちなさ”の中に、君の素直さがある。

  もっと木炭をたっぷり使って、

  “描く”というより“探す”つもりで描いてみて」


 そう言って、先生は私の絵の前に立った。

 「どうしてこの場所で描こうと思ったのか。

  その理由を、言葉にできるようにしていこうね。

  自分で描いていると気づきにくいけど、

  “違和感”に気づけるようになると、一気に絵が変わるから」


 私はうなずきながら、ノートにその言葉をメモした。

 “違和感に気づけるように”――

 その一言が、今の自分にとって一番刺さった。


 隣でオオワシ先生が笑いながら言う。

 「でもなんか、ブルータスっていうより……大仏みたいになっちゃったね」


 その場に小さな笑いが起きる。

 私も思わず苦笑した。

 たしかに、気づけばブルータスの表情は、どこか穏やかだった。


 「でもね、悪くないよ」

 オオワシ先生は続ける。

 「“怒り”の像を“静けさ”にしてしまうのも、絵の力だから。

  今はそれでいい。まずは“楽しく描けたか”が一番大事」


 その言葉に、少し肩の力が抜けた。


 最後にスギヤマ先生が言葉を添える。

 「面のつながりが見えてきてる。

  形の取り方も、少しずつ安定してきたね。

  これからは“影の濃さ”よりも、“空気の濃さ”を意識してみよう。

  石膏像の周りの空間も、立体の一部なんだ」


 私は三人の言葉を頭の中で繰り返した。


 ――違和感に気づく。

 ――楽しく描く。

 ――空気を描く。


 それぞれの言葉が、ひとつの線のようにつながっていく気がした。


 講評が終わり、アトリエの片隅で自分のブルータスを見つめる。

 確かに、どこか“大仏”に見える。

 けれど、その顔を見ていると――少しだけ、誇らしかった。

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