第04話「ギルドへの道と、新たな出会い」

 俺の畑の噂は、あっという間に近隣の村や町にも広まった。

「辺境のハミル村に、魔法のような農法で豊作をもたらす若者がいる」と。

 その結果、俺の家には、農法の秘訣を教えてほしいと訪ねてくる者や、珍しい野菜や保存食を買い付けに来る商人が後を絶たなくなった。

 村は活気づき、経済的にも潤い始める。俺自身も、野菜や保存食の販売で、そこそこの収入を得られるようになった。

 しかし、良いことばかりではない。目立てば、それを妬む者や、利用しようと考える者も現れる。

 以前、俺の畑を奪おうとした男たちが、最近また俺の周りをうろつくようになったのだ。


「ユウト、気をつけた方がいい。あいつら、何か企んでる顔をしてた」


 リナが心配そうに忠告してくれる。彼女は、時間がある時はいつも俺の護衛のように側にいてくれるようになった。


「ああ、分かってる。何か対策を考えないとな」


 今の俺は、ただの村人だ。身分的な保証は何もない。

 何かトラブルに巻き込まれた時、俺を守ってくれる盾が必要だ。

 そこで俺が思いついたのが、「冒険者ギルド」への登録だった。

 冒険者になれば、ギルドという大きな組織の後ろ盾が得られる。ギルドカードは身分証にもなり、信用度も上がるはずだ。それに、いざという時には、戦闘のプロである冒険者を雇うこともできる。


「冒険者、か……。ユウトが?」


 俺の計画を聞いたリナは、意外そうな顔をした。


「お前、剣も魔法も使えないだろう?」

「まあな。でも、ギルドには採取や運搬みたいな、戦闘以外の依頼もあるって聞いた。それに、俺には俺なりの戦い方がある」


 俺の武器は、知識だ。それを活かせる依頼だって、きっとあるはず。

 俺はリナに道案内を頼み、一番近くにある冒険者ギルドへと向かった。村から歩いて半日ほどの、小さな町だ。

 ギルドの建物は、屈強な冒険者たちの熱気でむんむんしていた。

 カウンターで登録を申し込むと、いかつい顔のギルドマスター、ギルマスさんがうさんくさそうな目で俺を見てきた。


「ほう、お前さんがハミル村のユウトか。噂はかねがね聞いているぞ。で、こんなひょろっとしたあんちゃんが、冒険者に?」

「はい。戦闘は苦手ですが、薬草や鉱物の知識なら誰にも負けません。それに、新しい道具の開発も得意です」


 俺は自信を持って言い切った。ギルマスさんは面白そうにニヤリと笑う。


「面白い! 言うじゃないか。よろしい、特別に登録を認めてやろう。だが、すぐに泣き言を言うんじゃねえぞ」


 こうして俺は、晴れて冒険者ギルドの一員となった。ランクは一番下のFランクからだ。

 早速、依頼掲示板を見てみる。ゴブリン討伐、盗賊団の討伐……物騒な依頼が並ぶ中、俺は一つの依頼に目を留めた。


『依頼:スタール鉱石の効率的な採掘方法の考案。報酬:金貨5枚』


 スタール鉱石は、武具の素材として重宝されるが、非常に硬く、採掘が困難なことで知られていた。


「これだ」


 俺は、この依頼を受けることに決めた。

 ギルドを出て、鉱山に向かう道中、リナが呆れたように言った。


「無茶だ。あの鉱石は、ベテランのドワーフでも採掘に苦労するんだぞ」

「大丈夫。いい考えがあるんだ」


 鉱山に到着すると、多くの鉱夫たちが硬い岩盤を前に、つるはしを振るい、苦戦していた。

 俺は彼らに近づき、一つの提案をした。


「皆さん。もしよろしければ、俺の考えた方法を試してみませんか?」


 鉱夫たちは訝しげな顔をしたが、藁にもすがる思いだったのだろう。俺の提案に乗ってくれた。

 俺が提案した方法。それは、前世の知識……「火」と「水」を利用した、ごく原始的な採掘法だった。

 まず、鉱脈の岩盤を焚き火で真っ赤になるまで熱する。そして、そこに冷たい水を一気にぶっかけるのだ。


「じゅわあああああっ!」


 熱せられた岩が急激に冷却されることで、表面に無数の亀裂が入る。

 岩がもろくなったところを、つるはしで叩けば……。

 ガキン! と軽い音を立てて、今までびくともしなかった岩盤が、いとも簡単に砕け散った。


「お、おお……!」

「すげえ! 岩が、豆腐みたいに崩れていく!」


 鉱夫たちから、驚きと歓声が上がる。

 この方法を使えば、今までの何倍もの速さでスタール鉱石を採掘できるだろう。

 依頼は、見事達成。ギルドに戻って報告すると、ギルマスさんは腹を抱えて笑った。


「がっはっは! まさか、そんな子供の知恵みたいな方法でスタール鉱石を採掘しちまうとはな! お前さん、面白い奴だ! こりゃ、本物かもしれん!」


 ギルマスさんは上機嫌で報酬の金貨5枚を渡してくれた。これが、俺が冒険者として稼いだ最初の金だ。

 帰り道、リナが少し興奮した様子で言った。


「ユウト……お前、やっぱりすごいな。本当に、魔法使いみたいだ」

「だから、魔法じゃないって。ただの知識だよ」


 俺は笑って答えた。

 冒険者ギルドという新たな足がかりを得た俺は、これからさらに活動の幅を広げていくことになる。

 だが、それは同時に、新たな面倒ごとに巻き込まれる始まりでもあった。

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