虚空を生きた逃避行
はくまい
虚空を生きた逃避行
1話.僕の逃避行
「何もかもつまらない。生きている意味が分からない。」
僕はそんな人間だ。
なぜこう思うようになってしまったのか、もう理由が沢山あって語り尽くせない。
たくさんの人に裏切られた、恩を仇で返された。
全て、【理不尽に】
まあ、例えばちょっとだけ話すと
次の日学校に行ったら何故か全員に無視された
僕をスカウトした人間に真剣に向き合ったら、話が伝わらず突然才能がないと中傷された
流石に僕は怒りと憎しみでいっぱいになった
僕の人生はずーっと、憎悪で生きている。
息をするように憎しみが産まれてくる。
所詮他人のために、と優しくしたところで、相手は当たり前だと思い感謝なんてしない。
むしろ自分に対して喧嘩を売ってくるような奴らもいる。
学校でも友達関係なんてそんなもんだ
職場でだってみんな偉い人に媚びを売る。
そして得られる賞賛や仕事は果たして本当に喜べるのか?
「結局僕に好意を寄せたって、簡単に捨てられるんじゃないか。その程度じゃないか。」
こんな人生に、流石に笑いが零れてしまう。
自分自身の人生を自分自身が嘲笑っているのだ。
僕にはそんな理不尽な奴らが理解ができない。もうこんな世の中に疲れていた。
そんな僕はやりたい事が何も無くなっていた。
日々の日常をこなすだけ。頭では色んなことを考えられるけれど、動くのには体力がいるし、現実的に無理な事も多い。
だから僕は、地球を出て、違う星に旅に出ることにしたのだ。
人生を振り返っても、楽しいことなんか何一つ思い浮かばない。
今のままじゃこの先の未来にも期待できない
僕には失うものはもう何も無い。
振り返っても地球にいる存在意義を感じないのだ。
これは自分なりの、現実逃避であり、自分探しでもある。ちょっとした逃避行だ。
この逃避行で、生きる意味が少し見つかるといいな。
そんな期待を少し抱いて、僕は地球を今から出発する。
僕は思いっきり息を吸って吐いた。
ふと振り返る。
そこにはまだ憎しみや怒りで作られた黒い影がそっと揺れていた。
僕は宙を見上げて深呼吸した。
黒い影が揺れている、それでも…
僕はグッと息を飲み
少しの光を目指して1歩踏み出した。
2話.出発
自分はもちろん一人で地球から離れる。
簡単に違う星に行けるようになった世の中だが、あまり違う星に行こうとする人はいない。
きっと地球が一番心地が良いと思っている人が過半数なのだろう。
疑問を抱いても、当たり前で諦める人が多いのだろう。そして今の世の中は、分からなかったらAIがどうにかしてくれるので、わざわざ自分から赴いて違う星に行かなくとも行った気になれるのだ。
自分はそんな事はどうでもいい。
とにかく地球から離れて見たかった。
だから出発する。
持つのは中くらいのリュックだけ。
何かあった時ように、何か持って帰って来れるかもしれないし、あと、お金もちょっと、何か困った時に使えるかもしれない。
僕の全て、そう思うリュックを強く握りしめた。スマホや地球と連絡が取れるものが無いのは少し怖いけれど、僕は人に頼らない。スマホにも頼らない。そう決めたんだ。
リュックを強く握り締めた手は緊張で湿っていた。
でも、何故か大丈夫だと思う。
きっとこの逃避行には意味がある。
光に少しでも手を伸ばせれば、掴めたら、それでいいんだ。
…という事で、僕は地球を旅立つ。
次に会う時はきっと、別の星であるでしょう。
それでは、さようなら。行ってきます、地球。
そして僕は、宇宙の星へと繋がるエレベーターに乗ったのだ。
3話.1つ目の星-承認欲求の子-
気づいたら1つ目の星に着いていた。
とっても小さな星
人1人が立ってもう1人が立てるかくらいのギリギリの大きさ。
星の形は普通に丸いのだけど、なんだか少しピンクがかった色をしている様な気がする。
そこに1人蹲っていたのは、とっても可愛らしい20代くらいの女性。
服装は、フリフリのピンクのブラウスに、黒のタイトスカート。厚底を履いてヘアアレンジも凝ったピンクのツインテール姿。
なんだか、すごく既視感があるなあ…と思った。
昔よく流行っていた気がする。
その女性は、僕を見つけると目を輝かせてズカズカと近寄ってきた。
「ねぇ、新規の子?私の事可愛いって言って?いいねって押して?そして沢山拡散して欲しいの!私という存在を世の中にもっと広めてちょうだい!」
僕はとっても傲慢な人だな…と思いつつも、一旦苦笑いだけ返した。
「昨日は2万のいいねがきたの!あたしってやっぱり可愛いわよねっ!でも今日の投稿は6000しかいいねが来ないの…だから辛くて辛くて泣いちゃってた。あたしって毎回そんなに価値のある人間じゃないってことなのかな?あたしを支えてくれるのは数字だけなのに…」
僕は言った
「あなたは、いいねの数だけが自分の価値だと思っているの?」
すると女性は急に怒り出したように僕に言う
「何よ!あんたもいいね押さないでスルーするタイプなのね!こんなに頑張って自撮りしたりいい場所に行って素敵な写真を撮ったりしているのに、それに価値がないって言うの!?あたしの人生を否定しているわけ!?あんたは低評価人間よ!」
僕は、この人は数字ばかりで話が伝わらないな…と思ったので
「君にはもっと違う魅力があると思うよ」
とだけ言い残し、次の星に行くことにした。
第4話.2つ目の星-本当にやりたいこと-
僕は1つ目の星に疲れて、すぐにエレベーターに乗って次の星へと進んだ。
「いいね、拡散、数字……そんなものに囚われて自分をめちゃくちゃにしている事に気づかないなんで、ある意味怠惰だな。」
僕はそんな事を1人呟きながら、次の星を見た。
……凄く大きな星だった
凄く大きすぎて、その星に居た住民はとても、とてもちっぽけに見えるほど小さく
1人PCの前へ向かいデスクに座っていた。
僕は星に降り立った途端にびっくりしてしまった、地面の硬さに…
まるでコンクリートのような星だった。
この星は硬くて足が痛い…しかも色がくすんでいる…灰色のような世界だ…
僕は恐る恐るデスクに座る星の住民に近づいた
住人は、丸々と太った見た目をしているが、身なりは凄く整っている。
綺麗な灰色のようなスーツに、高級そうな腕時計を左手首に付け、髪はワックスでガチガチに固めているのか、とてもツヤツヤだった。
住民は僕の存在に気づくと、首に付けたこれもまた高そうなグレーのネックレスをジャラジャラと鳴らしながらこちらを向いた。
「おや?君も安定した生活と大きな仕事が欲しくてやってきたのか?」
僕は首を横に振った
「いや別に。違います。」
おじさんはキーボードをカタカタさせながら、凄く早口で捲し立てて来た。
「なんだと?じゃあ何しに来た?俺だって好きでやってるわけじゃないさ。大っ嫌いだ。だが安定のためなら何でもやる。これを片付ければ地位と金が手に入る。周りと差をつけられるんだ。遊んでいる暇はない。効率が全てだ。君が来たせいで邪魔だ、出て行ってくれ!」
僕は、ふと聞いてみた。
「あなたは好きでこの仕事をやっているんですか?」
おじさんは舌打ちをしながら睨みつけ、こう言い放った
「好きなわけないだろ!だが安定のためならどんなことだってするんだよ!当たり前だ!当たり前のことも分からないのか貴様は!?」
……分かり合えないや。
僕は一瞬でそう悟った。
好きでもないことに全力を注げる事を僕は否定しない。寧ろ社会を回してくれているのは彼らなのだろう。
でも僕が求める生き方はこれじゃない。
「だからこの星の地面はこんなに硬いんですね」
そう言って、僕は踵を返した。
色を失った世界。硬い地盤。
安定は確かに価値をもたらす。
だが、その重さは自由を押し潰す。
――秤の上で揺れる僕の心に、答えはまだない。
そんな事を思いながら僕はまたエレベーターのボタンを押した。
5話.3つ目の星-数字に囚われたら-
僕は死んでも嫌だな…
次はもっとユニークな人がいて欲しい。
こんなに技術が発達していて、誰でも旅ができるエレベーターがあるって言うのに、全然旅行客と会わないな…
世の中の人達はそんなにそら(宇宙)に興味が無いのか
地面だけ見つめて、現実を見続けているつもりで、虚構を眺めてる。
欲しいものや欲しい答えが目の前にあるのにそれにも気づけない。
【見てるフリ】【知ってるフリ】が上手だもんな
だから宇宙も知ってるフリで全てを凌駕しようとしてる。
……気づけないって可哀想だ。
そんな事を考えていたら次の星に止まった。
―――次の星は
………なんだろうこの名前そのままな感じ…
ステラキューブ、とでもいえばいいのだろうか。
星が、星の形だ。黄色くはなくだけ、どちらかと言うと青や緑がかった星。
降り立ってみるとそこは地面にも何か小細工がされているようで、歩く度に床の線が歪み数字が浮かび上がってくる。
普通のコンクリートみたいな地面なのに、歩く度にコケてしまいそうだ。
そんな星に住んでいたのは白衣を着て、特殊なメガネをかけた細身の男性。
30代後半くらいかな…?
恐る恐る近づくと、男性はすぐさま僕の存在な気づき、おしとやかに話しかけてきた。
「珍しい。お客さんとは。いかがなさいました?ここに貴方がたどり着く確率は生きていて48%でしたが、たった今100%になりましたね。」
……何を言っているんだろう。この人は昔から僕のことを知っていたのか?
「ああ、君の心の幸福度は今5%程度だね。生きてて辛いでしょう。どうしてまだ生きているんですか?死んでしまえば楽なのに。死んでしまえば100%楽になれます」
……相当ヤバいやつに出会ってしまったかもしれない。
僕の幸福度は5%死ねば100%
この科学者っぽい人からしたら、死は幸福になるらしい。僕は思わず疑問符を言葉にした。
「あなたの幸せとは一体なんですか?」
そう聞くと星の住民は迷わず答えた
「全てを数値化する事だよ。」
「……全てを数値化、ですか?」
「そう。全て数値化すれば、幸せか不幸せか数字で見えてくる。不幸せの数字が低いってことは、それは不幸な事なんだよ。逆に数字が高ければ高いほど幸運だ。幸せなんだ。私の平均数値は今51%ってところだから、正直生きるか死ぬか迷っている。」
「あなたの言う平均的な数値とは?」
「今までの人生の成功率。そして今後の未来の成功確率だよ。」
人生の成功率……?今後の確率……それは妄想と何ら変わりなくないか……?
「未来については、生きてみないとわからなく無いですか……?」
「私にはわかる。全て数字に見える。だから、低い数字とは不幸せ。不幸せなのなら、消してしまえばいい。数字を消して、新しく始めるんだ。」
僕には分からなかった。どうして数字が高ければ幸福なんだろうか?人生の成功は幸せか?
失敗は不幸せか?そんなことないだろう。
人生は失敗して学び、成長する。
転んでもまた立ち上がるのが人間だろう。
未来への成功率なんて、いくらでも自分自身で変えられるはずだ。
数字に縛られて人生を諦める方がどうにかしている。数字が低ければ不幸せ、という決めつけがどうにも気に入らない。誰が決めたんだそんなルールは。
僕は自分の数値が低かったのもあり、少し憤りを感じていた。
「あなたは、全て数値化すると言っていますが、頭がいいんですか?」
「私のIQは680だよ」
「……あなたには人間の本質は分からない」
きっとかけ離れた頭の良さも、1週回ればバカと変わりないのかもしれない。
ここの星の住民が本気でこれを本心と言うのなら、数字に縋り、もはや考えることを放棄しているのと同意義な気がした。
「君は体重も軽くて細身だし、不健康だね。未来の数値も33%だ。やり直した方がいい」
「……では数値が50%を切った時、あなたはどうするんですか?」
白衣の男性は迷わず言葉にする
「そんなの簡単さ。死んで数値をリセットさせるのさ。」
「…………そうですか。」
狂っている。この世はゲーム感覚じゃないんだぞ。残機がある訳でもないのによく簡単にそんな決断を下せるな。
そんな数字にばかり頼っていたら余計に不幸せだろ。
僕は今すぐここから出発したくなった。
最後に一言だけ星の住民に話す
「僕の人生はあなたから見たらずっと50%以下だ。でも、全てが不幸だったわけじゃない。」
気を取り直して次の星に行こうと思い、再びエレベーターに乗り込む。
エレベーターの扉が閉まる直前、床に浮かんでいた数字が一瞬だけ「∞」の形に歪んで消えた。
未来の成功率なんて、本当は誰にも測れないのかもしれない。
最後に見た星の様子は、誰もいなくなったかのような静けさだった。
6話.4つめの星-娯楽と飽きと傲慢さ-
とても不愉快だった。僕の人生を数字で全否定された、そんな気分だ。
こんな旅を続けていて、本当になにか光があるんだろうか?
こんな極端な人達ばかり……どうしてもっと自分を客観視できないんだ……
そんな事を考えているうちに、4つめの星に到着した。
4つめの星は割と大きめだった
しかし、ものすごくごちゃごちゃしている。
色もカラフルで、物も沢山落ちている。今までの星とはガラッと変わった雰囲気を感じた。
ちょっと、面白そうだなと少しだけ期待してる自分がいる。
少しの期待を胸に、エレベーターから1歩踏み出した。
そこにいた住民は、とても小柄で小学生みたいな見た目の女の子だった。
服装も髪色も派手で、一色に染まっていない、カラフルな見た目をしている。
そして、手にはスマホやゲームを持っていた。
「ん?あー!キミキミ!あそびに来てくれたの〜??アタシと一緒にあそぼーよー!もーどれもこれも飽きちゃって、ちょうど新しいあそびを探してたんだよね〜!!」
驚くほど馴れ馴れしく絡まれた。僕は少し躊躇しながらも、子供っぽい女の子を放置して泣かれるのも面倒だと思い、少し明るめの声で返事をした。
「君はここでずっと遊んでいるの?」
「そう!アタシ楽しい事なんでも好きでさ〜すぐ手出しちゃうんだよね!でもそれと同時にすぐ飽きちゃうの!ゲームも髪色もファッションも、最近の流行りもぜーんぶやってるんだよ?でもダメなんだよね〜すぐつまんなくなる!最初は大人数であそんだりもしてたけど、それも飽きて疲れちゃった!」
凄いな……この子は色んなジャンル全てを網羅しているのか……純粋に感心してしまうと同時に、なんだか可哀想だなと思った。
「じゃあ、僕と遊んでもすぐ飽きちゃうんじゃない?」
「そうなの!もーねー分かってる!何したって結局終わりが来るし、どんだけ楽しくても楽しくなくなる時期が来る。食べたら残んないのと一緒。でもお腹すくでしょ?だからまた探すの!ずーっとその繰り返し。アタシだってこの生き方が虚しいなってことくらいは理解してるつもりだよ!でもやめらんないんだもん!」
「そうか…でも、食べにくいな〜とか美味しくないな〜とか言うものもあるんじゃないの?ほら、食べられないものだってあるよ、人の感情とかさ。」
「ん〜だって、好きって言われたっていつか好きじゃなくなるし、アタシが好きでも、アタシが死ぬまで好きだって確証は持てないし、別のものの方が好きになっちゃったりするし、世の中好きなことはいっぱいあるから、ひとつに執着していられないでしょ?」
そういうことじゃない気がするけどな、と思いながらも、この子が言っていることも分からなくもない。
世の中のものは全て消費されていく。新しいものが出ては消え、若いうちに沢山チヤホヤされても、老けたら捨てられるような業界だっていくつもある。
この子は、その消費者の象徴みたいな人だ。
「もうお兄さんと喋るのも飽きた!楽しくない!楽しくないものは見ないし捨てる!楽しいものしか見たくないもん!じゃあねお兄さん!面白くなってからまたアタシに話しかけてよね!」
悪気は無いように見える。ただ本当に楽しさや娯楽を求めているだけなようだけど、やっぱり少し可哀想だな……と感じた。
同情はできないけれど、僕は少し哀れんでいた。
「キミにも何か一つ、大切なものが出来るといいな……。」
一瞬しか話していないのに、そんな願いが水滴のように口から零れ出た。
追い出されたのでこの星を出るしかない。
ごちゃごちゃした星は今見れば、マンガやゲーム機、今まで流行っていたモノたちばかりだった。そしてその中にちらほら、友人からの手紙や自分の手作りの紙飛行機なども落ちている。
こんなものまでも消費として扱われてしまうのか、自分で作ったものでさえも……
こうして目に見えて捨てられていると、心にくるものがあるな……
この世に無限なんて無いのかもしれない。
でも、自分の生きてきた経験は、他人からの言葉は、飽きるとか、そう言う類のものじゃないと思うけどな……
僕のしてきた事も、周りからしたらすぐ忘れる。そんなものなのだろうか?
でも、目見に見えて残るものじゃなくたって、思い出や成功は色褪せないと思うけどな。
それも、どうでもいいと消費してしまうんだろうか? それは、本当に可哀想だ。
そんな事を考えながらまた次の星に僕は移動した。
7話.5つめの星-商人の手引き-
今までの星でまともな住人に出会ったことがない。どうしてこうも偏りがすごいのか……
おかげで僕のリュックの中は空っぽのままだった。
「地球の人々も、一人一人みたらこんなものなのかな……」
エレベーターが止まる。開いた瞬間に思わず目を瞑ってしまった。
「……ッ」
な、なんだ……何が起こった?ま、眩しい……?
なんと次の星は黄金に輝き、まるで一般人が想像する金星のような見た目をしていた。
金の中に入ったらこんなに眩しいんだろうか……
星に足を踏み入れると、ジャラと音がする。足の踏み場も良くなくてフラフラしてしまう。
「これはなんだ……?お金!?」
この星は全てお金でできている……!?
すると住人が僕に気づいたらしく声をかけてきた
「なぁ〜に?また新たなお客さんかしら〜?いらっしゃいませ〜〜!」
なんだろう、商人か?
眩しくてよく見えなかったが、よく見たらそっくりそのまま見た目が商人です。という感じの人がたっていた。よくアジアの方で見るタイプの商人だ。
頭には金色にギラギラと輝く星のティアラをつけており、手にもたくさんの宝石が付いた指輪を嵌めている。
「アナタはなにをお買い求めで?それとも何かお宝を売りに来てくださったのかしら??はわぁ〜楽しみですわ〜!」
商人は手を叩きながら僕をキラッキラの目で見つめてくる。
流石に売りに来たわけでも買いに来たわけでも無いと説明した方がいいだろうか。
「いや、えっと、あの……僕は星の旅行をしているだけで、この星の事は何も知らなくて。」
「あら〜そうなの?じゃあよくうちの商品を見て言ってくなんまし〜!ぜひぜひぜひ!!ほらほら!!」
僕は急に手を引かれ、商品が並んでいるであろう棚に連れてこられた。
そこに並ぶ商品はどれもキラキラしていて、大きいものもあれば小さいものもある、普通の宝石店よりはちょっとキラキラしすぎてるかな……って感じの店。
「どうでしょうどうでしょう??どれがお好みで??」
「えっと……これらはどれも高すぎて僕には手は届きません。」
「あらっ、そうなの〜?アナタ見た目、とってもキレイだから、そのお洋服とリュック合わせて8000キラで購入してあげてもいいワ♡どう?そうしたら安いものなら買えるわよ〜」
「え、でも今服を買われたら、着る服が無くなるんですが……」
「あらっそうだった!でもあなたのその服は普通だったら1000キラくらいの金銭価値なのだけど、ワタクシが善意で8000キラにしてさしあげてまして!
そしたら今のお洋服、1000キラの見た目から、8000キラの見た目にグレードアップできましてよ!なんてお得なんでしょ〜うアハハッッ」
この旅をしてきてわかってきたことがある。
この星の人はきっと、お金の価値で生きている住民なんだろう。
「全ては損得で考えるべきでしてよ!価値の高いものの方が素晴らしい!お金は沢山持っていた方が美しい!
人生が豊かになって心も豊かになる!こんなに素晴らしいが存在しますこと〜!?
ワタクシの心は豊かですから、あなたの1000キラ価値を8000キラにしてあげるって言っておりまし。
この条件、読まないのなんて損でしかないですワ〜!」
「えっと、でも僕はこの服、気に入ってます。母が誕生日に購入してくれたもので、思い入れもありますし。」
「思い出……思い出にも確かに価値はあるかもしれません。ですがお金にはなりませんワ。
お金の損得で考えるのなら絶対ワタクシに売っていただけた方がお得ですのよ〜!」
「いや、僕はお金より、大切なものを探しにきたので。それでは失礼いたします。」
「ちょっと〜!お金の価値は誰がなんと言おうと変わりはしないですのよ〜!」
遠くから声が聞こえる。僕は少し不快だった。何故だろう。明らかに僕の心は動いていた。
8話.6つ目の星-無音の音-
再びエレベーターに乗り、さっき、なぜ僕は不快に思ったんだろうと考えていた。
僕ももしかしたら、人をあんな風に推し量っていたかもしれないと思うと背筋がゾッとする。
思い出の価値とお金の価値……どちらも同じ価値があるとは思えない。
価値とは人それぞれで違うものだろう。
無機物だろうが有機物だろうが、目に見えなかろうが、手に取れなかろうが、人の記憶には価値がある。
僕はさっきの商人をみて強く思った。
そして次の星に往く。
次は……
エレベーターが開いた瞬間、その星はまるで儚くて、今にも消えてなくなりそうな、そんな真っ白の星だった。
雪でも降っているのだろうか……?と思うくらい、星は静かで、なんの音も聞こえない。
人は……居るのか?そんな時、声が聞こえた。
「この星も、いつかは消える、儚く、そして自然に、知らぬ間に。見向きもされず、色も付かず、ただ静かに。しかし孤高に、意志を持ち、ただ釈然と、去っていくのだ。」
なんだ……詩?奥まで歩いて行くと、白のワンピースに身を包んだ、白髪の少女が、この白い床にある丸い石に座り俯いていた。
靴は履いておらず、裸足だった。
「ん……アナタはだれ?ここに、何か用?」
「えっと……旅に来てて、エレベーターが止まったのがこの星だったんだ。少し居てもいいかな?」
「あ……そう。うん。いいよ。」
「ありがとう」
「………………。」
この星の子は、全然喋らない。
真っ白な石や雪のような柔らかい綿以外何も無い。音もどこかに吸い込まれるような、吸音材を貼った部屋にこもっているみたいな。
ただ、微かに甘いような、優しい匂いがする気がした。
僕はさっきの詩のような言葉が気になって、自ら星の少女に話しかけた。
「あの、さっき言ってた言葉、この星はいつかは消える……みたいなのあればどういう意味?」
「……嗚呼、あれば私の心の詩。そのままの意味。」
「なるほど……貴女は一人でここにいることを望んでいるの?」
「ううん。別に望んでない。でもここにいる。私の言葉は、他の人には届かないみたい。だから悲しくて、一人でいる事を選んだだけ。アナタは私の言葉が理解できる?」
「いや、まあ、あまりよく分からなかったですけど、ちゃんと聞けば少しはわかるかと。」
「そっか、じゃあ聞いてくれる?」
星の少女は少し笑顔になったような気がした。
表情も声色も余り変わらなくて、感情が無いように聞こえるが、よく耳を傾ければ何となく雰囲気を察することはできた。
「私は地球に住んでいた。地球でお仕事をして普通に生活をしていたの。でもある日、心をどこかに落としてしまったみたい。気づいたら感情が分からなくなっちゃってた。
だから仲の良かった友人に話したの。
私は心を落としてしまった、どこにあるか一緒に探してくれないか?って。でも、その友人は、私が何を言っているのか分からなかったみたい。だから離れて行っちゃった。きっと、変な事を言い出して、頭がおかしくなっちゃったんだって怖くて逃げ出したんだと思う。
私は、この世に絶対なんてないと思うの。だから、私の心は探せば見つかると思うの。でも誰も私の言葉を聞かなくなっちゃった。
壊れたラジオみたいに、私の声も皆には理解不能になっちゃったの。だから、私はこの星を作った。もうこれ以上、心の居場所を失わないように。自分の中だけには、心の戻ってくる場所を守っておきたくて。」
「そうか、だから貴女は感情的な話し方はしないんだね。」
「そうなの?私の中では凄く感情的なんだけど。でも、そう見えないなら本当に、本物の自分自身もどこかに置いてきちゃったのかも知れないね。」
「本物の自分……。貴女は、前の自分に戻ろうと思ってる?いや、戻りたいですか?」
「うん。戻りたい。昔の私は、とっても優秀で、できないことはほとんどなかった。楽しいことを楽しいと思えたし、嫌なことは嫌だった。でも今の自分は、何も感じない。だから元に戻りたい。」
「あの、僕の考えだけど、きっと、昔みたいに完璧に戻るのは難しいんじゃないですか?割れた鏡が元には戻らないみたいに、きっとあなたの心も1度落ちているから、元の場所に戻っても、昔と同じには戻れないと思いますよ。」
「……。」
星の少女は、また俯いて、また何かを言いたげに顔を上げた。
「……ううん。戻りたい。戻りたいの。私ならきっと、昔みたいに戻れる。だって皆に言葉が理解されないのは、今心がここにないからだと思うの。きっと拾って戻したら、またみんなに話が伝わるんじゃないかって。
だから私は、新しい自分にはなりたくない。
新しい自分は、きっと周りに受け入れられないし、私が1番受け入れられないの。」
「そうですか……。でも、今の貴女はもう、昔の自分とは違う自分になっていると思う。
貴女を受け入れないのは言葉が通じないからじゃなくて、心が通じてないからなんじゃないですか?だから……相手の言葉だけじゃなくて、心に耳を傾ける事が、心を取り戻す鍵になると思います。」
「……。」
「それでは、僕はこれで。次は地球で会えることを祈っています。」
どうしてこんな事を言ったんだろう。僕も何もかもどうでもよかったはずで、この少女と同じ未来を辿っていたかもしれない。
でも僕は、旅に出ることで、色んな星の住人の声に耳を傾けた。そして、皆納得が出来なかった。だから僕は自然と人の心について考えでいたのだろうか。
次の星を最後にしよう。このままでは、僕自身に会ってしまうのではないかと恐れる程、宇宙にはたくさんの人間がいる事がわかった。
しかも、個性の強い人達ばかり。
地球で上手くいかなかった人たちが、宇宙の星に住んでいるんだろうか……。
そんな事を思ってしまった。
9話.最後の星-バラの女性-
あの少女の言葉は、どこか儚くて、知らぬ間に僕の胸に積もっていた。しかしどこか気づきにくい、まるで雪のような言葉だった。
「僕自身も、元の自分に戻りたいと思っているかも知れない……」
今までの星で、1番何かを気付かされたような気がする。でもそのなにかはまだ言葉に出来ない。
そしてついに、最後にすると決めた星にエレベーターが辿り着いた。
扉が開いた瞬間、赤い薔薇がたくさん咲いていて、庭に白いテーブルと、質素なエプロンと赤い三角巾を付けた女性がこちらを待っていたかのようにたっていた。
「いらっしゃい!どうぞこちらに座って!ここまで長旅だったでしょう?どうぞどうぞ!」
「えっ」
僕は単純に驚いた。今までの星の住人で僕が来るのを待っていた人は一人もいない。
思えば皆自分に没頭して、僕が来たということに気づいていなかった。
「あら?どうしたの不思議な顔をして。何も取って食べたりしないからゆっくりしていってね。それともすぐ帰る予定だった?」
「あ、いえ。星の旅行をしていて、こんな対応されたこと無くて、ちょっとびっくりして……」
「あらそう〜確かに、星の住人はみんな何故か忙しそうにしているものね。でもここではゆっくりしていって!」
「ありがとうございます……!」
とても親切な方だ。なんというか、普通に。
今までの人々の個性が強すぎたのもあるのかもしれない。とても普通に感じてしまった。
でも宇宙の星に住んでいるという事は、今までの住人をみるに何か抱えているものがあるのだろうか……?
「はい、紅茶。あっ飲めたかしら?苦手だったら言ってね!」
「あ、いえ、大丈夫です!いただきます!」
とても明るくて気の使える人だな……
僕はこの人がどんな人なのか気になってしまい、僕から声をかけた。
「あの、すみません。僕この星の旅に出てから、個性の強い方々にばかりあってきたので、なんというか、あなたが自然過ぎて、ここで何をなさっているんですか……?」
「あら、私が自然だなんてそんな!でもわかるわぁ、宇宙に住んでいる人達って、何かを抱えている人達が多いの。住んでいてとてもわかる。って言っても私もその1人なんだけどねぇ!」
「え、そうなんですか?そうは見えないですが」
「うふふっありがとう!気になるでしょ?なぜ私が宇宙に来たのか。私はね、愛する人を失ったの。一生を誓った人だった。でも、思ったより早くお別れが来ちゃったのよね。……だからちょっと宙に逃げてきちゃったの。」
「そうだったんですね……悲しい思い出を思い出させてしまってすみません……。」
「いえいえ!違うの!悲しくて一瞬逃げちゃったんだけどね、逃げてきて気づいたの。
あの人と過ごした時間は、何も消えてない。
場所が違くたって、彼の生きた証や私の熱は消えなかった。だからね、場所は違くても今もあの人をずっと愛してるの。思い出達をこの星に連れてきて、お部屋をお花や綺麗なもので飾って、いつ彼が出てきても恥ずかしくないように。いつでも彼を思い出せるようにした。もう話せないけど、過ごした日々や私の今の想いは消せない。見返りがなくたって、なんの意味もなくたって、私がそうしたいからしてるの。ちょっとおかしいでしょ」
女性はえへへと笑って見せた。
そしてこう続けた
「思い出は消えないって美しいことばかりだと思うけど、もちろん辛いことも消えないわ。
こんなことして、気持ち悪いとか、頭がおかしいとか言われたもの。でもだからっていつまでもその思い出の記憶を繰り返したって意味ないの。全部含めて、今の私だから。
何か一つ抜けてたら今の私はここに居ない。
今の私を作るための思い出の欠片たち、何一つ消さないで、それを私は全て享受する。そしたらとても楽になった。退屈な話だったでしょ?ごめんなさいね。」
「いえ、そんな事ありません……とても、素敵だと思います。」
過ごした日々の記憶を全部受け入れて、今の自分を保っている……。
少し暗い話に聞こえるけど、少しの忍耐力じゃ耐えきれないほどの重みを感じた。
そして、彼への不屈の愛。早く旅立ってしまったとはいえ、彼が女性の姿を見れば、今でもとても幸せだろうな……。
「僕、初めて星の旅で、暖かな気持ちになりました。僕は何もしたいことも、生きる気力も無くて、それで何か光を探して星の旅行に旅出てきました。でも、星にいるのは癖の強い偏った考え方の人達ばかりで……
でも今あなたの言葉を受けて、思い返したらそんな人達一人一人、僕の思い出で、良く考えれば、得られるものが無かった訳ではなく、むしろ地球では考えもつかなかった想いが込み上げてきていたんだなって事に、気付かされました……。」
僕は女性の言葉を聞いて、無意識にも言葉が溢れ出てきていた。まるで涙のように。
「そうなのね。話してくれてありがとう。私の話も、あなたの人生の一部分になれたってことかしら?地球は広いけど、宇宙から見たら狭いのよ。
だからあなたが宇宙に出てきて光を求めたのは正解だったかもしれないわね。
でも、人生に不正解もないと思うの。あなたが私に会う前に地球に帰っていたら、きっと旅に出たのは間違いだった。と思うかもしれないわ。でも、今あなたが言ったみたいな事が、後から気付く機会が訪れるかも知れない。
そしたら、その日からあなたの旅路は不正解、間違いじゃなくなるの。だから、生きることに不正解なんてない。
やりたいことが無いから不正解じゃない。
生きる気力がないから生きる価値がないワケでもないわ。価値は自分で見つけるもの。
他人からのレッテルなんて、他人からの総評。自分の価値は、自分で決めるの。」
「……はい。ありがとうございます……」
僕の声は震えていた。
きっと暖かい母親とはこういう人の事を言うんだろうなと思った。羨ましい。でも羨んでいても仕方ない。僕は僕の人生なのだから。
「この旅路で見つけた価値を、僕は自分の記憶の財産にして、自分の価値を探していきます。」
「ええ、でもひとつ言うと、価値のない人間なんていない。そもそも人間に価値なんてつけるのが勿体ないと思うけど、あなたが地球に帰ってから見つけた新たな価値に、素敵な命が宿る事を祈っているわ。」
「はい。紅茶、ありがとうございました。あの、ひとつ聞いてもいいですか?」
「なぁに?言ってみて?」
「……また迷ったら、ここに来てもいいですか?」
「うっふふ。聞くまでもないわ。いつでもいらっしゃい!私はここでいつでも待っているから。不安になったら来る前に、まずは宙を眺めてみて。きっと何かが見つかるはずだから。」
「はい……!ありがとうございます!」
僕はひとつ見つけてしまった。新しい居場所、という所を。そして、新たな自分を。
「帰ります。ありがとうございました。」
「ええ、お気をつけて地球に帰ってね。また会えたらその時はよろしく!」
「はい!さようなら!」
僕はエレベーターに乗った。今までの中で1番軽い足取りで。
胸が熱くて、熱すぎて苦しい。喉が焼けるような、きっと、僕は涙を堪えていた。
こうして、僕の宇宙の星の旅は幕を閉じたのだ。
10話、帰還。
「良かったな、行って。」
不思議な不思議なエレベーター。
固定された概念で生きている人達に、一度は乗って欲しいエレベーター。
僕は沢山のものを受け取った。
それは、感情という一言で纏めるには物足りないほどの経験。
僕の未来は未だに分からない。ても、地球でまだやれることがきっとある。
「自分の価値は自分で決める……か……」
辛いこともまた自分を形成している一部分。
僕は楽しい経験はあまり無いけど、辛い経験の中で生きて居たからこそ、辛い経験をした者しか分からない感情がある。
そして、深く理解できるんだ。
マイナスは、マイナスなことだけじゃない。
他人の知らない領域の感情を知っているということは、それは人よりも得であり、幸せかもしれない。
この気持ちを利用できる何かがあれば。
「現実をしれたから、現実逃避ができた。現実逃避をしたら、現実が見えた。不思議だ。」
僕の求めていた光ではなかったかもしれない。
でも、霧がかかっていた脳みそが、少し晴れたような、晴れて太陽の光がさしたような、そんな気分。
確実に、旅の前とでは気持ちが切り替わっていた。
まだ、生きてもいいか。やりたいことがなくたって、いつか見つかるかもしれない。いや、今回の旅でひとつ見つけた気がする。
1つ目、もっとある魅力に気づけないこと。
2つ目、自分の心に正直に生きることの大切さ
3つ目、人の人生は数字では推し量れないこと。
4つ目、娯楽を消費するだけでは、提供する側も受ける側もすぐ心が麻痺してしまうこと。
5つ目、人間の価値はお金では測れないこと。
6つ目、人の心や言葉に耳を傾けることの大切さ。
7つ目、どんな自分も、今の自分を形成する一部になっていること。
振り返ればこんなに学んでいた。最初はそんな言葉や気持ちが湧き出ていたわけではなかったのに、実際はこんなにも気持ちが動いていたんだ……。
無自覚なだけで、実は案外、心は動いているのかもしれないな。
僕はリュック一つだけを持っていったけど、中身は空っぽなはずなのに、沢山の目には見えない感情の宝物が満杯に入っているような気がした。
「僕は……具体的にどうすればいいかはまだ決まってないけど、1本踏み出す勇気が得られた。」
静かな六畳間の1部屋で、天井を見あげながら、リュックを強く抱き締めて、僕は今後の自分への決意を口にした。
なんだが今日の夜空は、一段と輝いて、綺麗に見えた。
11話エピローグ(おまけ)
地球に帰ってきてから丸1日。
僕はいつもの生活の中に、新しい思想を持って一日を過ごした。
この世は可能性に満ち溢れていると同時に、夢を掴むことの難しさも漂っている。
ふと、白い星にいた女の子の言葉を思い出す。
「新しい自分にはなりたくない。
新しい自分は、きっと周りに受け入れられないし、私が1番受け入れられないの。 」
僕にも同じような感情があった。
昔の自分の方が生き生きしていた。戻れるなら戻りたい。
戻ったら、また前みたいにたくさんの人に受け入れられたりするのかもしれない。
でもそれが許されないのがこの地球という時間軸なんだ。
バラの星にいた女性も言っていた
「地球は広いけど、宇宙から見たら狭いのよ。」と。
宇宙から見たら、この世や、僕の人生なんてありんこくらいのちっぽけな存在なのかもしれない。でも、それくらいでいいかもしれない。
深く考えすぎるのもきっと、大事なものが雲に隠れてしまう。
僕は窓から星空を眺めながら、宇宙旅行の事を思い出しては、心が暖かくなり、時に鋭い言葉を思い出しては冷えきったりして、この矛盾のような霧がきっと人生なんだろうと考えていた。
感情には匂いがある気がする。
言葉には温度がある。
僕の言葉は今どんな匂いでどんな温度なんだろうか?
旅の疲れは雨に溶けて、明日にはきっと晴れて乾くだろう。
乾いた地面には何も残らなくても、確かにそこには水たまりがあった事実は僕が見ている。
その事実は消すことは出来ない。
リュックを開けても何も入っていない。
でも微かに宇宙で感じてきた甘い匂いが残っている気がした。
この虚空のリュックには目に見えないものが沢山詰まっている。
その荷物が多ければ多いほど重くのしかかってくるかもしれないけど、人生にとっては大切なものなんだ。
重すぎたららたまに取捨選択して、新しく入れ替えていこう。
知っている事が多い人生は、きっと少ない人よりも豊かで面白い。
こんなふうに思えるようになった僕に
少し誇りを持って。
明日は晴れると、祈って。
虚空を生きた逃避行 はくまい @haku_mai1031
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