バース・アンレム〜AI都市の崩壊〜

ハルク・ドラウト

第1話 制御不能

午後1時。


突然オフィスに鳴り響いた警報は朝から感じていた不安感をさらに掻き立てた。


居ても立っても居られなくなり制御室へと繋がる階段を駆け上がる。


急いでコンピュータへログインしようとパソコンを起動するが、時すでに遅し。


画面に大きなエラーが表示された。



まずい、と内心焦りながらも俺(淋洞慎二りんどうしんじ)はイヤホンで制御塔・人工知能制御室にいる新瀬快八あらせかいやに繋ぐ。


『慎二〜?君の部屋からなんかでっかいサイレン音が聞こえたけど大丈夫そ??』


イヤホンの向こう側から聞こえてくる、けだるけで暇そうな快八の声に少し安心する。


「ちょっと助けて。」


『うい、会話のする暇も無い感じね。りょーかい。』


流石は幼馴染。

こう言う時だけだが、察するのが早くて助かる。


まあ、緊急でイヤホン使って連絡ったらほとんどないから分かったのだろうけど。



少しすると、イヤホンの奥からは珍しく焦っている感じのキーボード音がもの凄い速さで聞こえてくる。


『……っ。なんだよこれ。ガッチガチに組まれてる……。尋常じゃないな。潰しても潰しても瞬時にプログラムが組まれてる?あいつか……?』


快八の呟きを確かめる為に俺も周辺に設置されているコンピュータ機器を震えている手で起動する。


『あの…誰がやっているかなんですが…。』


小さく聞こえてきた喜多きたの声に、


『あ〜〜うん、察しは付いてるよ。』


と快八が返す。


「AI。多分その線が高いな。」


そう口にすると、自分の中で実感が湧いてきたのか、喉がだんだんと乾いてきた気がした。


「コンピュータへのアクセス権限こそは奪われていないけど、制御の権限がこちら側から綺麗サッパリになくなっていて。こんなことができる奴はそうそう都市に居ない。」


『うん。俺も同意見。あ〜ぁ〜、人間がやっていたら超神業なのにぃ〜。』


何故か少し残念そうな声で快八が答える。


横目で見ると、設置されているコンピュータは、ほぼ警告を示す赤色に染まっている。


幻聴だと思いたい。

下階にある自分の部屋からは電話音が聞こえてくる。内部の防音が皆無なこの建物は大きな音を立てるとすぐに響く。


『慎二、プライドなんか捨ててあれを早く押せ。もう手のつけようが無い。まさか苦情の電話の対処しているんじゃないだろうな?』


疲れ混じりの声に出来るだけ落ち着いて答える。


『うん、そうだね。』


快八が押せと言っているのは非常ボタンのこと。


これを押せば都内と支部に緊急避難指示がいく。



最高責任者に任命された時はこんなことになろうなんて夢にも思わなかった。


俺はボタンを覆っているカバーを持ち上げ、そのボタンを押した。

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