第7話 ランチはどこで?
さて、スペイン館を出て、そろそろお昼を食べるところに入ろうという話になった。行った事も、ほとんど聞いた事もないような国のパビリオンのレストランで、食べた事のない物を食べたい。4人の考えは一致していた。
まず大屋根リングの上へ上ってみた。そこで当たりをつけようという考えもあるし、ただリングの上からの景色も見ようという考えもあった。エレベーターで昇って、内側へと行く時、私が最初にリングに上った時と同じように、たくさんの木組みに感動して写真を撮る厚夫と二郎。
本当はてっぺんに上りたいが、時間を要してしまうので辞めて一段下を歩く。そして、二郎が気になるというアイルランド館、アゼルバイジャン館を見る為にエスカレーターで地上に降りた。
アゼルバイジャンには入ってしまうか?という雰囲気になったが、二郎が、
「入りたいんじゃなくて、ご飯を食べようと思ってるんだよ。」
と言ったので、一郎が反論。
「多分この辺はミルクが主体の食べ物になる。」
羊か?一郎は牛乳が苦手。多分羊の乳も苦手だろう。それで、私が行ってみたい所へと向かった。
静けさの森を抜け、いのちパークを抜けてヌルヌル館の所を曲がり、チェコ、マルタ、北欧、トルクメニスタン、バーレーンが並んでいるエリアへと歩いて行った。暑いし混んでいる中、それらのパビリオンを見て歩いた。これらはなじみの薄い国で、お料理も食べた事がない。それでいて全てレストランを備えているのだ。さあ、どれにする?
「地中海料理がいいから、マルタがいい。」
という一郎。確かに、トルクメニスタンとかだとまた羊のミルクか。分からんけど。それで、マルタ館へと行ってみた。
黒いパビリオン。けっこう人が並んでいる。ここに並べばいいのだろうか。レストランが横にあり、手前の方ではハンバーガーのようなものを売っている。
「レストランの列は違うんじゃない?」
という二郎。しかし一郎は、
「大体こういう所は、パビリオンに入って、その流れでレストランに誘導されるんだよ。」
と言う。既にいくつかパビリオンに入った事のある一郎が言うので、そんなもんかなと思った。しかし、二郎はちょっと納得がいかない様子。
「気になるなら聞いて来れば?」
と言うと、二郎はどこかへ消えた。大人になったものだ。二郎は二十歳だ。
「レストランの列はあっちだって。」
戻ってきた二郎が言った。
「でかした!」
まあ、マルタ館には入っても良かったのだが、とにかく暑いしちょっと具合の悪い私。並ぶのはなるべく避けたい。ここだと言われて並んだ先は、並んでいる人が4~5人。現地スタッフと思われる女性からメニューを渡された。
「英語話せた?」
二郎に聞いたら、こっちは日本語で話したけれど、英語で言われたと言っていた。
立って並んでいると、何度もたくさんのハンバーガーをお盆に乗せて運んで来る男性とすれ違った。あれも美味しそう。
「あれも後で食べれば?」
二郎が厚夫に言った。お父さんがああいうのが好きそうだという事がバレている。さて、メニューを見る。一番目に載っていたメニュー。日本語でも書いてあって、それを見てみんな驚き。
「ウサギ肉のスパゲッティ!?」
これにするしかない。4人ともそれに決めた。
少し待って案内された先は、どう見ても2人用のテーブルだった。そこにパイプ椅子を2脚通路に置いた感じの席。しかも、テーブルに置いてあるカゴの中には、おしぼりも、フォークやお箸も3つずつしかない。でも、厚夫がお箸で食べるからいいと言った。
厚夫と二郎が缶ビールも注文した。うちの子たちはお酒に弱いが、二郎はけっこう好きなのだ。私はお腹の調子が心配だから飲めない。そもそも具合悪いし、飲みたいとも思わなかった。ああ、ずっと万博に行ったら外国のビールを飲みまくるぞーと思っていたのに。でも、この時には飲みたいと思っていないので、残念にも思わなかった。まあ、飲むと足の疲れがどっと出るから、たとえ元気でも飲まない方が良かったかもしれないが。
ウサギ肉のシチュースパゲッティがやってきた。ウサギ肉は骨付きだ。けっこうたくさん乗っている。シチューというからスープパスタっぽいのかと思ったら、そうではなかった。ただ、オイルパスタでもないし、ちょっと伸び気味のスパゲッティだった。味は素朴で美味しい。ウサギ肉は、骨が細かくてちょっと食べにくさはあったが、味は鶏肉とそっくり。ただ、慣れないスパイスで味付けしてあった。カレーに入っているスパイスだと思ったから、恐らくクミン。
「ウサギは日本では食えないからなあ。」
パスタ料理が得意な厚夫は、この伸びた感じのスパゲッティには閉口していたが、だからと言って他のメニューを選べば良かったとは思えないようだ。ウサギを食べると言えば、ロード・オブ・ザ・リングに出てくるホビットを思い出す。私がその事を言ったら、厚夫も私と全く同じシーンを思い出したと言っていた。
それにしても、万博価格。確かに珍しい物を食べたのだから仕方ないが、あの伸び気味パスタで2500円はやっぱりちょっと高いかも。けれども、ずっと食欲のなかった私が全部食べられたのだから、良かった。
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