面会
高伊志りく
面会
面会室の分厚いガラス越しに、二人の男が向かい合っていた。
午後の陽が、二人を隔てる透明な壁を透かして白く床を照らす。
一人は髪をきちんと撫でつけ、無駄のない仕草で椅子に腰かけていた。
その姿には、どこか他人を見下ろすような落ち着きがあった。
もう一人は無精ひげを伸ばし、落ち着きなく指先を動かしている。
「……久しぶりだな」
先に口を開いたのは、きちんとした身なりの男だった。
身体を少し乗り出し、ガラス越しの相手をまっすぐ見つめる。
「ああ。まさか、こんな形で会うとはな」
無精ひげの男は笑おうとしたが、唇は引きつったままだった。
彼は、自分の顔がどんな表情をしているのか分からなかった。
一瞬の沈黙。
背後で看守が、無表情のまま腕時計をちらりと見る。
小さなカチカチという音が、密閉された部屋の空気を切り裂いていた。
「警察は、殺人と断定したってことだな」
身なりの整った男が、感情のない声で言った。
「で、でも、それは——!」
無精ひげの男は思わず立ち上がりそうになったが、ここが面会室だということを思い出して、慌てて腰を下ろした。
深く息を吐く。
「どうして、こんなことになったんだ」
その声には温度はなく、ただ事実を突きつけるような冷たさだけがあった。
ガラスの向こうで、時計の秒針がひとつ進む。
無精ひげの男は視線を落とし、手を握りしめた。
「お前さ。あの日、現場に行ったんだよな?」
身なりの整った男の声の調子が変わる。
ゆっくりと背筋を伸ばし、椅子の上で反り返るようにして目を細めた。
「見たって言ってる人がいるんだよ。警察が来る前に、お前が家の前にいたって」
無精ひげの男の喉が鳴った。
何かを言いかけたが、声にならない。
再び沈黙。
静寂を割くように、看守の声が鋭く割り込んだ。
「時間だ」
身なりの整った男の肩が小さく揺れて立ち上がり、軽く一礼した。
ガラスの向こうで、無精ひげの男もゆっくりと立ち上がる。
男は一度だけ振り返る。
相手が何かを言おうと唇を動かしていたが、もう聞こえなかった。
白い光の中、扉の鍵が回る音だけが響く。
カチャリ——。
その音とともに、身なりの整った男の両手に手錠がかけられた。
面会 高伊志りく @takaishi_riku
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