荷物持ちの俺、勇者になびいた幼馴染に見捨てられる。だが最後に笑うのは俺だ

茶電子素

第1話 荷物持ち、今日も笑顔

俺の名前はカイ。

地味すぎるモブ顔。

ヒョロガリ。戦闘力ゼロ。

勇者レオンのパーティーでは、

荷物持ち兼雑用係。


魔力タンクでもなければ、

付与術士でもない。

ましてや器用貧乏ですらない。

ただの、便利な荷物持ち。


それでも、俺は幸せだった。

なぜなら、パーティーのメンバーは全員、

俺の幼馴染だったからだ。


剣士のリナ。

僧侶のナミ

魔導士のエリ。

弓使いのサラ。

昔から俺のことを「カイくん」と

呼んで慕ってくれていた。


……はずだった。


「カイくん、今日も荷物ありがと。ほんと助かる〜」

リナが笑顔で言う。

だがその口ぶりは、どこか上から目線だった。

昔は、俺の手を取って

「一緒に頑張ろうね」と言ってくれたのに。


「カイくん、ポーションの補充は、ちゃんとやってくれた?」

ナミに声を掛けられる。

俺が頷くと、「そう、それならいいけど」

とだけ返された。

その言葉に、感謝の色はなかった。


「カイくん、魔導書は湿気に弱いから、ちゃんと乾燥剤入れてね。前みたいに失敗しないで」

エリの言葉は、

優しげな声色なのに、妙に刺さる。

“前みたいに失敗”

──あれは、彼女が置き場所を間違えたせいだったはずだ。


「カイ、矢筒の位置ずれてたよ。次から気をつけて。レオン様に迷惑かけたら困るし」

サラの言葉に、

俺は「ごめん」と頭を下げた。

“レオン様”

──その呼び方に、胸がざわついた。

昔は、みんな俺の名前を呼んでくれた。

今は、レオンの名前ばかりが飛び交う。


リナは、レオンの剣技を「美しい」と言って真似している。

ナミは、レオンの好みに合わせて髪型を変えた。

エリは、レオンの言葉を引用して魔法理論を語るようになった。

サラは、レオンの射撃スタイルを「かっこいい」と言って真似している。


俺は、ただの荷物持ち。

それでも、俺は笑う。


「よし、今日も頑張ろう。俺は俺の仕事をするだけだ」

そう言って、俺は荷物を背負った。


その背中に、

誰かの冷たい視線が突き刺さった気がした。

気のせいだろう。


……そう思いたかった。

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