第11話 : ハントレス館長殿の調査結果






「そもそもこのミシェルさんに襲いかかってきたのが、

 フィフス姉の毒蛇手ヴァイパーアーツベースのアーツ使いで、しかもあのテンプレア騎士団の生き残りらしいって事からこっちは始まってんのさ」



 なんやかんやで空の旅、エルフでアーツマスターなミシェルさんはそんな事情です。

 とりあえず、みんなとお茶片手にテーブルで向かい合って話してます


「あの、これ私聞いても良い話ですか?」


「別にええじゃろ。お前さんは間者スパイなんぞ無理だ」


 今回の話に関わってる人間のイグニス爺さんと、関わってないけどまぁ成り行きなあったばかりの猫耳獣人フレデリカちゃんもまぁ聞いとけ。



「やっぱテンプレアか。

 ったく、てっきり北の魔王領だけの話かと思ったぜ」


 そして、目の前のスタイル抜群美人ハイエルフ、ことサモハンは、


 私より、ここの誰より今回のことに詳しいっぽい。



「どういう意味?」


「‪……‬事の始まりは、1ヶ月前だ。

 アタシの博物館の企画展からさ」


「あ!」


「博物館?」


「おっと、流石にイグニスお爺様も博物館の存在はご存知でしょうし、私が補足しますね。

 こちらのサリア・モルガーン様は、アーツマスターであらせられる前に、著名な考古学者で冒険者なのです!

 この大陸の未踏査ダンジョンだった物のほとんどを奥までマッピングしたのはモルガーン様以外は伝説の勇者一行か、そのどちらかと言われております」


「そういうとかっこいいけど、コイツは頭もいいし真面目に研究してる反面、金にがめついのはマジだしね。

 いくらダンジョンからお宝持ってったのさ、ダンジョンのハゲタカさん?」


「ったく、何言ってんだユグドラシルの中のアタシの同族魔法使い並みに世間知らずかチビミシェルがよ。


 まず、ダンジョンは天然のモンスターの巣の場合が3割、残り7割は古代の人間が、それでこそハイエルフの爺さんがガキの時分にはすでに文明作ってた謎の奴らが残した物ばっかだ。


 当然、そこにある異物は歴史的価値がアホ高ぇ!


 田舎から来た学も教養もねー冒険者ごときがテメーの腕自慢に使っていいもんなんてほとんどねーの!

 だから、アタシはアタシの博物館でちゃんと展示してまーす!!

 ま、そういうものの維持費や研究費で半分使ってるのは事実だけど。魔王はケチくせーからな!!まそりゃこっちの王国も同じか!!


 まぁ不満なんぞ無限に出るけど、今一番の不満はな?


 1ヶ月前に、アタシの博物館に強盗が入りやがったんだよ!!


 しかもフル装備の甲冑の騎士どもがだぞ!?魔法使いの支援付き!!!

 どこの騎士団だバカヤロー!!


 って思ったら、なんと昔ボコったテンプレア騎士団の鎧と装備だったわけよ。


 金で変えられねー、いくつかの発掘品を盗まれてしまうわ、アタシの教え子も部下も怪我で今医者に診てもらっててよ‪……‬


 アイツらの治療費アタシ持ちだぞクソが!!」


「出してあげてる辺り人情的なんだか、嘆いてる辺り守銭奴なんだか」


「どっちでもいい〜〜〜〜〜わそんなん!!

 ‪……‬けどな、アタシには大事だが魔王領にとっては些事のはずの事に、マネコ兄貴姉貴が動いた。

 流石に一人で騎士団全員相手にするのは骨でさ、15人ボコったボコった所で部下っつーか弟子のみんなをたくさん引き連れて来てくれたんだ。

 一応現役の魔王四天王の一人が直接来たんだぜ?

 つまり、この出来事はだいぶ前から、魔王様とその配下は知ってたらしい」


「マネコ兄貴姉貴が?

 ‪……‬そりゃ、自称『四天王最弱』だし矢面によくされるって、80年前に会った時ぼやいてたけどさ」


「魔王四天王、とりあえずだいぶ偉いのは知ってるが、動くのがそんなにやばいのか?」


「王国で言えば、公爵の地位の人間が直接戦場の指揮を取るべく動くレベルです」



「‪……‬ところで公爵って偉かったか?」


 ‪……‬ちょっとイグニスお爺さーん?


「あー、イグニスお爺様にとっては感覚として難しい所ですけど‪……‬一応貴族って王に従ってはいますが、結局は土地と権力がある物です!

 小さな国の王。その中で大きな土地を収めている王が公爵という位です。

 最悪、王相手に謀叛して刺せます!」


「ほー‪……‬まぁつまり王相手にも物申せるぐらい偉いやつか。

 そんなのが直接?」


「ただ事じゃないのさ。ただでさえマネコ兄貴姉貴は仕事嫌いなのに」


「‪……‬で、アタシはちょうどさっきまで、奴らの拠点の調査と、後その他諸々の諸経費の取り立てしてたのさ」


 ジャラッと音がする小さな袋。

 あ、サモハンが作った異次元袋じゃん。



「奴ら、金や装備はあちこち散らばらせてやがった。

 だが、どうも目的に関することだけは異様に証拠を消してやがる。

 用意周到なことだな。

 で?そうなるとアタシの次の目的地は同じってわけだ。


 九蛇城砦に行くんだろ?」


 そして、ふとそう尋ねる。


「うん」


「‪……どんな場所かは聞いてるか?」


「イグニス爺さんが知ってる。

 そこから出てきた人だし」


 は、とサモハンすごい驚いた顔。


「アンタ、あそこまず入るだけでも死ねる場所だろ!?

 どうやって出てきた!?!」


「ああ。

 まぁ、そのなんだ。

 ‪……‬『絶技』がたまたま使えてな」



 ああ。

 サモハンも納得。



極大拳ウルティマアーツの絶技かよ。

 アレ、初代のライト兄貴以外に使えるやついたのか」


「そう言えば、そこのフレデリカ嬢ちゃんのアーツが覚えるのが難しいと言われてたが、俺のアーツの絶技よりは簡単じゃろうて。


 アレは、意地悪の極みだ」



 確かにね‪……‬ところで、


「‪……‬フレちゃん、絶技って言葉知ってるんだ」


「ふぇ!?」


鷲獅子拳グリフォンアーツの絶技、奥義を超えた秘伝の技が出てくるのは、第4を超えた最終段階、その先だ。

 多分私らみたいな派生じゃないアーツマスターは、

 いや、派生の派生でもアーツマスターぐらいしか使えない『絶技』の言葉が出てくるのは‪……‬」


「‪……‬た、たまたま師匠が口走っただけですよ??

 あの、内容とかは知らないですよ???」




 ‪……‬‪……‬‪……‬



 あーもう、嘘ついてる以外に何も感想出ないレベルの大嘘ついてる顔〜



 てっきり、心の片隅で演技が上手いどこかの間者かって思ってたのが吹き飛ぶレベルー。


 じゃあなんで、隠すんだろ?


 ‪……‬‪……‬まぁ、このバタバタしてる必死な嘘、尊重してあげよう。サモハンもイグニス爺さんも、そんな顔でフレちゃんを見てた。



「‪……‬極大拳ウルティマアーツの絶技なら納得だな。

 通りで最近『8匹』に減ったわけか」


「減った?」


「わ、私がご説明します!!」


 と、話題変えのために叫ぶフレちゃん。


「九蛇城砦とは、多種多様な9匹の巨大な蛇の魔獣達が纏わりつく巨大で堅牢な要塞です!!

 常にその魔獣の襲撃に怯えながら、罪人達は生活している場所なのです!」


「おー!詳しいじゃんフレちゃん!」


「えへへ‪……‬北の歴史も専攻にとっていたので〜」


「まぁ、そうなんだけど。

 最近8匹に一時期減ってたんだよ魔物がな。


 あそこが刑務所として使われる理由が、入るのも出るのも至難の業だからだわな。


 基本は、囚人は古代の転送魔法陣使って入れられてる。


 あそこに入った住人に課せられた罰は二つ。

 死ぬ覚悟で魔獣の襲撃に耐えて過ごすか、

 凶悪な魔獣を打ち倒して出るか」


「‪……‬‪……‬いや、逃げる手段もあるにはある」


 ふとイグニスお爺さんがそんな事を口に出す。


「この船の船長のルイスがどうやって出たか知ってるか?」


「知ってるけど、半分幸運だろ。

 二度とは使えない空の道だ」


「じゃあ、地下の遺跡は知っとるか?」


 イグニスお爺さんの言葉に、おぉと驚いてすごく悪い笑みになるサモハン。


「てっきり、堂々と上を歩いてきたのかと思ったら。

 ますます素敵だイグニスさんよ?」


「俺もあそこは長いからな。

 抜ける方法ぐらい知っとるし、あそこであったんだあのゴルゴーンの尼さんにな」


「なんだよ遺跡って?」


 二人で盛り上がるなよ寂しいぞ〜?


「‪……‬もしや、『エキドナ神殿』?」


「知ってるのかフレちゃんや!?」


「えっと、北の歴史も専攻してました‪……‬」


「どこの学校か知らんけど相当勉強頑張ったな〜?

 アタシの博物館に欲しいわ〜、真面目に」


「で?サリア・モルガーン博物館長様??

 さっきから知らね〜単語並べて頭いいアピール辞めろやコラ!

 エキドナって、あの魔物の女神様なのは知ってるけど!!」


「そうなのか!?てっきりすごい化け物かと思っとった!」


「コラコラ、エキドナ様はアレで女神イデア様の長女でメタクソ偉いぞイグニスさんよ。

 ついでに言えば、この世の命ある物を生み出した生命の神。

 この世の魔族、魔獣、その他魔物も産んだ怪物の母。

 競走と繁栄の象徴である半分蛇の魔女神。


 その住まう神殿は、地下にあり‪……‬

 でも今まで場所が分からなかった。


 なぜなら、その神殿自体が忌むべき地。

 よほどの魔獣以外近づかない場所‪……‬


 まさか、その真上に九蛇城砦なんていう最悪の流刑地ができるとは」



「‪……‬‪……‬オイ、半分蛇って‪……‬下か?上か?」



 ‪……‬!!

 その質問まさか!?


「爺さん、エキドナ様とも会った事あるのかよ!?」


「‪……‬‪……‬やっぱりどっちも、か」


 そりゃあもう、みんな揃ってお口あんぐりする事実よ。


 ────神様ってのは滅多に顔を出さない物。

 むしろ、異世界から来た転生者のほうが顔見てるレベル。お父さんもそういう意味じゃ激レアさん。


 ‪……‬いや一人、めっちゃ会う神様知ってるけどそれはまた別の時‪に‪……‬


「神様に直接会って、生きてられる奴は運がいいよマジで」


「‪……‬いうほど、恐ろしいヤツでは無かったよ。

 ただ、アイツのせいで俺は50年殴り続けた1匹と決着つける羽目になったが」


「何サラッと怖いこと言ってるの?」


「そこは追い追いな。

 重要なのは、秘密の入り口を知りたいということだろうて」


 なるほど、サモハンの狙いはそれか!


「結論から言うともう使えん。

 ぶっ壊してしまった」


「「いや何やってんだぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!?!」」


 ああああああああ!?!!

 旅の目的おじゃんかよぉぉぉ!!!


「どうすんだよ!!それ以外のルートなんて、直接九蛇城砦に直接乗り込むしかないじゃねーかよぉぉぉぉぉぉぉッッ!?!」


「それってまずいの!?」


「この超強いイグニスさんが、50年間いたんだぞ?」


「‪……‬ちなみに、イグニスお爺さんってその九蛇城砦の囚人の中じゃどのぐらい強かった?トップ?」


「‪……‬‪……‬俺ぐらい強い奴は、あのゴルゴーンの尼さん以外にも色々いたぞ。

 腕っぷし自慢の自称最強共が、毎月‪……‬毎週些細なことで喧嘩しとったな。


 俺は、若い自分は技こそ極められん未熟者だが、馬鹿力と身体の頑丈さだけは自慢でな。


 魔物相手も、そういう自称最強相手で、ようやくこの極大拳ウルティマアーツの真髄にちょっと触れるぐらいにはなれた。


 ま、決着つかんあたり、俺もまだまだよ」


「‪……‬‪……‬サモハン、つまり最悪そんな地獄から、フィフス姉のいる場所に行こうってこと?

 あの、ヤバいって聞いてたけど、想像の2倍やばくね?」


「だから、アタシもマネコ兄貴姉貴と遺跡側から向かうプランA立ててたんだよ!!

 ‪……‬あの姉貴兄貴の弟子に才能は確かな手に負えないやつがいて、罪犯してそこに入ったんだよ。


 出てきた時どうなったと思う?

 もう別人ぐらい心入れ替えてたらしいぜ。

 しかも弟子やめてお花屋さんしてる」


「カカカ、そら多分中堅な腕っぷしのやつだな!」


「その中堅が逃げる道潰して笑うんじゃないの!」


「半分はエキドナ女神様のせいだから、許せ」


 かーっ!いい気なもんだねぇ!!


「‪……‬いざってときは最強のお爺さんに頼るからね!

 若いんだから働け!!」


「まぁ、俺ほどあそこに詳しい奴もいないか。

 数日か、長いと一月か知らんが、随分早く帰る事になるとは思わんかったが」


 ったく緊張感ないなぁ!!まぁそんな腕ある達人なのもあるからぁ?


「‪……‬ったく、せっかく神殿でちょっと欲しいものがあったのになぁ‪……‬」


「本音出てるし」


「‪……‬‪……‬なんにせよ、お前らそんなとこに行くって自覚はしろよな。

 で、だれが金出してくれんだ?」


「オーデンの王様」


「やったぜ!儲けもん!!

 ‪……‬それと、早けりゃもうあの王国の事だぜ、魔王とも話しつけてるだろうな」


「1日で?」


「この飛行船より速いルートなんてごまんとあるさ。

 ただ、どこにテンプレアが来るか分かんないから、


 ミシェル。お前だけ別のルートにしたんだろうよ」


「逆に襲われない?」


「襲うならとっくにやってるか、あるいは‪……‬」


 ふと、サモハン何か考え込む。


「‪……‬‪……‬サモハン、アンタ頭いいのは良いけど、何か思いついたならバカな私達にも話してよ」


「‪……‬なぁ、まぁほぼ部外者のフレちゃんも、ちょっと聞けや。

 最悪のパターンの備えに関してよ」


 そう言って、サモハンが話したのは‪……‬‪……‬






           ***



 ─────空の旅は順調。


 夜。ミシェル達の乗る飛行船は、目的地の半分を超えた、北と南の境目の山脈と森の上空へ入った。



 その後ろに、すー、と近づく影がある。



「ブクブク太った豚みたいな膨らみが空を飛ぶ時代ですか。


 ────空は高位の存在の為の物」



 それは、杖にまたがるハイエルフの魔法使いの姿。

 いつかどこかで、テンプレア騎士団の女と会話していたフェレーナという物。




「邪魔」



 光が収束し、ごく一般的な攻撃魔法が放たれた。

 無詠唱。そしてあまりに短い溜め。


 それだけで、彼女の腕前が恐ろしく高いことが分かる。



 だが、その攻撃魔法を防ぐ障壁が現れた。



「───は?なんですこの防御魔法?」



「────そりゃ驚くわな!

 来るって分かってりゃ、防ぐのは簡単だ!!」



 響く大声。飛行船の下にある後ろデッキ。

 そこには、銀髪のエルフが────おそらく、月下に照らされた肌の白さから、ハイエルフがいたのをフェレーナは確認した。



「ああ、同族で魔法使いがいましたか。

 だからなんです?」


 容赦のない、二発目。



「オイ、お前。それこっちに撃って言い訳かい?」


 え、と言った瞬間、自分の乗る杖の後ろからの衝撃を感じる。



「失礼!!」



 そこにいた金髪の獣人に、フェレーナは思いっきり蹴られた。




          ***

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