森井まさとの記録 ④
ある休みの日のことだった、その日にもあの現象が起きた。目が覚めたまさとは地面に突っ伏しており、目の前には鼻息を荒くした父親が立っていた。そして何故か右頬が裂けるように痛かった。
「なんで言った通りのことができないんだ?おい」
何が何だかよくわからなかった。
(意識がない時間中に僕は何をしたんだ?とりあえず謝らなきゃ・・)
「ご、ごめんなさい・・・」
「何に対して?」
父親がすぐに詰めてくる
(こっちもわかってたら言ってるよ・・・)
「ごめんなさいお父さん・・・で、でも僕も自分で何したのかわかんな」
パンッ
左頬に思い切り平手打ちをされ、右頬と同じ痛みが走った。その後すぐにみぞおちを蹴り上げられ、呼吸が出来なくなった。父親はまさとの髪を掴み揺さぶりながら言った。
「死ね」
そう言うとまさとの顎を地面に叩き付けた。
その日の夜、夢の中でまさとは再びあの場所にいた。人数に変わりはなかったが、あの老人に変化があった。右頬が腫れているのだ。その時まさとは気づいた。意識がない時間、もしかしたらその時僕はこいつらと入れ替わっているんじゃないか?と。
首や背中が痛くなったの原因は、あの長身の人に変わったせいで、室内に首や背中が収まりきらず痛みになったんじゃないか、たまに突っ伏して服が汚れているのは、あの老人が別人格として出てきて僕が匍匐前進をしたからではないか、考えた。というかこれしか考えられなかった。
だがこれに気づいたときまさとはゾッとした。こいつらが増えていくと自分が自分ではなくなってしまうんじゃないか?現に新しくこの空間に人が増える度に、あの現象の起きる回数も増えている気がする。
まさとは学校に行くことが嫌になり不登校になってしまった。もしこれ以上自分の中に別の人格のようなものが増えてしまったら、もう止められない。人を傷つけてしまうかもしれない。
両親には元々やっていた家事以上のことをやるから休ませてくれと頭を下げてお願いした。母親がこれを喜び、不登校を承諾した。そしてまさとは一年生の後期から不登校になった。
この生活を続けて4年、まさとは五年生になっていた。担任の教師からの電話や面談などにも行ったが、なんとなくで誤魔化した。母親や父親も息子がおかしいと遠まわしに教師に伝えていた。
まさとは大人びていたのもあり、強制的に家事をさせているように見えないだろうと両親は考え、買い物も任されるようになっていた。夕方の買い物からの帰り道、家になるべく帰りたくなく、通りにある小さな公園に寄るのがまさとの中の日課になっていた。
その公園には幼稚園ぐらいの男の子が母親と共によく遊びに来ていた。その子はスキップをしようとしていたが、うまくリズムをつかめず上手にできていなかったため、時折足が絡まりこけてしまっていた。あまり運動神経がよくないのか、こける瞬間に咄嗟に手が出ず、顔からこけている。そのせいで顔は砂だらけだった。にもかかわらずその子はキャハキャハ笑っていた。母親も近くから見守っているが、何も手出しをせずニコニコしている。
(何故なにも手助けしないんだろう?スキップ自体に勢いがないから、顔からいっても怪我をしにくいだけで、傷が残ったらどうするんだ)
(もしかして虐待されているんじゃないか?実はあれをやらされていて、こっちに助けを求めているんじゃないのか?でも違ったら・・・)
この出来事がまさとの頭から離れることはなかった。もう分かっていた、何が起きてしまうのか。自分の中にこれ以上人を増やしたくはなかった。あの現象を起こす回数を増やしたくなかった。
ある日まさとが眠り、あの場所に行くと人が増えていた。そこには小さい子供がおり、その子は両腕がなく満面の笑みを浮かべながら、へたくそなスキップをしていた。顔は満面の笑顔であり、キャハキャハ言っていた。
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人格が出揃い、そして解放される
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