第14話:真の黒幕

 隼人はやとからの緊急招集を受け、第一ブリーフィングルームに集った選抜メンバーたち。だが、彼らの間に生まれた溝は深く、重苦しい沈黙が円卓を支配していた。


 圭吾けいごは、他のメンバーから少しだけ離れた席に座り、腕を組んで黙り込んでいる。


 やがて、隼人が重い足取りで部屋に入ってきた。彼の後ろには、氷のような表情を浮かべた東雲しののめの姿もある。


「……全員、揃ってるな」

 隼人は、一同を見回すと、手元の端末を操作した。中央のホログラムディスプレイに、二つの凶悪なエンブレムが映し出される。一つは、翼の生えた蛇。もう一つは、黒曜石でできた髑髏どくろ

 スカイ・サーペントと、黒曜連合。


「先日の豊洲での事件、ご苦労だった。……あれから、押収したデータと、これまでの情報を徹底的に洗い直した結果、奴らの背後関係が、ようやくはっきりと見えてきた」

 隼人は、そう言ってディスプレイに新たな情報を表示させた。

 二つのエンブレムが線で結ばれ、その間には「武器の密売ルート」「資金洗浄」「構成員の人的交流」といった、生々しい単語が並んでいる。


「スカイ・サーペントと黒曜連合……。この二つの組織は、俺たちが思っていた以上に、深く繋がっていた。まるで、一つの巨大な身体に生えた、二本の腕のようにな」

「……!」


 その事実に、学生たちが息を呑む。

 自分たちがこれまで相手にしてきた脅威が、実は同じ根から生えていたというのだ。


「ただ、問題はそこじゃねえ」

 隼人の声が、一段と低くなる。

「こいつらは、どっちもただの実行部隊……鉄砲玉にすぎなかった。こいつらを裏で束ねてる、もっとでけぇ組織がいることが分かったんだ」


 ディスプレイの表示が、再び切り替わる。

 スカイ・サーペントと黒曜連合、その二つのエンブレムの、さらに上に。

 一つの、ありふれた組織名が表示された。


【一般社団法人 日本青年未来機構】


「……一般社団法人?」

 陽菜ひなが、困惑したように呟いた。

「なんですか、それ……。NPOか何かですか?」

「表向きはな」

 隼人は、苦々しく言った。

「行き場のない若者の自立支援だの、ボランティア活動だのを掲げてる、クリーンな団体だ。だが、これが奴らの本当の顔だ」


 ディスプレイの文字が、赤く、禍々しい筆文字へと変化する。


統和会とうわかい


「……とうわかい……」

 詩織しおりが、か細い声でその名を呟いた。


「ああ。日本の裏社会に根を張る、巨大な犯罪シンジケート(連合体)だ」

 説明を引き継いだのは、今まで沈黙を守っていた東雲だった。

「複数の指定暴力団、半グレ、その他の反社会勢力を束ね、その影響力は政財界にまで及んでいると噂されている。我々がこれまで相手にしてきたのは、その巨大な蛇が切り捨てた、尻尾の先にすぎなかったということだ」


 あまりにも、スケールの大きな話だった。

 自分たちが戦ってきた相手が、ただのチンピラやテロリストではなかったこと。その背後に、国家そのものをむしばみかねない、途方もない闇が広がっていたという事実。

 陽菜も、いつきも、そして詩織も、言葉を失ってディスプレイをただ見つめていた。

 圭吾でさえ、眉間に深くしわを寄せ、厳しい表情でその名を睨みつけている。


 誰もが、これから始まる戦いの、本当の大きさを前にして、押し黙るしかなかった。

 一人を除いて。


「……日本青年未来機構、ね」


 沈黙を破ったのは、神原閃かんばらせんだった。

 彼は、ふん、と鼻で笑うと、椅子に深くもたれかかり、不遜ふそんな態度で言い放った。


「……なんだ、そのふざけた名前は」


 それは、やり場のない怒りか、あるいは巨大すぎる敵を前にした、彼なりの虚勢だったのかもしれない。

 だが、その時の彼らは、まだ誰も知らなかった。

 そのふざけた名前の組織が、自分たちの日常を静かに、そして確実に蝕む巨大な闇であり、これから続く長い戦いの、本当の始まりを告げるものであるということを。

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