カナダ産豚肉は妻を欺けるのか

たなかみふみたか

カナダ産豚肉は妻を欺けるのか

 妻は豚肉にはうるさい。

 「安いものは美味しくない」という持論を持っている。

 曰く、「変なにおいがする」のだそうだ。わたしにはさっぱりわからないのだが。


 外国産は概ね駄目で、国産でも特定の、あるスーパーで扱っている豚肉は「くさい」らしい。

 それって、生産業者さんや、頑張って仕入れているスーパーの担当者さんに、失礼ではないかい?


 とにかく駄目なものは駄目なのだそうだ。

 これは彼女の経験則から出た結論のようだ。


 さて、近所のスーパーで買い物をするわたしは、豚肉をよく購入する。開店間もない時間であれば、前日からの売れ残りであろうか、値引きシールの貼ってあるものを見つけることができる。

 今朝も、衰えつつある足腰に喝を入れるため、歩いてスーパーへ向かったのだ。


 そう言えば、事前に入金してある、そのスーパーの系列でしか使えない電子マネーの残額が、そろそろ心許なくなっている。

 倹約しないと。

 そう考えながらお肉のコーナーへ向かう。--値引きシールはどこかいな?

 あった。カナダ産豚肉のパックに……


 このスーパー、オリジナルのブランド「美味豚」なる表示を、パック表面に貼り付けている。主に国産豚肉だ。妻もこの豚肉は文句なく食べる。

 ずいぶん前、妻と一緒に買い物に来た際、このコーナーでわたしは「カナダ産美味豚」を手に取り、妻に叱られた経験を持っている。それ以来、「国産美味豚」しか買っていない。

 しかしだ…


 同じ「美味豚」ブランドに違いがあろうか。スーパーの精肉担当者も馬鹿ではない。きっとブランドにふさわしい味であることを確認していることであろう。

 つまり、普通に買う「国産美味豚」より50円も安い「カナダ産美味豚(値引きシール付)」であったとしても、味に違いはないのである(たぶん)。


 わたしは、「カナダ産美味豚(値引きシール付)」のパックを手に取り、かごに入れた。


 なあに、バレるわけはない。


 わたしには確信があった。妻のあれは単なる気のせいなのだ。知らなければ機嫌よく食べるに違いない。



 さて、夕食の時間になった。

 念のためソースでしっかり味付けした野菜炒めを用意した。これにマヨネーズもたっぷりかける。そうそう、下ごしらえとして豚肉には胡椒もきちんと振っておいた。

 絶対にバレない。バレるわけはない。



 和やかな夕食が始まる。

 ふと、妻の箸が止まる。

 「なんかいつもの豚肉じゃないのでは?」


 ぎくっ!


 はたしてわたしは動揺したのであろうか? わたしの顔を見ながら妻は言う。

 「どうなの?」


 白状すべきか、とぼけるべきか。

 よし、とぼけよう。

 気のせいだと突っぱねよう。


 ……わたしは妻を欺けるのか。

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