恋は微熱と。
夕凪あゆ
第1話
君が少しだけ汚れた言葉を吐いたと聞いた。
風に乗った噂のように軽く、
けれど私の胸には、やけに重く落ちた。
まっすぐで、誠実で、
少年のような眼をしていた君。
その印象が、指先で触れた紙の端のように
わずかに折れた気がした。
私は静かに息を呑む。
でも、嫌悪ではなかった。
むしろ心の奥のどこかが熱を持って、
どうしようもなく鼓動が高鳴る。
その言葉の裏にある君の笑みを想像する。
ふとした仕草や、息遣い、
小さく震える肩の動きさえも思い浮かべる。
そのすべてが、私の胸をひとつひとつ撫でるようで、同時に焦がれるように疼く。
きっと、人は誰もが少しずつ濁っていく。
言葉を覚え、痛みを知り、
世界の温度を測るようになる。
その過程で、君はほんの少し
「子供」を脱いだだけなのだろう。
それでも、私は戸惑う。
あの眩しかった君が、
他の誰かと笑いながら
そんな話をしていたことを想像して、
胸の奥で何かが小さく弾ける。
嫉妬とも、愛情とも違うこの気持ちに
名前をつけられないまま、
静寂の中でひとり、
指先に残る微熱を数えていた。
ふと、心臓が少し速く打つのを感じる。
私は君のことを考えるたび、
小さな希望と不安が交互に胸を打つ。
君が笑えば世界が少し明るくなり、
君が遠くにいれば息が少し重くなる。
それはたとえば、冬の夜の灯りのように、
柔らかく、そして温かく、
でも触れられぬ熱を秘めている。
それでも、気づく。
私は君の変化を恐れながら、
その変化に恋している。
君の影も、光も、
全部まるごと抱きしめたいと思う。
汚れた言葉でさえ、
君が生きている証のようで、
どこか美しく見えるのだ。
この熱は、夜の静けさに溶けて、
心の奥でそっと息づく。
どうか、この温度を
君に伝えられる日が来ますように、と
私は静かに、でも確かに願う。
恋は微熱と。 夕凪あゆ @Ayu1030
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