特番 真実の穴を覗け!放送編
時刻は午後9時、定期的に見る保険のCMが終わり放送が始まる。
画面は真っ暗だった。数秒後真ん中の部分を光が照らす。真ん中には等身大サイズの液晶パネルと司会を務めるキャスターが立っている。キャスターの服装はスーツ姿であり、ガタイの良さが際立っている。そして少し間をおいてから挨拶をし始めた。
「皆さんこんばんは、今夜司会を務めさせて頂く山本です。よろしくおねがいします。さて、今晩は今巷を騒がしている『森井家強盗殺人事件』について徹底解剖していきたいと思います。それでは今回お呼びしているゲストの方達の紹介です。」
光が全体に照らされ、スタジオの全体が見えてくる。中央に山本と液晶パネル。左側にはゲストたちがひな壇形式で座っており、椅子の前には横に長い白いテーブルとその上にそれぞれの名前と経歴がわかるプレートが置いてある。スタジオの雰囲気は全体的にうす暗い雰囲気であり、装飾も青を基調としたものが大半だった。
山本がそれぞれのゲストを簡単に紹介し終えると、再びカメラのほうを向き
「先ずは我々が取材をした映像からご覧ください」
そう言うと画面が切り替わり、マイクを持った女の人と電柱が映される。女の人がしゃべり始めた。
「いま私は森井琴音さんと森井光賀さんの腕が落ちていた場所に来ています。場所は涙石公園前の電柱の下。深夜だったこともあり周辺の民家からの明かりもなく、公園内の街灯も少ないため、腕が落とされた当時かなり暗かったであろうことがわかってもらえると思います。なお、発見されたときには地面も血で汚れていましたが、現在は警察によって清掃されているとのことです。そして森井家からこの現場までところどころに血液反応があったため、警察は犯人が森井家からそのまま腕を運んだとみています。それではその森井家を見てみましょう。」
画面が切り替わり森井家が前面に映し出され、手前に黄色いテープが張ってあるのが見える。
「こちらが事件現場の森井家です。現場を保護するため家の周辺には立ち入り禁止の黄色いテープが貼ってあります。庭から部屋に入る窓ガラスと二階にあるベランダの窓ガラスが割れており、犯人はここから侵入したと思われます。そして庭に置いてある換気扇。あそこにもたれかかるようにして森井まさとさんが凍死していたとのことです。まさとさんは凍死させられる前に、顔が変形するほど殴られ服を脱がされ動けない状態にさせられていたとのことです。」
すると画面が切り替わりインタビューするシーンになった。車椅子に乗っている人と、それを押している人。顔には番組のロゴマークが編集で張られており、顔がわからないようになっている。画角が代わりその人たちと対面するような構図になる。右側に『近隣住民の方達』とテロップが出る。佐藤はその人たちにインタビューを始める。
「1月8日の深夜、何か隣で物音とかは聞こえませんでしたか?」
それに対して車椅子を押している人が
「聞こえませんでした。あなたも聞こえなかったでしょう?」
編集により声が変えられており、人間がふつう出さないような高い声になっている。質問に答えた後、車椅子の人にも話しかける。その人も聞こえなかった、と反応する。
「なるほど~。では、お隣の森井さんはどのような方だったんでしょうか」
「どうって・・・いい人でしたよ?引っ越してきたときもちゃんとご挨拶に来てたぐらいだし。隣だけじゃなくて周りの人にも。ほら、最近の人はそういうのあんまりしないでしょ?」
「そうですね~、確かに少ないです。それでは何か森井さんのことを恨んでいるひとがいるなどのことも聞いたことないですかね?」
「そりゃ全員好印象だったかは知らないけど・・・私は聞いたことないです。」
「わかりました。では最後にもう一つだけ、森井さんの一人息子のまさと君に関してなのですが、何か気になることはありませんか?」
「うーん、挨拶は返してくれる子でしたし、いい子だったんじゃないですかね?」
そこで画面が再び切り替わり、再度森井家の前に戻る。佐藤が
「森井さん一家の印象は、それほど悪いものではなかったと思います。そんな森井さん一家がなぜこんな残虐な目に合わなければいけなかったのか、理解に苦しみます。それでは次は森井家の長男であるまさとさんの学校に行ってみましょう。」
画面が切り替わり真ん中に机をはさみ、手前側に佐藤が、奥側にスーツを着た女の人が座っている。学校の応接室のようだ。女の人の顔にも番組のロゴマークが貼ってあり、顔がわからないようになっている。女の人の下にテロップで、『まさとさんの教師を担当されたBさん』と出ている。佐藤が
「今回はインタビューにご協力いただきありがとうございます。早速質問なのですが、まさと君はどのような子だったんでしょうか?」
「真面目で勉強ができる子でした。」
「なるほど、交友関係はどうだったんでしょうか。」
「友達はいたと思いますけど、一人でいることが多かったですね。クラスの中に置いてある本などを休み時間に読んでいました。ただかなり前なので自信はないですが・・・・・」
「おとなしめの子だったんですね。それでは誰かに恨まれるということも・・・」
「そうですね、なかったと思います。」
「それでは最後に今回の事件についてどう思われますか?」
「悲しいですね。あんな風に殺されていい人間なんていません。早く犯人が捕まって欲しいです。」
「そうですよね・・・本日はインタビューにご協力いただきありがとうございました。」
鈴木が頭を下げると教師Bもそれに応じて頭を下げる。画面が切り替わり、学校の外でのインタビュー映像が流れる。目の前には男の人が立っており、佐藤がマイクを向けている。男の人の胸のあたりには『まさとさんの当時のクラスメイトMさん』と出ている。声は極端に低くなっており、顔はいつも通り番組のロゴマークで隠されている。
「当時のまさとさんはクラスでどんな存在だったのでしょうか」
「真面目で勉強ができる子ってイメージでしたね。大人びてた感じで。あまりちゃんと覚えてないですけど」
「まさとさんに特に親しい友達などはいたのでしょうか?」
「うーん……僕はあまり関わらなかったので分かりませんが……あ、一人いたような……ただうろ覚えなんで・・・なんとも」
「そうですか、それでは行事などでの様子はどうだったんでしょうか?」
「・・・・まさとくんいつからか不登校になったんですよ、なんでわからないです」
「あ、そうだったんですね。それは失礼しました。最後に今回の事件についてどう思われますか?」
「犯人は頭がおかしいと思います。あんなに残虐に殺して・・・警察も何やってるんだろうって感じです」
「なるほど、本日はインタビューにご協力いただきありがとうございました。」
鈴木が頭を下げるとMもそれに応じて頭を下げる。画面が切り替わり、学校の正門の前に鈴木が一人で立っている映像になる。鈴木を引きで撮り、話始める。
「なぜ今回こんな残虐な事件が起きてしまったのか、警察は何をやっているのか、この事件が解決されることを心から望んでおります。それではスタジオのみなさんよろしくお願いします。」
取材した映像が終わり、再びスタジオにカメラが戻される。何も映っていなかった液晶パネルには、被害者の名前,発見状況,死因,分かっていない謎などが整理されて載せてある。山本が
「はい、鈴木さんありがとうございました。それではここからは今回の事件についてもっと深堀していきたいと思います。まず私が気になるのは今回の事件は強盗することが本当の目的だっ・・・・・・・・」
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番組は二時間かけて徹底的に討論し続けた。意見がぶつかり空気が悪くなるときもあったが、それでも専門家たちと考え続けた。
しかし当然事件の真相は分からず、特番『真実の穴を覗け!』の視聴率は下がり続けていった。そもそも『幽霊屋敷連続自殺事件』を解決したこと自体まぐれなのだから当たり前である。そして一年後この番組が打ち切りになるのはまた別の話。
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