イワシを食べる女子が好き

浅川 六区(ロク)

960文字の超短編(1分で読める物語)

「ねえ菜々美ちゃんあのね、昨日の放課後、私がたまたま噴水の公園を通ったら

 ロク君が一人で本を読んでたから、間違えたフリしてベンチの隣に座ったの」

「ほう。“間違えたフリ”と言う状況はよく分からないけど…」


「で、せっかく二人きりだし、思い切って“どんな女子が好きなの”って、訊いてみたんだよ」私は昨日の出来事を菜々美ちゃんに話した。

「おおっ、夏ちゃん、ついに踏み込んだんだね。それでそれで?」

菜々美ちゃんは私の話に食い付いて来た。


「うん…私はてっきり、“優しい人”とか“可愛い人”っていう、男子お決まりの“ぼんやり”とした答えが来るのかな、って思ってたのね」

「うんうん。男子にありがちだよね、その“ぼんやり”とした回答」

菜々美ちゃんは、お弁当を食べる手を止めて私の話にもう夢中だ。


「でしょでしょ。でもほら、ロク君はそこらにいるようなワゴンセール男子とは一味違うわけよ。答えもクールでさ、“いわしを頭から内臓も全部食べられる女子”とか言う訳よ…」

「い、鰯の頭と内臓って…あの苦いところ?」


「そう。その苦いところ。あんな所、食べる人なんてこの地球上に居ないよね」

「うん。絶対に居ない。アザラシとかなら食べてるかも知れないけど」


「でしょー、でもロク君は本気でそう言ってるからさ…」

「えっ、も、もしかして夏ちゃん…鰯の内臓を食べたの?」


「う、うう…ん。た、食べようと努力はしたの。でもやっぱり無理だった」

「だよね…。あんなところは食べ物じゃないから、食べちゃだめだよ…」


「うん。それでも一口だけね、かじってみたの…。鰯の内臓のところをパクって…」

「すごーーい!夏ちゃん、凄すぎるよー。あんな苦いところを食べられる小学生女子なんて、ほこり高き勇者だよ、てかむしろアザラシだよ」


「あ、いや…アザラシではないけど…でも違うの。無理だったの。だから、一口かじっただけで…もう口の中が気持ち悪くて気持ち悪くて…、いちゃったの…」

「えっ、そ、そうなんだ…吐いちゃったんだ…」


「そう。オエェーーって、例えるならまるで、マーライオンのようだったよ」

「……。」


「あれ?菜々美ちゃん、マーライオンって知ってる?シンガポールの…」

「…それは知ってる」


「あれれ?…面白くなかった?”マーライオンのようだった”っていうオチ」

「うん。全然面白くなかった」



                             Fin

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イワシを食べる女子が好き 浅川 六区(ロク) @tettow

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