『詩 たび』

やましん(テンパー)

『詩 たび』


 なんだか分からないが、


 たびに出ようと、思った。


 衝動的に、バスに乗った。


 どこに行くバスかも分からない。


 季節は、冬になりかけていた。


 でも、ぼくの家のあたりは、まだ暑い。


 秋は、ついに、やってこなかったのだ。


 だから、


 山の方に行ったら、


 秋がいるかもしれない。


 もしかしたら、秋に埋もれるかもしれない。


 

 バスは、ひたすら暗闇を走る。


 自分がどこにあるか、


 それは分からない。


 もし、紅葉があったとしても、


 たぶん、分からないだろうな、


 時空のワープみたいだな、




 やがて、バスは、終点についた。


 財布を底まであさって、


 運転席の料金箱に注ぎ込む。


 『はい、足りました。ま、がんばれ💥👊😃』


 運転手さんは、たぶん、なにかを見抜いたのだろう。




 寒い。


 なんという、寒気カンキだろうか。


 あたりは、ちょっとだけ、


 小さな古くさい街灯に照らされている。


 そこは、もう、真っ白に埋まっていた。



 雪だ😃 雪なのか?



 しかも、全てが暗がりにおおわれていて、


 誰も人はいない。


 虚無の空間だ。


 憧れの空間だ。


 寂しい場所だ。



 降りたとこにある、バス停の時刻表をみる。


 もう、この先のバスはない。


 帰りのバスはあるのだろうか?


 無くったってかまわない。


 宿がなくても、かまわない。


 でも、気になる。


 反対側のバス停を探して、また、


 そこの時刻表をみた。



 ある。



 なんと、自宅に帰るバスは、


 まだ、一本だけあるではないか。



 はたして、ぼくは、


 また、バスに乗るべきなのだろうか?


 もう、乗らないことが、正しいのではないか?


 


 ふと、向こうをみると、


 なんと、薄暗い、小さな駅があった。


 

 汽車が走っていたのだ。


 

 マッチ箱みたいな駅舎。


 しかし、居るはずもなかろう、人がいたのだ。


 10人近くも?


 

 これは、ほんとうに、人なのだろうか?


 幽霊さんか、狼さんたちか、


 いや、駅員さんもいる。



 古びた時刻表には、


 このあと、特急が来ることになっているが、


 それは、はるかな知らない彼方に旅立つ汽車みたいだ。


 

 しかも、とうてい、お金がない。


 

 ぼくは、汽車には乗れないのだ。



 駅を後にして、ふらふらとさ迷った。


 駅員さんのアナウンスが、ふと、聞こえてくる。



 『こちらが、この、世界最後の列車であります。なお、本日、バス便は、すでにすべて、停止されました。駅員も退去します。』



 バスは来ないのか。


 だから、運転手さんは、


 『ま、がんばれ。』


 と言ったのか。



 ぼくの選択肢はふたつある。


 朝までここに居るか?


 カードを使ってでも、汽車に乗るか?


 しかし、銀行に残高は、もう、ない。


 

 シューベルトさんの『冬の旅』の旅人は、


 お金の話しはしなかったろう?


 むかしは、それで良かったのだ。


 でも、いまは、お金なしには、


 旅も出来ない。



 それは、新しい拘束だ。


 じりじりと身を縛る、


 見えない力だ。



 ぼくらは、ひたすら


 お金に縛られている。



 うん。


 だから、これは、最後のたびなのだったな。



 でも、もし、『この世の最後の汽車』に乗って、


 ぼくは、いったい、どこに行けるのだろう。




 結局、ぼくは、また駅に向かうことにした。


 駅前で、タイマー写真を撮ってね。




 世界各地に宇宙からミサイルが飛んできていたなんて、


 もう、ぼくの家はないなんて、


 分かるわけがなかった。




        







 


 




 


 


 

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『詩 たび』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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